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「つまり、ハザインバースの雛がレイナード様にべったりなので、親鶏はレイナード様のところに預けて餌だけやりにくる事にしたと。そういう訳ね?」


 マニメイラさんがそう状況をまとめてくれますが、会議室にはやり切れないような溜息が幾つも放たれます。


「ハザインバースの雛鳥は、摺り込み現象でレイナードを片親と勘違いしているのか?」


 シルヴェイン王子が、これまた呆れ気味に口にしますが、その表情は明らかに疲れ切っています。


 恐らく上への報告で、胃がやられそうになっているのかもしれません。


 それにしてもインプリンティング、厄介ですね。


 孵化の瞬間に立ち会ってしまったのが運の尽きでしょうか。


「やっぱりここは、研究材料にするって事で。」


 すかさずマニメイラさんが口を挟みますが、それにじっとりした目を向けておきます。


「怖い事言わないで下さいって言ってるじゃないですか。」


「もう、レイナード様ったら冗談が通じないんだから。」


 そう茶化すように返して来たマニメイラさんですが、目が本気でしたからね。


「冗談はともかく、定期的にハザインバースが王城に降りてくる状況をどうするかが問題だな。」


 現実的な話に進めてくれたシルヴェイン王子ですが、どうするもなにも、どうしようもないと思うんですが。


「ええとここは、俺がこのヒヨコちゃん連れて王都を出て山籠りでもすれば良いですか?」


 死んだ目になってそう続けてみると、会議室にいる隊長さん達の内3人が手を叩いて、それだ! って言いましたよ?


 が、そこはシルヴェイン王子と他2人の隊長さん達が咳払いして遮ってくれます。


「瞬時にしてレイナードが死ぬ絵面しか浮かばないな。」


 無情にもそう吐き捨ててくれたのはトイトニー隊長でした。


「ははは。ですよねー。」


 乾いた笑いと共に止めてもらえたことにホッとしていると、また深々と溜息が飛び交いました。


「でも、おかしいですね。雛鳥の摺り込みはともかく、何故親鶏までレイナードさんに頭を撫でさせるような真似を?」


 と、余計な事に気付いてくれたのは塔の魔法使いジオラスさんです。


「雛鳥が懐いたから、信用したとか?」


 そこで優しいフォローを入れてくれたのは、これまで接点のなかったクイズナー隊長です。


「まあそこは、追求したところで答えは出ないだろうから一先ず置く。」


 シルヴェイン王子も流してくれて、話を先に進めるようです。


「無害化されたサークマイトとは違って、安全と言い切れないハザインバースの親鶏が王城に降りてくるのは、保安上決して容認されないだろう。」


 苦い口調のシルヴェイン王子の言葉も尤もです。


 会議室の他の面々も苦い顔で押し黙りました。


「つまり、対処は絞られる。一つは、雛鳥を親鶏には悟られないように始末して、親鶏が降りて来る理由を無くす事。ただしこれは、後々何が起こるか分からない危険な賭けだ。二つ目は、レイナードごと、何処か他に被害が及ばない場所に移す事。これも、場所を慎重に選定する必要がある。」


 シルヴェイン王子がこちらを向きながら挙げてくれた案ですが、どちらにしろ余り有り難くない展開です。


 雛鳥を殺すのは、人道的な意味合いを除くとしても、絶対に後々面倒な事になる予感しかしませんし、今折角整い始めた第二騎士団ナイザリークでの生活を手放すと、即行で生きる事自体に行き詰まりそうです。


 それに、レイナードを魔王にしようと画策している者達から身を守る為にも、探し出す調査にもここに居る方が都合が良い筈です。


 何だかんだと、第二騎士団ナイザリークに身を置いている間は隊の親しくなって来た皆さんや隊長さん達、シルヴェイン王子にも守られているような気がするんですが、それから離れるのは色んな意味で覚悟が要りますね。


 となると、親鶏さんが降りて来ても無害認定されるような仕掛けを作るか、コルちゃんのように実質的無害な存在にしてしまうかです。


「王都東端の第三騎士団の営所ならどうでしょう? 第二騎士団ナイザリークから人を出す形で間借りさせてもらって、巣立ちまで育ててやればレイナードも解放されるでしょうから。」


 隊長さん達は、その間も話を進めてくれているようです。


「そうですね、ハザインバースが孵化してから巣立つまでは推定3ヶ月程。秋の初めには手が離れるなら、繁忙期に入る頃には片付くでしょう。」


 答えたクイズナー隊長は、魔物の生態に詳しいんでしょうか。


 ハザインバースに関することを後でもう少し詳しく聞いてみるべきですね。


「そうだな。その辺りが妥当な案だろうな。」


 シルヴェイン王子も仕方なくでもそれに同意しているようです。


 一先ずはその方向で話しが進みそうですね。


「ええと、そうすると、コルちゃんもその営所に連れていく事になるんですか?」


 ここで、口を挟んでおきますよ。


「サークマイトか。塔の魔法使いの見解は?」


 シルヴェイン王子の問いに、マニメイラさん達が顔を見合わせています。


「そうね。その話はちょっと塔に持って帰るわ。もしレイナード様がサークマイトと東の営所に移るなら、塔からも人を定期的に派遣するか、王城に定期的に通って貰う事になるから。」


 ・・・研究熱心ですね。


 引きつった笑みを向けてしまうと、マニメイラさんには良い笑顔を返して貰いました。


 何はともあれ、どんどん大事になって来ましたよ。


 マユリさんには格好良いこと言いましたけど、現状に流されずに解決を目指しつつ、レイナードを呼び戻す環境を作るなら、多少の強引さとスピード感も大事です。


 最早失うものはないんですから、早速行動開始です。


「了解です。それじゃ、ヒヨコちゃんが起きてる内に、コルちゃんと顔合わせしてきます。次の餌やりにお母さんが降りて来るまで自室に戻ってますので。」


 言い放って立ち上がると、ガバッと全員の視線がこちらに来ました。


「ちょ! レイナード様! サークマイトとハザインバースの雛鳥、引き合わせるつもり?」


「それはそうです。どちらも俺の保護下に入るなら、仲良くして貰います。」


 言い切ってみると、皆様の顔が呆気に取られたものに置き換わります。


「わ、分かったわ! コルステアくん、付いて行って見届けて!」


 マニメイラさん、流石に余裕のない声でコルステアくんに命じていますね。


「カルシファー! お前も行って見届けるように。」


 シルヴェイン王子も苦い口調でカルシファー隊長に命令です。


 そして、コルステアくんとカルシファー隊長の死んだような目が物語ってますね。


 もう勘弁してくれよと。


 大丈夫です、そう一番感じてるのは、こちらですから。

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