44
「それじゃあレイナード様、失礼致します。」
コルステアくんを置いて、コルちゃん入りの檻やらお世話グッズだのを運んでくれた魔法使いさん達が引き上げて行きます。
「ああ、ありがとうな。」
立場とかイマイチ把握出来ていませんが、様付けて呼ばれるのでこれで良いのでしょう。
扉のところでお見送りしてから、ハイドナーが例の荷物を運び出すのを横目に見ながら、部屋の中を何か真剣に見回すコルステアくんにもチラチラ視線を向けてみます。
「結界は、部屋全体に張るのか? それとも行動圏を限定して円形に区切るか?」
ぶすっとしてそれでも話し掛けてきたコルステアくんは、中々お仕事熱心なようですね。
大嫌いなレイナード絡みのこんなお仕事も真面目にこなしてくれるようです。
「なるべく自由に動き回らせてあげたいから、部屋全体に張ってくれる方が良いな。」
要望を伝えると、無言で頷いたコルステアくんが魔法使いのローブのポケットから石を取り出しました。
部屋に大体等間隔で8つ石を置いていって、研究室でやったように呪文を唱えて結界を張っていきます。
呪文が終わって結界が部屋中に広がり切ったところで、コルステアくんが身体の力を抜いたようです。
「結界張る時に使うこの石って何か特別なやつなのか?」
石の一つを眺めながら問い掛けると、コルステアくんが溜息を吐いたようでした。
「忘れたって、あんたそんな事も忘れたのか?」
苦々しい口調のコルステアくんは、苛立ったように頭をくしゃっとかき混ぜたようでした。
「人の迷惑も省みず、散々好き勝手して迷惑掛けて。そして、都合良く忘れて? そしてまた都合良く思い出すのか? 僕はあんたの事、兄だとは思わないからな。」
どうにもこうにも、根深く嫌われてるようですね。
身内ですから、被った迷惑も、落胆も、他人様よりも大きかったんでしょうね。
彼とレイナードの間に直接何があったのか、なかったのに一方的な風評被害的なものを被っていたのか分かりませんが、いつか和解出来る日が来るんでしょうか。
レイナードの身内とはなるべく関わらないようにしようと思っていましたが、和解の道を探ってみた方が良いんでしょうか。
ただ、そうなると、本当に中身が入れ替わった事に気付かれる可能性があるってことです。
まあ、その辺りは、どうなるか分からない話なので、行き当たりばったりになるしかないでしょうね。
「コルステアくん、コルちゃんを外に出す前に、ご飯食べに行こうか。コルちゃんを出して様子見て大丈夫そうなら、コルちゃん持ち込む手続きしに行く間、コルステアくんに見てて欲しいからさ。」
そう気負わず声を掛けると、コルステアくんは不本意そうな顔ながらも渋々頷き返してきました。
その後、コルステアくんを連れて入った食堂では、ケインズさんとオンサーさんが丁度食事中だったようで、こちらに気付いて手招きしてくれました。
昼食を持って足取りも軽くそちらへ向かいましたが、コルステアくんは、きっちりレイナードから席一つ分空けて座ると、さっさと食べ始めてしまいました。
その様子に苦笑いしていると、オンサーさんが目を瞬かせています。
「何だ? 連れじゃないのか?」
その呟きにケインズさんが溜息を吐きました。
「弟だろ? コルステア・セリダイン。王城魔法使いで結界魔法に於いては、塔でも一二を争う腕前だと有名だ。」
流石のケインズさんですが、セリダインって何でしょう、レイナードの苗字でしょうか。
爵位に付いてるランバスティスは苗字じゃないパターンですね。
「ケインズさん良く分かりましたね。弟のコルステアくんだって。」
訊いてみると、ケインズさんに呆れたような顔をされました。
「レイナードの弟は、というかランバスティス伯爵のご子息は皆有名だからな。それに、弟君は家族の中でお前に一番似て美形だと言われている。」
何とも言えない苦味のある顔でそう言ったケインズさんは、別にレイナードの美形を間接的に褒めたかった訳ではないのでしょう。
「うーん。やっぱりちょっと似てますよね。俺も見た時そう思ったから。」
「・・・そうか。お前にとっては初対面だよな。」
ケインズさんまた気遣ってくれたみたいです。
レイナードに対して色々思ってた過去は無くせないけど、記憶を失った今のレイナードを慮ってくれる本当に出来た人ですよね。
「ん〜? という事は、前のお前に蟠りがあるんだろ?弟は。何でまた一緒に食堂に来て飯食ってるんだ?」
そこですよね。
満面の笑みを乗せて言いますよ?
「魔法使いの塔で、魔物をペットに貰ったんです。」
「「・・・は?」」
見事なオンサーさんとケインズさんのハモリ、頂きました〜!
心の中でガッツポーズしたところで、ちゃんと説明のお時間ですね。
魔法使いの塔での出来事を2人に説明することになりました。




