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 ラスファーン王子達との魔力回路拡張の打ち合わせが一段落したところで、部屋の扉が叩かれました。


 何となく、誰か来る度に王太子じゃないかと警戒する気持ちになって落ち着きませんね。


 ここはあちらのフィールドで、アウェイなこちらは周りの何一つ信用出来ないという状況です。


 クリステル王女から紹介されて付けて貰った侍女さんが対応してくれますが、困惑したような顔でこちらを振り返りました。


「どうかした?」


 問い掛けてみると、侍女さんが小さく頷いてこちらに駆け寄って来ます。


「カダルシウスの駐在大使様がお見えになっています。」


 駐在大使なんていたんですね。


 まあ、カダルシウスとエダンミールは友好国だと言われていたので、互いの国の王都に大使館くらい置かれていても不思議ではないかもしれません。


「そうですか。・・・それじゃ、お会いするので通して下さい。」


 そもそもカダルシウスの誰かに今こちらでお世話になってることは言えていないので、どうして駐在大使がいきなり訪ねて来たのかも疑問です。


 どうせ訪ねてくれるなら、追いついて来たシルヴェイン王子とかが良かったのですが、一体何の用でしょうか。


 侍女さんに案内されて入って来たのは、中年のちょっところっとした感じのおじさん大使です。


「これはレイカルディナ王女殿下には、初めてお目に掛かります。私エダンミール駐在大使のレグミールと申します。これから何かと関わる事も増えるかと思いますので、何卒よしなにお願い致します。」


 そんな台詞を口元をにやつかせながら言うレグミールさんは、ちょっと苦手なタイプのおじ様ですね。


「初めまして、レグミール大使。それにしてもわたくしがここにいると良く分かりましたね。」


 まず一つ目の疑問をさっさと解消しようと思います。


 因みに、今はまだお向かいのソファにはラスファーン王子とクリステル王女が座ったままです。


 お二人には敢えて付き合って貰った形になりますが、信用出来るか分からない人と2人で会うのはなるべく避けたいんです。


「ああ、ご安心なさい。王太子殿下とは話して参りましたから。思い余ってこちらに駆け込まれる前にご相談下されば、私が万事取り計らいましたものを。これからは、何事も私を通して頂けますな?」


 と、中身の全く分からない話を展開されて、目を瞬かせてしまいます。


「レグミール大使を? どのように?」


 カダルシウス側への連絡にって事でしょうか?


 全く話が読めませんね。


 と、まだ立たせたままのレグミール大使がチラッとソファを見ながら、はあと溜息を吐きました。


「宜しいですかな?レイカルディナ王女? 私はエダンミールに駐在のカダルシウスより派遣されている大使なのです。カダルシウスとエダンミールが国として交渉を行う場合は、私が両国の橋渡しをすることになるのですぞ? 今回の件も、レイカルディナ殿下はお心のままに進められたことかもしれませんが、本来ならばエダンミール側へ私の方から何某かの申し入れをしてからお入りになるべきだったのです。」


 噛んで含めるように小馬鹿にした感じで始まった話でしたが、この人状況が分かった上で言っているんでしょうか?


 当事者のラスファーン王子を前にして、一刻を争う状況だったのに自分を通すべきだったとか、正気を疑う話を始めてくれていますね。


「何事もケースバイケースでは? 確かに本来のルートを無視したやり方が後から見たら不味いという話になったのかもしれませんけど、一刻を争ってましたよね? その辺りは把握してます?」


 段々とイラッと来てキツめに返してしまうと思いっきりあちらも苛立ったように睨み返されました。


「分からないようですね? 全く残念な。何を焦っておられるのか知りませんが、あれが一刻を争うような話の訳がございません。少し頭をお冷やしになられた方が良い。王太子殿下にも甘い顔をなさいませんようにと再度申し上げておきます。また明日、その残念な頭が少しは冷えた頃に参ります。陛下へも貴女の方から一筆頂きますのでそのおつもりで!」


 そんな捨て台詞を吐いて、レグミール大使はさっと踵を返して部屋を出て行ってしまいました。


 残された室内には微妙な沈黙が残ってしまいましたが、こちらも溜めていた息を吐き出します。


「何なのあれ? それは結果としてこちらの王宮に不法侵入にはなってしまった訳だけど。私としてはお招きに預かっただけなんだけど? 大使にえらっそうに説教されること? しかも一刻を争ってないとか、お前はあの場にいたのか!って感じだし。」


 つい黙っていられずに吐き出してしまうと、ラスファーン王子が苦笑を浮かべてしまいました。


「私の為に申し訳なかった。確かに、兄上や陛下にとっては私の延命など不要だったと言われれば返す言葉がない。」


「でも、誰かがレイカ様を呼び付けたのよね?」


 ラスファーン王子もクリステル王女もこちらを気遣う言葉をくれて、少しささくれ立った心が潤う気がしました。


「そうなんですよ。呼びに来たのは、エダンミール王宮の何処かにいる筈の魔人で、誰かと自分の都合でと言ってたのよね。その誰かは王太子だと思ってたんだけど。あの王太子、何を考えてるのかよく分からなくて。」


