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 右頰に当たるフワフワ触感とピタリと張り付いて来る温もりが堪りません。


 寝返りを打っても反対側は、もふもふの高級羽布団でしょうか。


 顎の下に張り付くように押し付けられた小さな柔らかな??


 と、ここでパチリと目が覚めました。


 固まること数秒。


「あ、我が君、おはようございます。」


 パチパチと目を瞬かせてから、扉に死んだ目を向けます。


 途端に、バタンと勢いよく開いた扉から、ハイドナーが元気良く踏み込んで来ました。


「レイナード様! お早うございます! 朝ですよ〜。」


 朝から変わらぬハイテンションのハイドナーですが、流石にベッドの方には近付いて来ないようです。


「おはよう。」


 少し低めの声で挨拶を返すと、ハイドナーに半眼を向けます。


「ハイドナー、勝手に変なもの買って来て部屋に置くなって言ってるだろ? このキモいお喋り人形、捨てて来て。」


「・・・はい?」


 怪訝そうに返して来るハイドナーはやはり心当たりがなさそうですね。


 いやいや、困りました。


「一寸法師か親指姫?」


 全長3センチよりは大きそうなので、親指姫採用でしょうか。


 良く出来たフィギュアみたいですが、どちらかと言うとずんぐりして幼そうな人間っぽい見た目ですね。


 あ、中身詰まってる指人形って言った方がしっくり来るかもしれません。


「レイナード様?」


 ハイドナーがまた扉付近から怪訝そうに呼び掛けて来ます。


「あ、やっぱり良いわ。もう起きたし、出てって良いよ? コルちゃん達もじきに起きると思うから。」


 この一言にはハイドナーが一気にザッと後退ります。


「で、では。失礼して、後程お部屋のお掃除に伺いますね。」


 言い残してそそくさと出て行ったハイドナーが向こう側から扉を閉め切るのを待ってから、指人形に目を向けました。


「はあ。さて、指人形、お前何処から入って来た? 誰? てゆうか見なかったことにして窓から捨てて良い?」


「そ、それだけはご勘弁を!」


 大慌てで小さな両手を前で握りしめる指人形に、じっとりした目を向けます。


「じゃ、自主的に退去して。何か知らないけど、絶対、関わっちゃいけない奴だって気がするから。」


 半眼で言いたいことを率直に述べてみると、指人形が涙目になりました。


「我が君〜、私の事そんなにお気に召しませんか? 容姿ですか? 性別ですか? それともこんなに小っちゃいからですか?」


 訴えるように返して来る指人形は、良くよく見ると物凄く可愛らしい男の子の姿をしています。


 ですが、話す声と口調は何故か完全な大人男子で、可愛い子ぶって裏声使ってるように感じますね。


 しかも、黒髪に赤い目って、如何にもな感じですが。


「窓開けてデコピンでスッキリ片付くよな。」


 ボソリと真顔で囁いてみせると、指人形は真っ青な顔になりました。


「何卒お許し下さい! 我が君。私は我が君の眷属でございます。サークマイトとハザインバースには後れを取りましたが、我が君のお側にお仕えしたいと馳せ参じた者にございます!」


「・・・うん、要らない。出てって?」


 これまた率直な返事に、指人形はクシャッと顔を歪めました。


「うっ、そんな事、仰らないで下さいよ〜。」


 目を擦りながら泣き出してしまった指人形に、ふうと大きな溜息を吐きました。


「あのね、コルちゃんはもふもふペット。ヒヨコちゃんは託児中。お仕えしたいとか、期間限定でもハイドナーだけで十分。大体そんなちっこくて従者は無理でしょ。」


 不機嫌顔のまま続けると、指人形はハッと顔を上げました。


「そこは問題ございません! 我が君が私をお側に置いて下さると主従契約を結びましたら、私はそれに相応しい力と身体を手に入れるのです! つまり、大きくなれますから!」


 小さな胸を逸らしてドヤ顔で言ってくれますが、言及したいのは、そこではないですね。


「いや、しないでしょ。無理無理主従契約? ハイドナーとの雇用契約でも無理なのに。」


「えええ? どうしてですか?」


 そんな意外みたいに言われましても。


 てゆうか今、かなり進退極まってませんか?


 これはまずいでしょ、核心突いてますよ。


「なんでも。とにかく出てって、特に今は絶対ダメ。需要が出てきましたらこちらからご連絡させていただきますので、ご連絡先だけ置いてお帰り下さい、だね。」


 不必要な売り込み営業に対する受付での撃退文句ですね。


「え? 我が君? まさか本当に私の事要らないって思ってます? それとも既に別の者がお側に? 拝見したところ他の同族達はまだ我が君の事には気が付いていない様子でしたけど。」


 し、つ、こ、い。


 背中の服を掴んで持ち上げると、窓に向かいますよ?


 ここ2階とか言わないで下さい、分かってますから。


 そして、この手の生き物って2階から落としたくらいじゃびくともしないですよ、きっと。


 誰か来る前に、さっさと始末しておきましょう!


「待って! 待って下さい我が君!」


「とにかく、その呼び方止めて。指人形が喋ってそんな呼び方して来たら、俺どうなると思う?」


 逆に訊いてみると、大人しくなった指人形が器用に小首を傾げて考え込んでるようです。


「成る程、我が君はまだお立場を秘密にしておきたいと。」


 唸るように返して来た指人形に、口元を引きつらせます。


「だから、呼び方。」


「これは、失礼致しました。そういったご事情でしたら、是非私めにお任せ下さい!」


 なんと言うか、この指人形、キャラがハイドナーと被ってる気がします。


 滅茶苦茶面倒なんですが、本当に捨てちゃいけませんか?


「ん、分かった。それじゃ契約はしないけど、命令を一つね。バレるとヤバいから、ここから出てって、俺が呼ぶまで姿が見えないところで待機。他の奴にも見付からないようにね!」


 指人形のその後は、無事に元通りになれたらレイナードに丸投げするって事で。


「えーと、我が君?」


「だから、呼び方。レイナード。」


 自分に指差しながら言うと、指人形は目をぱちくりさせました。


「我が君、お仕えする契約もまだなのに、私めに御名を呼ぶ事を許して下さるのですか?」


 えーと、物凄く驚いた後で目元潤ませながら感動してますが、名前呼ばせちゃいけない感じなんでしょうか?


「レ、レイナード様!」


 語尾にハートが付いていそうな夢見るような瞳をこちらに向けながら、指人形はレイナードの名を呼んでくれています。


「うーん、まあ。減るもんじゃなし、呼べば良いんじゃない?」


 色々考えるのが面倒になってそう返すと、窓枠の上に足を乗せた指人形が振り返って、ガシッと中指の先にしがみ付くように両手で取り付きました。


 そして、サッと顔を近付けたかと思うと、物凄く小さなリップ音をさせて中指にキスしてくれたようです。


「ちょ! 何する。」


 サッと手を引っ込めると、指人形は良い笑顔になりました。


「ご挨拶でございます。レイナード様が御名を呼ぶ事を許して下さいましたから、敬愛を込めて指先に口付けをさせて頂きました。女性へのご挨拶ですから。」


 思わず目を見張ることになりました。


「・・・は?」


 色々と疑問符だらけです。


 そんな混乱の渦に巻かれている間に、扉をノックする音が聞こえて来ました。

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