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「失礼しまーす。」


 声を掛けてから事務室に入ると、中にいた人達からパラパラと視線が返ってきます。


 後ろから入ってきたケインズさんとオンサーさんは苦笑いです。


 あれ? だって、職員室に入る時は普通、失礼しまーすって入りませんか?


「お前、ここも初めてか。」


「まあ、各種手続きも何なら机仕事も従者にやらせてたんじゃないですか?」


「あー、成る程なぁ。」


 2人はそんな会話を交わし合ってますが、騎士団の事務室って隊長さん達の仕事机が並んでるって聞いてますよ?


 騎士さん達もデスクワークはここでやるそうですが、ここにハイドナーが混ざってたら流石に目立って怒られそうなものですけど。


「まあいいわ、今のレイナードなら机仕事もサボらないだろ。」


 オンサーさんが微妙な顔に気付いてくれたようで、その話しを終わらせます。


「なあ、隊長達は?」


 オンサーさん、事務室に居た事務員さんに訊いてくれています。


 さっと見渡した事務室の奥には、簡単な間仕切りで区画分けされた空間があって、それぞれ大きめの机が置かれています。


 うず高く書類が積まれている机や、植物の鉢植え取り囲む机とか、菓子の入ったボックスが幾つも置かれた机に、紙一つ埃一つ落ちていなさそうな綺麗な机から、魔法の本やら良く分からない装置のような物が所狭しと並ぶ机など、個性のある小空間になってますが、その机の主はいずれも不在のようです。


「何だか、机の主がどの隊長って結び付けちゃいけないような気がしてきました。」


 ぽつりと引き気味に溢してしまうと、振り返ったオンサーさんの口の端が上がりました。


「そう言うなよレイナード。大掃除の時期になると、殿下の監修の元、俺達が隊長達に日頃の鬱憤を晴らす素敵な恒例行事が始まるんだぞ?」


 にやにやしながら言い出すオンサーさんに、引きつった笑みを返しておきました。


「確かに、クイズナー隊長の机からは、今年は何が出て来るでしょうねぇ。毎年楽しみにさせて貰ってますよ。」


 オンサーさんが声を掛けていた事務員さんがちょっとだけ話に乗ってきたようです。


「あ、因みに、隊長達なら隣の会議室で集まって緊急会議が開かれてますよ? 何でも、カルシファー隊長宛てに殿下から耳を疑うような指令が出たとか出てないとか?」


 その話に、少しだけギクリとしてしまいました。


 その話題、コルちゃんの事ですかね?


 確かに、詳しくコルちゃんが無害になったと知らないと、危険生物を宿舎に放とうとしてるような話になっているかもしれません。


「んー困ったな。俺達はこれから任務だし、レイナードは早いところ手続きしなきゃならないんだろ?」


「あー、はい。そうですねー。」


 思わず及び腰で答えてしまうと、オンサーさんが怪訝そうな顔になりました。


「夕方の訓練が済んだら、もふもふの無害な可愛い小型魔物ペットだったか? 俺も見に行くからな。」


 良い笑顔のオンサーさん、意外に動物好きなんでしょうか。


「そうだな。無害な小型と言っても魔物は魔物だ。結界が本当に大丈夫そうか俺も確認に行こう。」


 ケインズさんらしい真面目な方向からのお言葉にも顔が引きつりそうになってしまいました。


「そうですねー。」


 無駄に笑顔になってしまいましたが、内心ちょっとだけ汗かいてます。


 お2人には、コルちゃんのこと、小型の無害なもふもふの魔物って伝えてありますが、元が凶悪なサークマイトだとか、結界魔法のお陰で結果無害でもふもふになったとか、言えてません。


 隊長さん達がわざわざ会議を始めた辺り、やっぱり大事に発展するんでしょうか。


 どうしましょう、割と心配になって来ました。


 コルちゃんを檻から出すなとか、牢獄みたいに部屋の扉とか窓とかに鉄格子嵌められちゃったりとか。


 しませんよね?


 もふもふ快適ライフを手に入れる予定が、牢獄監禁なんてごめんですよ?


 でも、コルちゃんと一緒なら数日は篭ってられるかもしれません。


 その場合、美味しいご飯の差し入れは必須ですけどね。


 そんな逃避に走ってたところへ、隣の部屋の扉が開きました。


「おい、誰かレイナード呼んで来てくれ。」


 顔を出したのは、うちのカルシファー隊長です。


 と、事務室内を見渡したカルシファー隊長がこちらに気付いたようで目が合いました。


「ああ、もう来てたのか。」


 カルシファー隊長の目が凪いでます。


「なあレイナード、良く聞くんだ。無闇に野生の魔物を手懐けて拾って来ちゃいけません。いい子だから拾った場所に返してきなさい。」


 子供に言って聞かせる親のように、噛んで含めるような口調でカルシファー隊長が言ってきます。


 ですが、実はそのこめかみに怒りマークが付いてるの、心の目で見えますよ。


「ええ? ちゃんとお世話するから、飼っちゃだめ?」


 と、ついノリで可愛らしく答えてしまいましたが、振った本人の癖にカルシファー隊長表情が消えかけてますよ?


「ああ、カルシファーが自滅し掛けてる。」


 カルシファー隊長の後ろから冷たい表情で突っ込みを入れてるのは、トイトニー隊長です。


「だって、拾って来てませんよ? 返すって塔にですか? 殿下も塔の魔法使いも俺が側に置いて面倒見る方が良いだろうって連れて来るの許可してくれましたよ?」


 その2人の隊長を押し退けて後ろからガタイの良い隊長さんが出て来ました。


「貴様は、サークマイトがどんな魔物か知ってるのか?」


「殿下から、凶悪な魔物だって聞きましたよ。角から強力な魔法を放って来る上、上位の魔物や魔獣に擦り寄って自然放出されてる魔力を食べて、ある時巨大化して多岐に渡る魔法を繰り出してくる魔獣になるんでしたっけ?」


 シルヴェイン王子から聞いたサークマイトの説明を思い出して並べてみました。


「・・・で? それでもお前はここで飼うとか言い出すつもりなのか?」


「違いますよ。塔の魔法使いさん達が、何かあった時に結界を張った俺が側にいた方がいいだろうってことで、押し付けて来たんですよ。塔で一二を争う結界魔法使いのコルステアくんが俺の部屋にしっかり結界張ってくれましたから、これで危ないっていうなら、塔でも危ないでしょうね。」


 ちょっと面倒になって来たので、真面目な方向で答えてみると、周りが呆気にとられた顔になっていました。


「お分かりですか? お名前は知りませんが、何処かの隊長さん。」


 と、流石にガタイの良い隊長さんの眦が吊り上がります。


「フォガート隊長、落ち着いて。記憶を失ってようが能天気に振る舞っていようが、こいつは間違いなくレイナードなんですよ。振り回されている訳にはいかない。我々はレイナードの抑え役だ。そう始めに言われていたのを忘れたか?」


 トイトニー隊長がそう言ってフォガート隊長を嗜めています。


 隊長さん達の力関係は、トイトニー隊長が上位ってことでしょうか。


 というか、面倒でほんのちょっと本音を垂れ流した結果、やっぱりレイナードだなって言われたのは、地味にショックかもしれません。


 お世辞にも似てるとか言われたくなかったです。


 それに何でしょうか、トイトニー隊長にしろシルヴェイン王子にしろ、ダメ男なレイナード以外の何かを知っていているのかもしれません。


 ダメ男が本当にダメなだけだと認識されていたなら、そもそも警戒される事もなかった筈です。


 強過ぎる魔力の暴走を警戒しているだけではないような、不透明な何かを感じます。


 レイナード像が段々分からなくなってきたような気もしますが、とにかく今は、コルちゃんのことです。


「ここで話してても結論は出ないと思うので、一度コルちゃんを見に来て安全を確かめたらどうですか?」


 これには一理あると思われたのか、カルシファー隊長とフォガート隊長がトイトニー隊長を見ます。


「・・・そうだな。お前の有り得なくまとも過ぎる発言の裏を一々探るよりも、サークマイトを見た方が良く分かるだろう。」


 その微妙なトイトニー隊長の結論を受けて、宿舎のレイナード部屋見学会に向かうことになりました。

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