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「へぇ。ハザインバースの雛鳥ねぇ。本当、巨大なだけで無害なヒヨコに見えるわね。」


 第二騎士団ナイザリークの兵舎に戻ると、魔法使いの塔から、マニメイラさんとジオラスさんとコルステアくんが派遣されて来ていたようです。


 腕の中でスヤスヤ眠るヒヨコちゃんを覗き込んでのマニメイラさんの発言でした。


「そうなんですよ〜。大体お母さん鶏は、何でこの子置いて行ったんですかね? 俺、育て方とか餌何あげれば良いかとか、分かりませんよ?」


 ほとほと困り果てたように返しておくと、マニメイラさんも苦笑いです。


「ねぇ、レイナード様。そこは研究材料に、とか実験体に、とか塔に提供しようっていう発想はないわけ?」


 あれ、マニメイラさんいきなり怖い事言い出しましたよ。


「え? ダメでしょそれは流石に。お世話する傍らこの子の負担にならない程度に診察とか観察とかなら問題ないと思いますけど。」


 少し膨れっ面気味に返してみると、マニメイラさんの口元がひくりと引きつりました。


「あのね、レイナード様。この間から思ってたけど、貴方の魔物に対する感覚、おかしいから。何普通に保護しようとしてるわけ?」


 改まったように言われますが、そこは生き物の命を粗末にするのは、やっぱり良くないと思いますよ?


「いやだって。鳥獣保護法とか、野鳥は勝手に捕まえたり人間本位で飼育したりしちゃダメじゃないですか。ましてや、実験動物にするとか論外でしょ。」


 と、胸を張って言ってしまいましたが。


 あれ、その常識って、ここでは通用しませんでしたね。


 それにこの子、良く考えたら、野鳥じゃなくて野良魔物でしたね〜。


 害獣の一種扱いですよね〜。


「は? 何? チョウジュウ何とか?」


 案の定、眉間に皺寄せたマニメイラさんの言葉に、思わず冷や汗です。


「あ、いえ、何でもないです、忘れて下さい。・・・でも、ですね。魔獣って言っても赤ちゃんなんですよ? しかも、この子に何かしたら、ほら、親鶏さん達団体さんが襲撃してきますよ? 中隊規模で討伐戦するような厄介な相手なんですよね?」


 誤魔化しつつ、第三騎士団の騎士さんから聞いた俄か知識を披露します。


「だから、完全防音結界の中でなら、好き放題でしょ?」


 黒いですよマニメイラさん。


 じっとりした目を向けてしまいましたね。


「・・・まあ。でも、悪い事って露見するように世の中出来てるんですよ? そもそも完全防音結界って、音波を遮断するとして、人の耳に聞こえないような超音波とかも遮断出来るのかとか、親鶏を呼ぶ鳴き声から、実際には音以外にも何か出てるかもしれないとか、分からないじゃないですか。」


 ボソボソ呟いてしまいましたが、ここでも変換出来なかった言葉があったようで、マニメイラさんは首を傾げていました。


「はあ、じゃあレイナード様はどうしたいの? どうするのが最善だと思ってる訳?」


 それは、分からないですけどね。


「言っておくけれど、ハザインバースは厄介で恐ろしい魔獣よ? 町中に出没したら、それこそ騎士団の人達が命懸けで討伐するような外敵だという事は理解しているかしら?」


 尤もなお言葉に、グッと言葉に詰まってしまいます。


 そうなんですよね。


 平和で人間が食物連鎖の頂点を謳歌している元の世界とは違って、レイナードさん達が生きるこちらの世界では、人間は魔物や魔獣に命を脅かされているんでした。


 ちょっと安易で不謹慎な事言ったかもしれません。


 そこは、ごめんなさいです。


 だからと言って、どうするべきとは直ぐには結論が出せそうもありません。


「済みません。俺は、これまでの記憶もこれまで培われた筈の常識もないので、今回の事についても正しい判断が出来るとは思えません。だから、どうするかは殿下の出した結論に従います。」


 真面目にそう返すと、マニメイラさんは驚いたような顔になりました。


 いえいえ、偶にはまともな事も言えますよ?


「だから、どうしたらいいと思いますかって最初から訊いてるじゃないですか。」


 周りの皆様が、余りにもびっくりした顔のまま固まっているので、口調崩して言い直してみました。


 すると、後ろから来ていたカルシファー隊長が咳払いしました。


「まあ、そうだな。とにかく、殿下が来られるまで会議室に入って待つことにしよう。」


 シルヴェイン王子は、今回の騒ぎについての報告やら、ハザインバースの雛鳥を連れ帰った事やら、各所に報告に行く為に、一足先に王宮に戻っています。


 今は腕の中でスヤスヤ眠っているヒヨコちゃんが起きた時の餌問題が一番の心配ですが、それまでは会議室に入っているのも悪くないでしょう。


「了解です。」


 答えてから、マニメイラさん達の間を割って、兵舎に入って行きます。


 ヒヨコちゃんは普通の大人の鶏くらいのサイズがありますが、最近鍛え気味なレイナードの腕なら、それほど気になる重さではありません。


 兵舎に向かって廊下を歩いていくと、後ろからカルシファー隊長を始め、同じ隊の人達の一部がゾロゾロ付いて来ます。


 中にはケインズさんもいるようですが、その表情は帰り道からずっと強張っているように見えます。


 何か、要らない責任とか感じてないと良いんですけど。


 レイナードお世話係的な立ち位置のケインズさんには、厳しく事情説明を促される可能性もあるのかもしれません。


 そう思うと申し訳ないかもしれませんが、今回の事は、何もこちらは悪くないと思うんですよね。


 だから、堂々としていようと思います。


 会議室に入って、促されるまま適当な椅子に座ったところで、廊下から慌しい足音が聞こえて来て、慌てた様子で第二騎士団ナイザリークの騎士さんが駆け込んで来ました。


「上空をハザインバースが1匹旋回中! 王城に緩やかに降りてこようとしている模様です!」


 その報告に、会議室内で少し寛ぎモードに入ろうとしていた皆さんがバッとそちらを振り返りました。


「何! 1匹だけか? 群れが後から追って来ている様子は? そいつは攻撃態勢に入っているのか?」


 カルシファー隊長が矢継ぎ早に問いを返しているのを見ながら、こちらは冷や汗です。


 もしかして、ヒヨコちゃんを連れ帰ったの、まずかったんでしょうか?


 追って来たのがお母さん鶏だったとして、上空から毒やら炎やら降って来たらどうしましょうか。


「レイナード! どうなんだ? そいつを取り返しに来たのか?」


 焦ったようにカルシファー隊長が訊いて来ますが、そんな事分かる筈もありません。


「塔の魔法使いが、王城上空に魔物の侵入を防ぐ結界を張るべきかお伺いを立てて来ました!」


 それは、何となく非常にまずい事になりそうな気がします。


「カルシファー隊長! 迎えに来たお母さんだったら、素直に引き渡した方が良いような気がします!」


 すかさず訴えてみると、苦い顔で悩むカルシファー隊長が少し躊躇ってから、頷き返して来ました。


 なんでしょう、一難去ってまた一難?みたいな事態に突入しています。


 どう転んでも、始末書書かされるような大騒ぎに発展している気がしますね。


 後は、一足飛びにクビとかにならない事を祈ってますよ!



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