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 本日何度も通い詰めた会議室に入って行くと、部屋の奥で書類と難しい顔で睨めっこを続けるシルヴェイン王子が目に入りました。


 他に居ると思っていた隊長さん達や塔の魔法使いさん達の姿はありません。


「来たかレイナード。適当に側の椅子に座れ。」


 声を掛けて来たシルヴェイン王子ですが、書類から目を上げる様子はありません。


 仕方ないので、おずおずと近寄ってシルヴェイン王子の側の椅子に座りました。


「悪いな。今日は会議尽くしで仕事が片付かなくてな。キリの良いところまで見るから、少し待っててくれ。」


 やはり書類と睨めっこしたまま言われて、こくりと頷き返します。


 隊長達は一先ず食事にでも行ったのでしょうか。


 この2人きりの空間は、何と言うか少し気まずいです。


「他の皆は今日はもう休むようにと帰した。だから、気兼ねなく寛いでいて良いぞ。お前も疲れただろう?」


 自分は休みなく書類に目を通しながら言うシルヴェイン王子に、やはり罪悪感めいた気持ちが浮かびます。


「そういう殿下は? 食事は済ませたんですか?」


 遠い昔に感じるが、昨日ご馳走になったばかりの筈の朝食を思い出しながら問い掛けると、シルヴェイン王子の顔が少しだけ苦くなりました。


「もう少し片付けたら、夜食でも食べるつもりだ。」


 そんな忙しい中の呼び出しは、今ここで話さなければならない事があるんでしょう。


 隊長達がいない場で、というのが如何にもで少し緊張して来ますね。


「・・・マユリ殿が御前会議の後わざわざ声を掛けて来られて。お前は大変な定めを持って生まれて来た者だから、助けてあげて欲しいと言われた。」


 書類に目を落としたままポツリと言い出したシルヴェイン王子に、何と答えるべきか迷ってしまいます。


「そうですか・・・。」


 結局曖昧に返すしかなかったこちらに、シルヴェイン王子が顔を上げてこちらに視線を合わせて来ました。


「レイナード、お前は私に何か話せる事はないのか?」


 秘密を抱えている事は分かっていて、それでもそれを強制的に聞き出そうとはしないシルヴェイン王子には、頭が下がります。


 いつもは強気で強引なところもある王子様ですが、基本ベースは気遣いの出来る大人なんでしょう。


「俺の父親のランバスティス伯爵は、どんな人ですか? その人は、今の俺の話を聞いてくれる人だと思いますか?」


「・・・お前と伯爵の親子としての関係がどうだったのかは分からないが。財務次官としての彼は、公正厳格で、だが必要な事には柔軟に対応してくれる人物だ。」


 厳格と柔軟は同居出来ないのではないかという気がしますが、匙加減が絶妙に出来る人物なのかもしれません。


 ただ、レイナードの記憶として引っ掛かっていた父親の言葉は、厳格にひたすら寄っていたように聞こえました。


「一度、その人に会って話をしてみたいんですが。その時に、付き合って貰えませんか?」


 一国の王子様を捕まえて厚かましい頼みだとは思いますが、その時の状況次第では、やはりシルヴェイン王子に話せる事だけ話してみるべきだと思います。


「その場でなら、お前は何かを話せるかもしれないということか?」


 シルヴェイン王子の強い瞳を向けて来ながらの問いに、こくりと頷き返しました。


「全部は無理かもしれないですけど、話せると思った事はお話します。ですから、コルちゃんとヒヨコちゃんの事は、それまで出来ればお茶を濁して貰えたらなと思ってます。」


 ほんの少し本音を晒してみると、途端にシルヴェイン王子の目が挟まりました。


「・・・出来る限りで、だ。」


 シルヴェイン王子は、言いたい言葉を無理矢理飲み込んだような顔になっています。


 無理もない事かもしれませんが、こちらも大きな一歩で歩み寄り始めたつもりです。


 本当の事を明かしたら、目の前のこの人はどんな反応をするのでしょうか。


 改めて確信を持ちましたが、今縋り付ける最高の命綱を握っているのは、間違いなくこのシルヴェイン王子です。


 レイナード父も、味方に付いてくれれば心強いでしょうが、人間的にも持っている権力としても、シルヴェイン王子以上の味方はいないでしょう。


 ドSでパワハラなところも、今なら笑って流せる範囲って認識にすり替わってます。


 こういうご都合主義な思考回路、今は絶賛支持してしまいますね。


 レイナード父やシルヴェイン王子と話す時は慎重に、そして確実に味方に引き込む為にどうするのがベストか、脳内シミュレーション掛けてみようと思います。

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