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「状況確認はこれで出来たとして、貴女の今後の事に戻ろう。」


 シルヴェイン王子が話を戻して、さてこれからレイナードをどうしようという話になりました。


「レイナードが魔王の魔力を隠していたという話は、今はまだ公にはならない方が良いだろう。少なくとも、賢者を捕まえるまでは。」


 これには、父と一緒に頷き返します。


「では、レイナードが女性になった理由についてどう口裏を合わせておくか、だが。」


 言ってシルヴェイン王子はこちらに目を向けて来ました。


 恐らく、こちらの意見を尊重してくれようとしているのでしょう。


「幾つか誤魔化す手立てはあると思うんです。誰かが言ってましたが、魔法暴走で変な魔法に掛かってしまってとか、呪いに掛かったとかで、レイナードのまま女の子になってしまって、一生そのままコース。それか、私が実はレイナードの双子の妹で、夜逃げしたレイナードと入れ替わってて、この1月は姿くらましの魔道具を身に付けてたのが、さっきの事件で解けたとか。」


 並べ立てみますが、どれにも2人は微妙な顔をします。


「最終的には、君が異世界から来た事は陛下にも明かす必要がある。となると、双子の妹設定はやめておくべきだろう。いつかボロが出る。」


 確かに、この世界での常識が無さ過ぎる事で、綻びが出て来るのは間違いないですね。


「レイナードの身体である事は隠さない方が血筋の問題としても無難だろう。異世界からレイナードの魔王の魔力を相殺する為に神が呼んだ救世主だったというくだりを神殿辺りから神託でもさせれば、一番信憑性があるのではないだろうか。」


 父が神殿に神託でもさせればと、権力者らしい中々黒い発言をしてくれましたね。


 でも、概ね嘘ではない筋書きなので、一番それが自然な落とし方かもしれません。


「どうだろうか? 貴女の意見が最優先だ。私達はそれに最大限に合わせる努力をする。」


 シルヴェイン王子が真摯な目を向けて語ってくれます。


「そうですね。確かに、明らかな嘘はしんどいですから。異世界から魔王の魔力を相殺する為に呼ばれて魂だけ舞い降りたところ、身体が魂に引きずられて女性化したってことにしましょうか。」


 無難な落とし所で返事をすると、2人はホッとした顔になって笑みを返してくれました。


「それならば、身体の上では間違いなく我が子だから、貴女を私の娘と堂々と呼んでも許されるだろう。」


 父も何処か嬉しそうな顔になったので、これで行く事にしましょうか!


「呼び方だな。これから君は、本当の自分の名前を名乗るべきだろう。名前を聞いても良いだろうか?」


 シルヴェイン王子に訊かれて、呼ばれる事のなくなった自分の名前を記憶の奥から引っ張り出しました。


「レイカ。市井イチイ怜樺レイカです。」


「イチーレイカー?」


 固有名詞だけに翻訳が上手く行かないのか、馴染みのない名前にシルヴェイン王子は聞き取れなかったようです。


「私個人の名前はレイカ。家の名前がイチイって事になりますね。」


「そうか。では、レイカ殿だな。」


 シルヴェイン王子と確かめ合ったところで、父に視線を移します。


「レイカ殿、改めて宜しくお願いする。愛称はレイカでも宜しいが、貴族風に名前を改める事も出来ると思うのだが、どうなさりたいかな?」


 確かに、身体ごと転移したマユリさんとは違って、ランバスティス伯爵家のレイナードの身体が女性化しただけの外見で、レイカという名前はミスマッチかもしれないです。


「支障が出て来そうなら、何か長い名前の候補をお願いします。」


「うむ、何か考えてみよう。」


 どうやら新しい名前を名乗ることになりそうですね。


 レイカを略称に出来る名前って、ちょっと楽しみですね。


「では、改めて整理すると、レイカ殿はレイナードの身体に舞い降りた聖女殿で、魂が身体に馴染んだ事で女性化した。レイナードの身体に降りた理由は、後々決着が付いてから神殿から発表されるように根回ししておこう。それまでは、理由はシルヴェイン王子殿下預かりとして伏せられる事にする。」


 ここまでは、無難な流れですね。


「これで異存がなければ、レイカ殿には一度ランバスティス伯爵家に来て貰えないだろうか。家族と家人に紹介させて欲しい。その上で、住む場所は王都の屋敷に用意する部屋でも良いし。別邸で気に入る場所があればそちらでも構わない。出来る限りで便宜しよう。」


 とここまで話して下さった父ですが、シルヴェイン王子が引きつった笑みを浮かべます。


「伯爵、それは難しい。貴方がレイカ殿を御息女として扱う気持ちになってくれているのは良い事だと思うが、彼女には今少々複雑な事情、というか飼育物がいてだな。」


 言いながら、シルヴェイン王子はこちらの膝の上に目を向けました。


 お膝の上ではお利口に座り込んでうつらうつらするヒヨコちゃんの姿が。


 少し身を乗り出して覗き込んで来た父が、ヒヨコちゃんの存在に気付いて固まりました。


「・・・気の所為かと思っていましたが、それは魔物の雛か何かですか?」


 シルヴェイン王子に問い返す父の声が乾いています。


「魔獣ハザインバースの雛鶏だ。何故か彼女が親鶏に託児されている様子だ。」


「・・・あぁ。ここ数日、魔獣が王城に降りて来ているとかいう騒ぎは、ここが発信元でしたか。」


 言いながら、微妙に残念そうな顔になる父からはそっと目を逸らしておきます。


「それだけじゃない。サークマイトにも懐かれて飼育していてな。とてもではないが、今の状況下で第二騎士団ナイザリークから他所には移せない。」


 そうなんですよね。


 コルちゃんとヒヨコちゃんの問題が解決しない限り、第二騎士団ナイザリークからは離れられないんでした。


「・・・しかし、レイカ殿は女性だ。男だけの騎士団宿舎に住まわせ続けるのも、少々心配ですな。」


「・・・そうだな、この容姿だからな。変な気を起こす者でも現れたら・・・。これは、隊長達の意見も聞いてみた方が良いだろうな。」


 微妙な顔になってこちらをチラチラ見る2人には苦笑いです。


「レイナードさんが美人なのは、お父さんの遺伝ですね。」


 そこはきっちり責任転嫁してみると、父は少し苦い顔になってから、ふと目を細めました。


「そうだが、女性になった所為で、あれらの母親だった1人目の妻に、目元がそっくりだと気付いたよ。」


 そこにはほろ苦いような寂しさと共に、確かに愛情が窺えたような気がしました。


「じゃあ、その奥様の為にも、エセ賢者探しには全面協力して貰えるんですよね?」


「勿論だ。何があろうと、探し出す!」


「私もだ。全面的に協力しよう。」


 そこを3人で確かめ合ったところで、外から扉が叩かれました。



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