「マーズリードお兄様ね。良く分からない方なのよ。王宮の者達はお兄様の何かを怖がってるみたいだけど、わたくしは元々余り接点がなかったし、穏やかな方に見えるから、何が怖いのか分からないのよ。」


 そんなクリステル王女の怪訝そうな言葉に、チラッとラスファーン王子と視線を交わして苦い顔をしてしまいました。


「外面、相当だね。」


「だからこそ、尚恐ろしい奴なんだ。分かるだろう?」


 ラスファーン王子と分かり合ってしまいましたが、まさにその通りです。


 あの大使もその辺り、何か勘違いしていそうでしたが、話しを聞かないし、余りにも印象が悪すぎて、次に会ってきちんと話し合いたいとは全く思えないですね。


 キースカルク侯爵が来てくれるのを待って、間に入って貰う作戦が良さそうな気がします。


「よし、のらりくらりと会わない方針で行こう。今は余計なストレス抱えたくないしね。」


「まあ、あのタイプに分からせるのは骨が折れる。その方が良いだろうな。」


 何故かラスファーン王子とは妙に話しが合うようになりましたね。


 一度徹底的に対立して正面からぶつかり合うと、分かり合えることもあるのかもしれません。


 それとも生殺与奪権を握ってるから、こちらに好意的なんでしょうか?


 いずれにしろ、カダルシウスに連れて帰ると決めた以上、そこそこの関係を築いておかないと、本当に王弟殿下に抹殺されそうです。


 そんなことを考えていると、パタパタと伝紙鳥が手元に飛んで来ました。


 伝紙鳥に乗っている魔力はケインズさんのものです。


 相変わらずな清涼感のある透き通った青と緑の入り混じった、南国の海の色のような魔力は、見てるだけで癒されますね。


 お人柄が魔力に現れてる人ですよね。


 早速手紙を広げていると、向かいから何か興味深々な視線が来ます。


「あーえっと。今回聖獣のコルちゃんを置いて来てるんですけど、そのお世話をしてくれてる人なんですよ。」


 何となく照れ臭くなってそう溢してから、手元に目を落とします。


 “レイカルディナ王女殿下、昨日一日のコルちゃん達の報告をさせて頂きます。”


 そんな書き出しのケインズさんの手紙は実直さが見える筆跡も中身もやはり癒しです。


 マーズリード王太子と会話する度にケインズさんの癒しが毎回入るシステムにならないでしょうか?


 気を取り直して、内容はコルちゃんと相方のサークマイトが檻越しに寄り添って、それは仲良しなことと、コルステアくん達が第三騎士団の滞在先の部屋に結界を張ってくれたことなどが、書かれています。


 コルちゃんもケインズさんもいつも通りの日常を過ごして、夕方帰った第三騎士団の部屋で2匹が寄り添う姿には癒される、と。


 これは羨ましくて、ここでの面倒臭い色々を投げ捨てて即行で逃げ帰りたくなってしまいますね。


 それを煽るように、殿下にも是非2匹の様子を早くお見せしたいです、と締め括られていて、これが口説き文句なら瞬時に落ちていましたね。


 そこから、少しだけこちらの身を案じる言葉が続いていて、前回の手紙がシルヴェイン王子と連名だったことから、無事合流出来たことを喜んでくれて、直ぐ引き返すのか大使に最後まで同行するのか、その辺りを軽く訊かれました。


 これは、今単身エダンミール王宮に居ると書いたらケインズさんを心配させてしまうでしょうか?


 でも、黙っていてもバレることは、ケインズさんから遠回りに王弟殿下に伝わる方が精神衛生上良いかもしれません。


 そうと決まればさっさとお返事書きましょう。


 という訳で、侍女さんに伝紙鳥の紙と筆記用具を用意して貰いました。


 伝紙鳥に残っている余計な魔力やら掛かっている魔法を一度還元魔法で綺麗に分解してから、早速描き始めます。


 ケインズさんには重ね重ねのお礼と、コルちゃん達に早く会いたい旨をちょっと熱めに、そして今実はとエダンミール王宮に単身先入りしてしまっていることをなるべく軽いタッチで書き綴り、また様子を知らせて欲しい旨書いて締め括りました。


 ルンルンと鼻歌混じりに伝紙鳥を畳むと、ケインズさんの魔力目指して真っ直ぐに飛ばします。


「・・・物凄く楽しそうだな。」


 何か微妙な顔付きで向かいのラスファーン王子に言われて、ちょっとコルちゃんの癒しに色々崩壊していたかもしれないと、さっと顔付きを戻しました。


「あーえっとぉ。カダルシウスに行ったら会わせてあげますね? 癒しなんですよ。存在そのものが。」


 にこりと全開の笑顔で宣伝しておくと、何故かラスファーン王子が微妙に不機嫌な顔になりました。


「ふうん・・・」


 そんなラスファーン王子を隣のクリステル王女がにやりと面白がるように見ていました。

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