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「という訳で、レイナードは精神的・物理的なショックにより記憶が混濁しているようだ。新人が入団したと思って色々一から教えてやってくれ。」
広場で団員を集めてカルシファー隊長が説明をする隣に所在なく立っていると、団員様方からはそれはそれは冷たい一瞥を食らった。
信じてない感満載な皆様は、またダメ男が適当な嘘を吐いてサボろうとしてるくらいに認識してるんじゃないでしょうか。
ここにお集まりの皆さんは、カダルシウス王国の第二騎士団ナイザリークの騎士さんだそうです。
ナイザリーク騎士団は、第二王子直下のエリート騎士団だそうで、その任務も訓練も厳しい事で有名だとカルシファー隊長が説明してくれました。
騎士団の下には5つの部隊があってその第二部隊の隊長さんがカルシファーさんで、ダメ男はそこに社会更生を期待されて放り込まれたのが二月前のこと。
2ヶ月ならまだまだ新人さんと変わりない立ち位置ですね。
でも、きっと物凄く偉そうな人だったんでしょう。
で、周りからは反感しかないとして、本当に友達の1人もいなかったんでしょうか。
まあ、記憶喪失のレイナードは何も覚えてない訳で、過去はすっぱり忘れて新しく新生レイナードとして頑張りましょう。
取り敢えず、ここで無難に生きていく基盤を作ることが最優先です。
まずは、衣食住確保の為に、真面目に働きたいと思います。
色々と無理があるのは、もうこの際考えません。
今のところ、隊長さんと軍医さんは見捨てないつもりでいてくれるようですし。
頑張ります。
お話が終わると騎士団の皆さんはパラパラと散って行く。
「ケインズ! この間目を離した責任も含めて、お前がこいつの面倒を見ろ。」
隊長さんに声を掛けられた人、覚えがあります。
この間、走り込みコースを教えてくれようとしてた人ですね。
途中で置いてかれたので、親切心は薄いのかもしれませんが、今度こそお願いしますよ。
「あー、はい。」
ケインズさん、物凄く嫌そうな声でお返事です。
ここはこちらからもご挨拶でしょうか。
「あのー、宜しくお願い、します?」
語尾上がりになってしまったのは、ケインズさんが上から物凄いお顔で凄んで来られたからです。
物凄く疑わしそうな顔が、お前の嘘を見破ってやるって言ってますね。
残念です。
ダメ男さんの過去は本当に何一つカケラも知りません。
仕方ないので、キョトンとした顔でこてんと首を傾げておきます。
「な、何ですかコイツ気持ち悪い。隊長、記憶の混濁って?」
気持ち悪い発言は、流石にちょっと凹みます。
「んー? まああれだ。この国の名前から自分の家も親もここでの事も何一つ覚えてないらしい。が、何でか分からないけどな、社会的な常識だけは妙な形で残ってるみたいなんだよ。」
隊長さん、困惑させて済みません。
一応常識人として育ってますので、ダメ男くんにはない、上の人を敬うとかTPO考えるとか、身に染みついてまして。
「はあ。」
ケインズさん、困ってますね。
でも、これから貴方が命綱です。
しっかりお願いしますね、を込めてにっこり笑顔を向けておきます。
途端にズザッと後退るのは、ちょっと失礼じゃないでしょうか。
「お、おい。とにかく朝練行くぞ。」
引きつった顔でケインズさんが声を掛けてくれて、付いて行くことになりました。