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「レイナード!」
と、そこへ漸く泣き付き先、うちの頼りになる団長様のシルヴェイン王子到着です。
「殿下!」
涙目で振り返ってみると、居ますね第二騎士団の皆さんが、完全武装で。
そして、レイナードの足元を見て、シルヴェイン王子固まってます。
そこでヒヨコちゃんが、ご機嫌にピヨピヨ鳴きながら足にスリスリしてますから。
「参考までに聞いておく。その足元の巨大なヒヨコだが、まさかハザインバースの雛鳥だとか言わないよな?」
「・・・。」
これ、何て言ったらシルヴェイン王子に胸ぐら掴まれずに済むんでしょうか。
「レイナード様! 早まっちゃダメです!」
と、そこへ女の子の声が割り込んで来ます。
いえ、橋の欄干に足を掛けたり、高層ビルの屋上のフェンス外に張り付いたりしてませんよ?
「マユリ!」
そして慌てて追い掛けて来たような声。
あ、これから修羅場的な何かが始まる予感がして来ましたね。
もう、面倒なんで、そろそろ交代しませんか? レイナードさん。
目を瞑って意識を遠のかせようとしてみましたが、全然来てくれそうな気配はありませんね。
やっぱり、発現条件“レイナード命の危機”が必須でしたか。
舌打ちしたいのを我慢して、仕方なく目を開いてみます。
シルヴェイン王子の隣に、ザ日本人な女の子がいます。
服装はこちらの世界のお嬢様風ですが、見慣れたあっさり顔の黒髪黒目のお目めぱっちり系可愛い女子です。
年齢は、まだ20歳前でしょうか。
高校生女子の雰囲気が漂っていますね。
そして、その反対隣に、滅茶苦茶不機嫌顔の王太子様が居ますが、今日も視線で殺されそうですね。
「レイナード様! 貴方の辛い気持ちは分かります! でも、早まっちゃダメです! もう逃げませんから、お話ししましょう?」
あー、今の発言で場の空気が氷点下まで下がりましたよ?
「そういうとこですよ。貴女がダメなとこって。」
つい口から本音が出てしまいましたね。
「へ?」
呆気に取られた空気の後、ヤバい空気が流れ出します。
「人が必死で押し込めて隠して来た傷口掘り起こして、癒すつもりだったのかもしれないけど、その前に手を離したりするから、行き場を無くした傷口が膿んで堕ちちゃうんですよ。」
もう、レイナード絡みでこの人に言えることはこれしかないですね。
「レイナード様?」
「手に負えないものには、最初から手を出さなければ良いのに。自己満で周りを振り回すのは、止めといた方が良いですよ。」
王太子様が前に出て来て、拳が迫る残像が。
と、その拳が途中で止まりました。
「落ち着いて下さい兄上。」
冷静な声はシルヴェイン王子のものです。
なんとシルヴェイン王子、王太子の腕を掴んで止めてくれたようです。
「シルヴェイン! こいつがマユリに何をした? それに対する言葉がこれか? マユリはこいつに与えられた恐怖を必死で押し殺して、それでもこいつの為にこうして声を掛けたんだぞ?」
うわー、面倒臭いです。
本当にこの尻拭いしなきゃいけませんか。
いや、しないとレイナード即処刑コースですよねやっぱり。
「足元を見て下さい。ハザインバースの雛鳥がレイナードに懐いています。ここで、レイナードに何かあれば、この雛鳥は身の危険を感じて親鶏達を呼ぶかもしれません。」
シルヴェイン王子の物凄く冷静な説明が入って、王太子はくっと唇を噛んだようです。
その振り上げていた腕が戻されます。
「レイナード様。ここで貴方が魔物を呼んで町を薙ぎ倒してしまうと、ルートが回避不能になって。貴方は、・・・なってしまうんです。」
マユリの濁した言葉に、何となくもしかしてと思っていた路線が浮上してしまいました。
成る程、です。
「貴女は、レイナードのそのルート回避の為に、中途半端に関わろうとした。成る程、それでレイナードは気付いたのかもしれない。それで、彼自身も回避の為に、あんな手に出たと。」
レイナードの行動の意味が繋がって来ましたが、だからと言って、物凄く迷惑千万です。
「え?」
マユリさん、目を瞬かせてますね。
さて、何処まで明かしたものか。
「まあ、なんていうか、良く覚えてませんが、レイナードは貴女に仄めかされて、彼自身もそのルートを回避する為に何か画策したんですよ。だから、貴女はもう心配しなくて良いですよ。シナリオは歪んで元通りには運ばなくなってるから。」
規格外の魔力を持って生まれて、疎んじられて育てられて、周りに壊したくない大事なものを作らせず、決定的な裏切りに遭う。
それによって、世の中を恨む人間に誘導して。
つまりこれは、誰かが画策してレイナードを魔王に仕立て上げるシナリオを描いてたってことですね。
「へ?」
マユリさんに、レイナードスマイルを送っておきます。
「仕組んでた奴がいるってことですよ。まあ、そんな奴の言いなりになるつもりなんかありませんから、調べて見付けてぶち壊してやる事にします。ですから、マユリさんは王太子殿下と幸せになる未来を邁進して下さい。あんまりルートに囚われてちゃダメですよ。」
「え? あの、レイナード様?」
物語のヒロインさんは、純粋で単純で、少し抜けてるくらいの周りが守ってあげたくなるくらいのキャラが相応しいんでしょう。
まあ、頑張って下さい。
ルート選択のある乙女ゲームか何かの魔王になっちゃうキャラに転移したのか憑依したのか。
レイナードは魔王に仕立て上げられそうになっていることに気付いて、回避する為に禁呪を使って異世界から身代わりを呼び出して逃げた。
騎士団に放り込まれて従者を追い出したのも、もしかしたら身代わりが馴染むまでの時間稼ぎのつもりだったのかもしれません。
まあ、何処まで読んでたかわかりませんが、物凄く迷惑な事には違いありませんけどね。
つまり、ここでやる事ははっきりしたってことですよ。
黒幕をやり込めて魔王化ルートを回避したところで、レイナードと話を付けてやりますよ!




