表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/366

8

 ケインズさんが教えてくれた準備体操を真似してから、屈伸と伸脚、アキレス腱伸ばしをこそっと付け足しておく。


 準備体操にはこれ必須でしょう。


 やらないと何か足りないような気がするじゃないですか。


 そこから走り込みです。


 大人しくそこまでこなしたこちらを見て、ケインズさんが気味悪そうな顔してます。


 ここは、また小首傾げてコテンです。


 これで、ケインズさん引きつった顔で目を逸らしますから。


 何か誤魔化したい時はこれで行きましょう。


「走り込み、ちゃんと付いてこいよ。途中でサボろうとするからあんな目に遭うんだろ。」


 冷たい声音を心掛けて言ってくるケインズさんですが、微妙に気まずそうなのは罪悪感でしょうか。


 因みに、この間も決してサボってませんでしたけどね。


 貴方が速すぎるから逸れたんです。


「あの〜。遅れたら声掛けますんで、待ってて下さいね。」


 ついそんな事を言ってしまいました。


 ケインズさんの背中が遠ざかったらすかさず声を掛けられるように、常にケインズさんを視界に入れておこうと思います。


「うっ。ああ。」


 物凄く渋々ですが、言質取りました。


 ケインズさんは、少し赤く色の抜けた茶髪を短く刈り込んだ、顔立ちもあっさり気味な美男さんです。


 彫り深顔立ちはっきり、パーツ配置も神がかったイケメンのレイナードとはタイプが違いますが、ホッとするような良い男ぶりです。


 目の色も見慣れた感じの濃いめの茶色で、勝手に親近感湧きます。


 どうせなら女性の身体に成り代わってたら、きゃあきゃあ騒ぐ対象は、レイナードじゃなくて間違いなくケインズさんでしたね。


 まあ、言っても始まりませんが。


「行くぞ!」


 思考に耽っていたこちらを相変わらず引きつった顔で見てから、ケインズさんが背中を向けました。


「はい!」


 元気良くお返事してから、走って追い掛けます。


 ペース配分も考えて、飛ばし過ぎないように走り出しますが、この間と違ってケインズさんかなりゆっくり走ってくれてます。


 色々失礼なところもある人ですが、基本良い人のようです。


 隊長さん、流石見る目がありますよね。


 この間と同じコースのようですが、ケインズさんを見失った手前の角で曲がることになってたようです。


 キツくなってぼおっとしてて、ケインズさんが曲がったところを見逃したようでした。


 あの時も根っから意地悪をされていた訳ではなかったようなので、一安心です。


 走りながら、新しい景色を楽しみつつ、コースを一周する頃にはかなりバテ気味になっていました。


「あと4周。」


 告げられたその冷たい一言に、倒れ込みたくなりましたが我慢です。


 基礎体力大事です。


 2周後半から3周4周目と、どんどんスピードが落ちていきますが、ケインズさんは呆れ顔ながらも合わせて付き合ってくれます。


 何気にメッチャ良い人です。


 面倒見の良いイケメンとか、絶対この人もモテますね。


 ダメ男にお熱だった女性の方に、是非紹介してあげたいくらいです。


 あ、余計なお世話ですかね。


 爛れた脳みそで誤魔化しながら走り切った5周。


 終わった途端にガクガクする膝に手を置いて大きく肩で息をして、唐突にくらっとして気持ち悪くなります。


 吐き気がしてトイレを探してキョロキョロしますが、一番近いところが分かりません。


 と、その内に胃を迫り上がってくる不快感に限界を感じます。


 目に付いた排水溝に走り寄って、上体を屈めて、以下自粛です。


 昔、運動部に所属してた頃を思い出しました。


 急激で過酷な運動の後って、湯あたりみたいになることあるんですよね。


 それにしてもダメ男くんの身体、本当にへなちょこですね。


 この程度で、とか思っちゃいました。


「おい、このくらいで吐くなよ。普段からサボり過ぎなんだよ。」


 呆れたようなケインズさんのお言葉、正にその通りですね。


 落ち着いたところで、手洗い場を探します。


 と、これまた溜息混じりにケインズさんが広場の端にある井戸を指差してくれました。


 有り難くふらふらとそちらに寄って行きます。


 レバーで組み上げる方式の井戸のようですが、水の出し方がイマイチ分かりません。


 某アニメでちびっ子がぶら下がりながら上げ下げしてたような記憶が有りますが、持ち上げて下すで良いんでしょうか。


 レバーを汚れてない右手でおっかなびっくり持ち上げようとしますが、意外に力が要るようです。


 とまた、深い溜息と共に、いつの間にか側に来ていたケインズさんがレバーを勢い良く上下して水を出してくれました。


 有り難く頭を下げると、汚した手と不快感のある口を濯ぎます。


「はあ。水も飲んどけ。ほんと、軟弱。」


 言いたい放題ですが、怒ってる風ではないです。


 という訳で有り難く手で掬った水を飲んでみましたが、ビックリする程美味しくないです。


 身体は水を欲してるので、ゴクゴク頂きましたが、逆に吐き気がする程、生臭い水です。


 山の清水とかを期待する訳にはいかないことは分かりますが、残念過ぎです。


 運動の後の浸透圧の高い飲み物、酸味と塩分付加のあれ、今こそ欲しいですね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