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「では、貴女はマユリ様と同じく異世界の方だと言われるのか?」


 半信半疑な顔付きだが、口調は穏やかに父が返してきます。


「ええ。中身はそうです。あちらで生きて来た記憶も知識もあります。何なら、マユリさんとお話させて貰えれば、マユリさんが証明して下さるんじゃないかと思います。」


「・・・ですが、貴女はマユリ様よりは現状を受け入れておられるのか、ご自分の事もしっかりと話される。」


 そこは、じっくりと一月潜伏させて貰った成果もあるんじゃないでしょうか。


「多分ですけど、向こうに居た私はマユリさんより10歳位は年上で、ここで一月過ごしてこちらの状況も少しくらいは把握出来ているから、その余裕ではないかと思います。」


「マユリ殿より10歳も年上だったのか?」


 シルヴェイン王子の食い付きどころが少し不明でしたが、頷き返しておきます。


「ええ。私向こうでは28歳でしたし。独り立ちして相応の地位で働いてもいましたから。社会を知っていますし、大人の知恵も少しくらいは身に付けています。」


「・・・成る程。道理でしっかり受け答えされる訳ですな。」


 折角の父からの褒め言葉は、頷いて受け取っておくことにします。


「では、既婚者でいらしたのでは?」


 この世界の常識では、28歳女性は結婚していて当たり前なのでしょう。


 これには少し口元が苦くなりますね。


 これもあちらなら、セクハラ発言とも取れますよ。


「あちらでは、結婚適齢期が遅めで長いんです。こちらと比べると、医療が発達しているので寿命も長く。女性の出産が30代くらいまでは普通に行われます。特に高齢出産だとも思われていない風潮があります。ですので、まだ未婚でした。」


 これには、2人とも驚いたようです。


「そのような世界があるとは。」


 父は驚きが口から出たようですね。


「その話、少し気分が良くないのでもう終わりにして頂けます?」


 そこはきちんと言及しておくと、ハッとしたように2人は咳払いして話題を変えてくれました。


 中々紳士的な人達です。


「ええ、つまり貴女はそちらの世界では相応の地位を得て働かれている自立した女性だった。が、ウチのレイナードが魂の入れ替えを行った為にこちらに来てしまわれたと。それは、貴女のご都合として問題ないことだったのでしょうか?」


 整理しつつ問い掛けてくる父は、流石は財務のやり手次官殿ですね。


「いいえ。全くの寝耳に水で、いきなりの上、事前の意思確認もありませんでした。気が付いたらレイナードさんの中に居て、第二騎士団ナイザリークの玄関で従者のハイドナーさんがストライキを起こしてらっしゃいました。」


 にこやかに、だがはっきりと言い切ってみせると、目の前の2人は、はあと息を吐き出した上、額に手を当てています。


 ご心労お察ししますが、それ以上の衝撃と苦労が、こちらにはあったんですよ。


「何はともあれ、貴女には本当に申し訳ない事をしてしまったようです。息子に代わって深くお詫び致します。」


 言って、父が深々と頭を下げて下さいました。


 まあ、当然とも思いますけど、もう本人さんには会う術もありませんから。


「本当に済まなかった。記憶喪失を装った貴女の気も知らず。大人な貴女の対応に甘えて、様々なご苦労をお掛けしてしまった。」


 シルヴェイン王子もここ一月の色々を思い出しながら、それは深く反省して下さっているようです。


 シャレにならない色々もありましたが、今となっては渇いた気持ちしか湧きませんね。


「それで、元に戻す術はあるのでしょうか? それならば、息子の都合の如何に関わらず、なんとしてでも手を尽くす所存です。」


 父の低姿勢が気の毒に思わなくはないのですが、その方向性に先がないのが残念ですね。


「片道通行だそうです。元には戻せないと。先程本当の最後にという事で、レイナードさんとほんの少しだけ言葉を交わした際に言われました。エセ賢者さんも焦ってましたから間違いないのでしょうね。」


 少し冷たい言い方になってしまいましたが、こちらもここは怒って良いところだと思うんですよね。


 父とシルヴェイン王子が絶句して物凄く気まずい顔になっています。


「つまり私は、これからもここでこの身体で、生きて行くしかなくなりました。お二人に直接の非がないのは分かっていますが、責任取って何とかして下さい。」


 本日の主張で一番大事なところを口に出しましたよ。


 立ち直りが早かったのは、父の方でした。


「勿論だ。貴女さえ良ければ、私の娘として暮らして頂きたい。一生不自由がないように、財産の分与も考えるし、息子達にも貴女には誠意を持って親切にするように言い聞かせましょう。教育や職も必要ならば私の力の及ぶ限りで整えると約束します。それから、もしも結婚をお望みならば、相応の家柄の人柄も良さそうな若者を必ず探しましょう。」


 出来る限りの誠意を見せてくれるつもりのようですね。


 こうして話してみると、レイナード父の印象はレイナードの記憶の中の印象とは随分と違うように見えます。


 もしかして、内外の顔を持つ人だったりするんでしょうか。


 それとも、あくまで幼いレイナードの抱いた心情が多分に反映されたものだったのでしょうか。


「私も、君の事は出来る限りで力になるし、支援すると約束しよう。困った事があったら、何でも相談して欲しい。」


 次はシルヴェイン王子でしたが、こちらも普段の鬼上司は何処へ行ったと疑うような真摯さでした。


「では、今後の事は、後程細々と相談させて貰う事にして。先に、レイナードさんが抱えていた事情について、お話しますね。」


 これ無くしては、エセ賢者を特定して捕まえる協力を得られませんからね。


 個人的に、八つ当たりはこのエセ賢者にする事に決めていますから。


 張り切って探し出すことにしようと思います!

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