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ヒヨコちゃんを連れての朝訓練への初参加。
走り込みは、楽しそうに腕の中に収まってキョロキョロしているヒヨコちゃんを抱えての周回でした。
その間にお母さんが餌やりに来るかと身構えていましたが、まるでタイミングを測っていたかのように、走り込みの終了を待ってのご登場でした。
物議を醸しつつも、コルちゃんの餌やりの後、ヒヨコちゃんを連れて食堂へ向かいました。
食堂の隅に、レイナードとヒヨコ様予約席が他の団員の皆様と隔離されるように用意されていたのには、ちょっと笑ってしまいました。
意を決したようにケインズさんとオンサーさんが側に座ってくれました。
食堂の料理人見習いの例の女の子が席まで食事を運んでくれるサービスまであって、ちょっと偉い人気分です。
「ヒヨコちゃんって、雑食なのか? 食堂の飯食えたりするんだろうか。」
オンサーさんが腕を組みながら唸るような声を上げていて、苦笑いです。
「駄目ですよオンサーさん。ペットに食卓から人間の食べ物与えたり勝手に食べさせたりしてると、食卓を平気で荒らすようになるから、餌やおやつとしてあげるなら、シツケと並行してテーブルの上じゃないところでやらないと駄目らしいですよ。」
「へぇ、躾って大事なんだな。っていうかお前、ハザインバースの雛もペット扱いかよ。・・・本当にドッシリ構えてんなぁ。」
呆れたようなオンサーさんの台詞には、にっと笑って流しておくことにします。
ヒヨコちゃんを引き寄せた隣の椅子に下ろしてあげると、途端にキョロキョロと周りを見回し始めました。
「それじゃ、いただきまーす。」
手を合わせてからスプーンを手に取ります。
掬って飲んだいつもの少々脂っこいスープは、調味料の工夫で改善出来るでしょうか。
下茹でや臭み取りにハーブを使うとか酒で流すとか、出来そうな工夫は幾つか思い付きますが、味覚がこの世界の人達と違ったりすると、致命的かもしれません。
そんな事を考えながら食べていると、いつの間にかヒヨコちゃんが首を伸ばして食事を覗き込んでいました。
「ヒヨコちゃん、これは駄目だよ。俺のご飯だからね。ヒヨコちゃんのはお母さんが運んで来てくれてるでしょ?」
手を出して遮ってしまうと、ヒヨコちゃんは仕方なくというように首を引っ込めました。
「レイナード様、そのちびっこいのに残飯でも用意しましょうか?」
と、後ろから声を掛けてきたのは、久々にご登場の料理長です。
「ここで残飯は不味いでしょ。大体ヒヨコちゃんが何を食べるのか分からないし。それにいずれ野生に帰すなら、人間からの餌付けはやっちゃ駄目なんだよ。」
「へぇ、そういうもんですかい。それにしても、あの空から降りて来てる巨大な鳥、そのちびっこいのがあれの雛だって本当ですか?」
「そうだ。因みに、鳥じゃなくて魔獣なんだけどな。」
ついペット扱いしてしまうので人の事は言えませんが、雑に扱って料理長に何かあっても困るので、言い直してみました。
「うーん、良く分かりませんが、なんでレイナード様がその魔獣の雛を育ててるんで?」
「・・・何でだろうなぁ。誕生の瞬間に事故で居合わせた所為なんだろうなぁ。」
遠い目で昨日から繰り返している台詞をまた復唱してしまいました。
「レイナード様ってもしかして、間の悪いお人なんです?」
「そうかもしれないって最近思えて来た。だから、過去の俺も色々誤解されやすかったって事もあるのかな?」
「いやいや、それだけじゃないだろあれは。」
途端にケインズさんからの冷たい突っ込みが入りましたね。
「あはは、そうですよねぇ。」
誤魔化しつつ食事を続けますよ。
過去のレイナード、ケインズさんに嫌われ過ぎですよ?
「レイナード様、そういえば王城内の他の厨房の連中と話して来ましたよ。そうしたら、やっぱりレイナード様が言ってたような話になりました。それで、財務の方とも話した方が良いって言われまして。」
料理長はその話をしに来てくれたようです。
「へぇ、当たりだったか。仕入れの問題はそれで解決に向かいそうかな。」
素材が良くなる事で、料理自体の味が劇的に改善される事を期待して、しばらくはそれを待つ体勢で行きますか。
プラスの味や料理法の嗜好の問題は、徐々に料理長を抱き込んで少しずつ試していく形で。
と、そんな事を考えながらもそもそと朝食を食べていたところで、食堂の入り口がざわつきました。
振り返った先で、騎士ではない官僚服っぽいお揃い感のある硬めな服装の人達が入って来たのが見えました。
ぐるりと見渡してから、その人達が真っ直ぐこちらに向かって来ます。
またもや、何かトラブル発生でしょうか。
取り敢えず、この後に備えて朝食を完食してしまう事にしますよ。
「料理長、厨房の方は今落ち付いていると聞いたが、少し話を良いだろうか。」
向かって来た対象は料理長だったみたいです。
ホッとしつつ、食事を終えたところで振り返ってみます。
「出入りの業者が悪質だとか。詳しい話とそれに気付いたキッカケなどを聞きたい。」
そう話すのは、先頭に立った長身の見映えのする男性です。
歳の頃はレイナードより少し上くらいでしょうか、プラチナブロンドの真っ直ぐな髪はきっちり襟足に掛からない長さに切り揃えられていて、自然に横に流した前髪は下ろしても目に掛からない長さをキープしていそうです。
絶対神経質で自分ルールがきっちりしたタイプですね。
そして、目の色は綺麗な青色で。
と、そこまで分析したところで、あれ?となりましたよ。
何処となく、毎日鏡で見てる顔に雰囲気似てませんか?
こちらの食い入るような強い視線に気付いたのか、ふとこちらに目を向けたその人が固まりました。
「レイナード・・・。」
呟くように零された名前と、険しくなる顔付き。
「レイナード! お母さん襲来だ!」
とそこで食堂に駆け込んで来た同僚さんからの怒鳴り声が来ます。
「え? あ、はい! 直ぐ行きまーす!」
今回は間隔短かったですね。
ザッと席を立つとヒヨコちゃんを抱き上げます。
「ちょっと退いて下さいね! そこの推定お兄さん、後でお話する時間あります? ヒヨコちゃんの餌やり終わったら、主に父攻略の件について相談に乗って下さい!」
「はい? 父上の何だと?」
「レイナード! お母さん待たせるな!」
「はいはい! 直ぐにダッシュで行きますから!」
怒鳴り返して、推定兄の横をすり抜けて走ります。
これ、なかなか脚力を鍛えられますね。
ところで、レイナードの家族構成って、そろそろ誰かに聞いといた方が良いですね。




