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早朝からの訪問者は、カルシファー隊長とクイズナー隊長のお二人です。
魔物に詳しそうなクイズナー隊長とは、ゆっくりお話してみたかったので朗報ですが。
チラッと窓際を振り返って指人形の動向を確認です。
パッと目に付く場所には見当たらないので、出て行ったか隠れたかしてくれたようです。
空気読んでくれて助かります。
「どうだ? ハザインバースの雛とサークマイトは。」
問い掛けてくるカルシファー隊長の言葉に、改めてベッドを振り返りますが、静かなものなので、まだ2匹とも眠っているのでしょう。
2人を招き入れつつベッドに向かうと、覗き込んだ先でコルちゃんが頭を上げています。
ですが、もふもふの毛が立っていて、後ろの隊長達に目を吊り上げているようなので、警戒しているのでしょう。
「コルちゃんおはよう。」
気にせず声を掛けてみると、こちらに目を移したコルちゃんがキュウッと可愛らしく鳴きます。
「ヒヨコちゃんが起きる前に、檻に戻ろうか?」
そう続けると、コルちゃんはチラッとヒヨコちゃんに目をやってからそろっと近付いて、気遣わしげな目を向けています。
「うーん。サークマイトはハザインバースの雛に保護本能でも刺激されたんですかね。動物でも種族を越えて幼体を育てる本能があるみたいですからね、魔物にもあってもおかしくないでしょうが。」
後ろから首を伸ばして観察するクイズナー隊長が、コルちゃんの行動を分析してくれたようです。
「いや、でも。そもそもサークマイトが我々人間にとって安全かどうかも分からないのに、檻から出しとく訳にもいかないだろう。」
カルシファー隊長は、昨日に引き続きコルちゃんの行動には否定的です。
「まあ、ハザインバースの雛に何かあった時に、サークマイトが何をするか分からないっていう危険性はありますね。」
それを言われてしまうと、コルちゃんとヒヨコちゃんは引き離さなければならない事になりますよね?
昨晩のもふもふの塊を目撃した身としては、とても残念に思ってしまいますが、人間の安全が第一と言われると、同じ人間としてはそちらを優先するしかなくなってしまいます。
難しい問題ですね。
「それにしても、サークマイトもハザインバースの雛も見事にレイナードに懐いているんですねぇ。」
しみじみとしたクイズナー隊長の言葉には、迂闊に相槌も打てなくて反応に困ります。
「レイナードはもしかしたら、“神々の寵児”に近い体質なのかもしれません。」
クイズナー隊長の言葉には、ぎくりとするような良く分からないような、とにかく心臓に悪い話題ですね。
「神々の寵児?っていうのは?」
カルシファー隊長が問い返してくれて、クイズナー隊長がふっと微笑みました。
「言葉の通り、神々に愛されているが故に、この世の凡ゆるものに好かれる体質という意味です。ほら、王太子殿下の婚約者のマユリ様がそうですよ。あの方は、異世界から神々のお導きでここへ来られた方ですから、“神々の寵児”として強力で聖なる未分化な魔力をお持ちでしょう? 大抵はそうやって世界を渡って来た人の事を“神々の寵児”と呼ぶんです。」
もうどう焦って良いのか方向性が分からないのに、ひたすら心拍数が上がりますね。
「レイナードは、私の私見を言うと、少し前までと明らかに魔力の質が変わってしまったような気がするんです。以前は、もう少し不透明で危うい、下手をすると悪しきものに転落してしまいそうな、やはり未分化な魔力だったように感じました。それが今は、不透明で危うい要素も残っていますが、不思議な事に“神々の寵児”に近いような魔力を宿しているように感じます。」
クイズナー隊長の何かを見透かすような真っ直ぐな視線に、身体が強張りそうになります。
この人、怖いですね。
ちょっと油断してましたが、こちらが隠していても、気付く人は気付いてしまうという事が分かりました。
やっぱりグズグズしてる暇はないですね。
「クイズナー隊長、怖い事言うのやめて下さいよ。また、塔で精密検査って言う名の実験動物にされる未来が見えて来るじゃないですか!」
涙目で訴えてみると、クイズナー隊長にはクスクスと笑われました。
「大丈夫だよ。あくまでこれは私の私見だし。合っているかどうかも分からないような事を誰かに言うつもりはないから。」
本当ですか?とジト目で見返してしまいました。
「まあ、そう言われると、レイナードが魔物にまで好かれる体質なのは分かる気もするがな。」
言ってカルシファー隊長が強い目をこちらに向けて来ますが、これは昨日誤魔化した話を改めて追求したい気持ちにさせてしまったみたいですね。
「ええと、カルシファー隊長? 団長とはその辺りも含めて色々話してますから。」
ここでももう一度誤魔化しておくことにしようと思います。
それにしても、クイズナー隊長です。
色々とヒントを貰った気がしますが、とにかく慎重に、それでいてやっぱり急がなきゃなと、結論が出ました。




