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ヒヨコちゃんの餌やりは、その日の夕暮れまでに計3回親鶏が王城に降りてきました。
その度、第二騎士団兵舎前では大騒ぎと共に伝達が来ましたが、回を追うごとに騎士さん達も慣れて来て、落ち着いて呼んでくれるようになりました。
このまま第二騎士団の皆さんと共に連携してヒヨコちゃんの託児も可能なのでは、と思ったりしましたが、王様に会議に呼び出されて戻って来たシルヴェイン王子は難しい顔で隊長達と相談しているので、そんな軽いお話しでは終わりそうもないようです。
これは、王城外の第三騎士団の営所行きが決定でしょうか。
夕暮れ前の最後の餌やりが終わってから、部屋のベッドで眠り始めてしまったヒヨコちゃんは、このまま朝まで眠ってくれそうな雰囲気です。
その間にとコルちゃんの餌やりをしましたが、食べ終わったコルちゃんはチラチラヒヨコちゃんの眠っているベッドの方に目をやって気にしているようです。
「コルちゃん、ヒヨコちゃんは寝ちゃったから起こしちゃダメだよ。」
そっとそう声を掛けると、コルちゃんがつぶらな瞳をこちらに向けて来ました。
キュウッと小さい声で可愛く甘え鳴きをしたコルちゃんの頭をしっかり撫でてあげます。
「何だか慌ただしい1日で、構ってあげられなくてごめんね。」
膝の上に乗って来たコルちゃんを抱き寄せるようにしてフワフワの毛をワサワサと撫でくりまわしながら、優しく続けると、コルちゃんはまたつぶらな瞳を上げてこちらを見つめ返して来ました。
そのまま角を逸らして当たらないようにしながら、コルちゃんは頭をこちらの顎の下に擦り寄せて来ます。
「コルちゃん、甘えん坊さんだね。・・・でも、これからどうしようね。城から出て営所に移されると、レイナードの敵の調査が滞るし。このペースでトラブル引き寄せてたら、遠くない未来にモルモット化決定しそうだし。また命の危機にでも陥ったら、どんどんレイナードとの柵が増えていって、完全に元通りの道もどんどん遠ざかるだろうし。」
つい愚痴を言うように口にしてしまっていました。
「キュウ〜。」
返事をするようにコルちゃんの鳴き声が聞こえて、口元を苦くしてしまいました。
「とにかく、レイナード父と話して人となりの確認。レイナードの過去を詳しく教えて貰って、考えが纏ったら話せるところまで話して協力を要請する、と。」
ブツブツ口元で呟いてしまいましたが、今は部屋に1人なので問題ないでしょう。
「成程成程、つまり我が君はお困りだと。」
と唐突に何処からともなく声が聞こえて、バッと周りを見回します。
今の独り言、流石に誰に聞かれても不味い気がしますよ?
勝手に独り言に応えるのやめて下さいね。
てゆうか、我が君って何でしょう。
いやいや、もう本当色々勘弁して下さい!
「何も聞こえない、きっと疲れてるだけ。不思議現象も特異体質もトラブルメーカーも、今日はお腹一杯ご馳走様です。てゆうか、物理的にお腹空いてる所為でしょ、幻聴で間違いないですね。ご飯行って来ますから、影も形もなく消えといて下さい。そして、2度とお目に掛からない方向でお願いしますからね!」
力一杯宣言すると、お膝からコルちゃんが滑り落ちるまま立ち上がってしまいました。
「あ、コルちゃんごめんね。ご飯行くから、檻に入っててくれる?」
と声を掛けますが、コルちゃんはうるうるお目めで見上げてからふわりと身を翻すと、ベッドに飛び乗って。
慌てて追い掛けた先で、ヒヨコちゃんを伸ばした身体と尻尾で包むように寝そべるコルちゃんがいました。
ふわふわのコルちゃんに包まれる同じくフワ毛のヒヨコちゃん、何かとても癒される図が出来上がっています。
「コルちゃん、ヒヨコちゃん守っててくれるの?」
問い掛けると、返事をするように小さな声でキュウッと返ってきます。
「そっか、それじゃ宜しくね。」
鍵を掛けて行けば多分大丈夫でしょう。
と言う訳で、2匹を置いて晩御飯に行く事にしました。
諸々に現実逃避ですが、キャパオーバーですから、何が起こっても起こらなくても、今は全てに蓋をする事決定です。
難しい事は明日また考えるってことで。
レイナードの部屋を出てしっかりを鍵を掛けてから、食堂に向かうべく足を進めだしました。




