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シンプルワンピース姿で兵舎を歩いていると、非常に目立つようで、すれ違う同僚の皆さんが二度見の後、ガン見して来ます。
ちょっとそれが鬱陶しくなりつつも、横髪だけ編んでリボンで結んだ髪を揺らしながら廊下を歩いて行きます。
隣を物凄くゆっくり着いて歩いてくれるケインズさんは、時折そんな同僚の皆さんの視線を咳払いで払ってくれるのですが、キリがないですね。
「レイナード、ヒヨコちゃんは、その重くないか? 代わってはやれないけど、もっとゆっくりは歩けるからな?」
チラチラこちらを見ながら言うケインズさんですが、耳が真っ赤です。
「ケインズさん。もしかして、女子はトイレ行かないとかご飯モリモリ食べないとか、オナラしないとか思ってる人じゃないですよね? はっきり言っときますけど、普通にしますよ?」
「そんな事は! 知ってる。俺だってな、妹くらいいるんだからな。」
その返しには首を傾げてしまいます。
「じゃ、つまんない幻想やめましょう。これまで通りで良いですから。まあ確かに、骨量筋肉量は減ったので、前より体力とか踏ん張りとかはきかなくなったと思いますけど。」
そこはよく考えると残念ですよね。
男子の足の長さと体力と、筋肉改造計画が頓挫したのは予定外でした。
目指せイケメン騎士への改造計画、終了してしまいましたからね。
「お前のその腕、細過ぎだよな。折れそうで見てられないからな。もう少し頑張って食べた方が良いぞ。」
このセクハラ一歩手前の発言は、悪気はないんでしょうが。
「仕方ないんですよ。レイナードも細めイケメンでしたから。そういう体質ですねこれは。」
「・・・そうだな。」
ついレイナードを他人みたいに言ってしまった所為か、ケインズさんが何か言いたいような言えないような微妙な反応になってしまいました。
その内に会議室に辿り着くと、扉の前で隊長達が腕を組んで待っていました。
「団長とランバスティス伯爵が中でお待ちだ。」
トイトニー隊長がそう口にして、鋭い目をこっちに向けて来ます。
「お前は、つまりレイナードじゃないって事なのか?」
つい我慢出来ずに口から出たというような問いが来ます。
「どうなんでしょうね。その判断が難しいから、これから話し合うんじゃないですか?」
「・・・女装が板に付いてるな。歩き方とか、所作とか、初めて女装した男の動きじゃない。」
トイトニー隊長、流石に鋭いですね。
「それ、今問いただして、何か良い事あります?」
「お前、本当に何者だ? 俺達に対しても、殿下に対しても、堂々とし過ぎだ。貴族のお嬢様だって、どうかすれば若様だって、そんな風には振る舞えない。偉い人間と渡り合う事に、慣れてるだろ? 場数踏んで自信のある人間の言動だ。」
確かに、レイナードに乗っ取られた本来の自分は、そういう微妙な立場の人間だったかもしれません。
まあ、今頃性転換手術受けて来たって事で、男になってますけどね。
公の場でどうなってる事やら、考えたくありませんね。
「元には戻れないので、何とも言えませんけど。私も迷惑してるんですよ。これから、お父さんには厳重抗議の時間ですから、ちょっと臨戦態勢ですよ? 行って来ますね〜。」
にっこり笑顔で躱して扉に向かうと、幾つも溜息が背中に降ってきました。
ノックして開けた扉の向こうでは、椅子に座る神経質そうな男と、直ぐにこちらに目を向けて来たシルヴェイン王子が円形の会議テーブルに少し距離を置いて隣り合って座っていました。
「レイナード、こっちだ。」
シルヴェイン王子が隣の席を指して呼んでくれました。
後ろから複数の視線を感じながら扉を閉めると、指された席の方へ歩いて行きます。
先程お借りしたマントは腕に掛けて持って来たので、席にまずヒヨコちゃんを下ろしてからマントを持ち直します。
「殿下、有難うございました。」
頭を下げてお返しすると、シルヴェイン王子が頷いて受け取ってくれました。
席に向き直ってヒヨコちゃんを抱え直したところで、シルヴェイン王子を挟んで向こうの席から視線を感じました。
ヒヨコちゃんをお膝に乗せてしっかり座ってしまってから目を上げると、驚く程レイナードそっくりな男性が目に入りました。
歳は明らかにあちらが上で、大人の渋みも付加されていて、並んで間違えるなんて事は有り得ませんが、間違いなく親子だと分かる顔立ちの似か寄り方です。
色彩は、髪色はあちらの方が色が薄く見えますが、もしかしたら若い頃は同じくらいだったんじゃないでしょうか。
目の色はレイナードの方が薄く碧混じりで、今朝会った兄の方が父に似てる気がしますね。
「どうも、初めましてとご挨拶しますね。」
こちらから口を開くと、父は僅かに顔を顰めたようです。
「私に隠し子はいないが。驚く程レイナードに似ているな。つまり、私にも似ている。一族にも君のような年頃の女の子はいなかった筈だ。一体君は何者だ?」
無駄なく核心を付いてくる父は、やはり噂通りの頭脳派官吏さんですね。
「取り敢えず、1月程前レイナードさんが行ったことから、どうなったかまで、私の知っていることをお話しますね。それと、予め言っておきますが、レイナードさんのその行動には、きちんと深い訳があったそうです。」
前置きをしたこちらに、父もシルヴェイン王子も僅かに眉を寄せたようです。
「レイナードさんは禁呪を使って、異世界に住む私と中身を、魂とか精神とかそう言った身体以外で人間を構成する要素ですね。それを、入れ替えたんです。」
父は更に顔を顰めつつ驚いた顔になっています。
シルヴェイン王子の方はある程度予測が付いていた筈なので、分かってはいたが、やはり本当だったのかという複雑な表情ですね。
ここからも冷静に話して慎重に結論に繋げて行きますよ。
これからの生き方が決まってきますからね。
この2人がこれからの命綱ですから、しっかり絡めて面倒見て貰いますからね!




