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 早朝、朝の目覚めは扉を叩くかなり荒々しい音ででした。


「ここを開けなさい!」


 から始まった叫びが、速やかに開けろ!まで来たところで、身支度を終えて溜息混じりに扉に向かいました。


 扉には昨晩怖かったので、古代魔法で施錠魔法を掛けておいたのですが、あの王太子様が夜中にこっそり襲撃なんか仕掛ける訳がありませんでしたね。


 さて、どんな手に出たのか。


 胃が痛い以外にありません。


 仕方なく施錠魔法を解除すると、少し後ろに下がります。


 と、蹴破られる勢いで扉が開けられました。


 扉から雪崩れ込んで来たのは、エダンミールの兵士さん達です。


「カダルシウスのレイカルディナ王女。貴女をマーズリード王太子殿下に薬を盛ろうとした容疑で連行致します。」


 微妙に言い渡し方が丁寧なのは、こちらの王族身分のお陰のようです。


 それにしても、そう来ましたかという容疑ですね。


 盛ろうとしたのは貴方ですが、まあ証拠はないですからね。


 給仕係を抱き込めば幾らでも偽装出来たことでしょう。


「全く身に覚えのない容疑ですが? 何処へ連行されるのでしょう?」


 冷静にそう問い返すと、兵士の1人が舌打ちせんばかりの表情で睨み返して来ます。


「国王陛下がお呼びです。大人しく着いて来られないようなら、少々手荒にお連れすることになります。」


 苛立ちを抑えたような低い声で返して来た兵士には、ゆっくりと瞬きをしてから肩を竦めてみせました。


「国王陛下のお召しであれば仕方がありません。事実無根の疑いが掛かっているようですが、陛下の前でそのようにお話ししてみましょう。」


 堂々とそう言い切ってみせてから、扉を潜って部屋を出ます。


 これは、下手をするとカダルシウス側の信用出来る誰かが王宮まで迎えに来てくれるまで、時間稼ぎしなければいけなくなるかもしれません。


 一先ず今一番大事なのは、何があっても死なない怪我しない痛くない。


 よしイメトレ完了です。


 宣言通り周りを囲まれましたが触れられることなく国王の元へ案内してくれそうですね。


 国王呼び出しなら王の塔の中の謁見室だろうと予測をつけていましたが、促されて潜った両開きの扉の向こうはかなり広い部屋で、既に待機していた様子の先客が数十人は居そうです。


 促されて広間の中程まで進むと、国王の座る玉座を中心に、薄らと魔法陣が描かれているのが目に入りました。


 立ち止まるように言われたのは、その魔法陣の10歩程手前です。


「カダルシウスのレイカルディナ王女をお連れしました。」


 兵士がそう国王に告げてから、斜め後ろに下がります。


 ここは一つ、ちょびっとだけされた王女教育を思い出しつつなるべく優雅に見えるように礼を取ります。


「レイカルディナ王女、そなた少々困ったことをしてくれたようだな。」


 いきなり本題に入った国王が掛けた言葉に姿勢を戻してそちらを見ると、何処かもやっと曇ったような表情の国王が玉座に腰掛けてこちらを見下ろしています。


「それは、どのようなことでしょうか?」


 ここで大人しくしていても始まらないので、堂々と問い返してみようと思います。


「昨晩の王太子との晩餐でのことだ。」


 口調は厳しいのに、国王の瞳は濁っていて何を考えているのか全く分からない顔付きです。


 そしてやはり、ラスファーン王子の部屋で見た時と同じように、王太子の魔力が頭の辺りに絡み付いています。


 エダンミール王宮に不法侵入した直後に会った国王にも、薄らと見える程度には王太子の魔力がくっ付いているのが見えましたが、何かに影響を与える程の魔法を掛けられているようには見えませんでした。


 それが、ラスファーン王子の部屋で王太子が入って来た辺りから、国王の表情は乏しくなってはっきり分かる程の魔力が絡んでいるのが見えるようになっていました。


「そなたは、王太子の食後のワインに媚薬を盛ったのではないか?」


 本当に勘弁して頂きたいという話展開でしたが、周りはそれを頭から信じている様子でこちらに厳しい刺さるような視線が集まって来ています。


「いいえ。そのような事実はございません。昨晩お招きに預かった晩餐には、わたくしは手ぶらで参加しておりますし。食後のワインも他のお食事と同様毒物や薬物除去の魔法を掛けてから頂きましたが、確かに食後のワインは非常に酸っぱくて飲めたものではございませんでした。王太子殿下にもその旨お伝えしておりますが? あの後、殿下はわざわざその怪しげなワインを口にされたのでしょうか?」


 このはっきり発言には広間にお集まりの皆さんからざわざわと囁き交わす声が上がります。


「そもそも、仮に媚薬入りのワインをわたくしが王太子殿下に飲むように仕向けたとして、それは何故でしょうか? こちらには知り合いなどいないわたくしがどなたの為に? 少なくともわたくしは食後直ぐに晩餐室をお暇して部屋に戻っております。」


 理路整然と並べ立ててみせると、困惑したような空気が広間に広がります。


 と、そこで後ろの広間の扉が開けられて、王太子殿下が入って来ました。


 真打登場でしょうか?


「レイカルディナ王女、そのように皆を混乱させて楽しむのは、少々悪趣味ではないだろうか? 私相手ならば笑って済ませて差し上げるが。それとも、昨晩の貴女の計画に私が乗って差し上げなかったから、拗ねてこのような騒ぎを? それでも、王太子である私を案じてくれた皆をこのように扱ってはならないよ?」


 優しげ爽やかを装ってにこりと笑い掛けながら近付いて来る王太子は、にっこり笑顔の奥に仄暗い光を瞳に宿しながら、真っ直ぐこちらに魔力を向けて来ます。


 魔法に置き換わったそれは、やはり精神支配系魔法のようですね。


 絡み付かれる前に、こちらも無詠唱で魔法防御結界を自分に張ります。


「マーズリード王太子殿下。話がややこしくなるので、精神支配系の魔法はお控え頂けませんか? これ以上横槍を入れられて話が拗れるのも困るので、一時的にこの広間に魔法無効化結界を張らせて頂きます。」


 そう宣言して今度は古代魔法の言語で結界構築しますが、途端に王座を中心として描かれていた魔法陣が光り始めます。


「レイカルディナ王女、他国の国王の座する謁見室で、許可もなくこのように魔法を大々的に展開するなど、あってはならないことだ。やはり寵児殿の貴女には勝手過ぎる振る舞いが見受けられるとカダルシウスの大使殿に伝えねばなりませんな。」


 本当は歯軋りを堪えているような顔付きの王太子ですが、口にする言葉は取り繕っているようです。


「マーズリード? もう身体は良いのか? そなたの要望通り、レイカルディナ王女には話を聞いている最中だったが。」


 国王が王太子の精神支配を逃れたのか、瞳に王太子を案じるような感情のある色を浮かべています。


 精神支配を逃れても、信じ切っている王太子のことを疑う様子はありませんね。


「はい父上。もう薬は抜けたようです。レイカルディナ王女は、こうまでしてご自身の存在感を私に植え付けたかったようですが、ここまでされては私も受け入れてあげるべきかと思い始めておりまして。」


 そんな殊勝に聞こえる言葉を吐いて下さる王太子には、げんなりした顔を向けてしまいました。


 まあ、この脱力感もバネにこちらも反撃を再開しようと思います。

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