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 何周か父王と中継を通した伝紙鳥のやり取りをして、大体の互いの情報共有を出来たと思う。


 父王は、パドナ公女との縁談を明日にでもメルビアス公国の公王に持ち掛けてくれると約束してくれた。


 この縁談自体には全く否やを付けられなかったことが、逆に少しだけ胸に来る気がしたが、この気持ちは捨てなければならない。


 リーベンからあれ程はっきりと言われていたのに、レイカのことは良いのかと一言もなかったことに苦い気持ちになる。


 どれだけ食い下がっても認められないのならば、いっそ早く見切りを付けた方が良いと、はっきりと言ってくれたリーベンは、自分のこともレイカのことも気遣ってくれたのだろう。


 レイカにとっての思い出作りは、今日の日中の僅かな時間で良かったのかどうかは全く分からない。


 やはり無駄に傷付けただけではないかと思ってしまうが、逆に恨んででもサッサと自分とのことを割り切ってくれた方が彼女の為なのかもしれない。


「シル、大使のことはどう致しますか?」


 クイズナーの言葉でもう一つの懸念に意識が向いた。


 父王からの手紙の中に、エダンミールに駐在の大使が怪しいと書かれていた。


 王兄のファーバー公が親善大使としてエダンミールに定期的に訪れていたが、駐在大使はファーバー公の腰巾着と呼ばれたルッツ子爵レグミールだ。


 エダンミールの今回の陰謀にファーバー公も噛んでいた可能性が指摘された際、レグミールも疑われたが、証拠を捜査中だった為にまだ放置されていた。


 今回キースカルク侯爵がその辺りもレグミール大使から聞き出すことになっているようだ。


 それはそれとして、このレグミールはマーズリード王太子にレイカとの縁談の件で丸め込まれている節がある。


 それとも取り込まれて良いなりなのかもしれない。


 その辺りを王宮に入る前に確かめておきたかったのだが、今時分から大使館を訪問するのは流石に躊躇われる。


「大使はレイカに面会した可能性があるのだったな? となると、私の王都入りを知られてでもレイカの様子を聞いておきたいところだが。」


「では、これから夜闇に生じて大使館へ潜り込んで、こっそり大使の部屋を強襲もとい訪ねてみましょうか?」


 クイズナーも中々過激なことを言う。


 これがレイカ絡みでなければこうまではならないのだろうが、クイズナーもレイカには大分絆されているようだ。


「まあ、少々キツめに聞いてみれば、お話頂けるでしょう。」


 言うことがやはり過激だ。


 が、今回ばかりはそれに賛成だ。


「まあ、そうだろうな。私の可愛い妹に何をしてくれようとしているのか。サクッと話を聞きに行って来よう。」


 示し合わせたように立ち上がると、扉に向かった。


 大使館の大体の場所は潜入捜査で行き詰まった時の為に予め調べてあった。


 勿論、駐在大使をイマイチ信じられないとは分かっていたので、本当の非常事態にならない限り頼るつもりはなかったが。


 夕食の為に出掛ける人々に混じって問題の大使館に向かう。


 宿から徒歩で向かってもそれ程掛からない余り離れていない場所に大使館があったのは助かった。


 大使館の敷地は高い塀に囲まれていたが、魔法避けの結界の構築が雑で甘い。


 クイズナーが少し弄っただけで、人ひとり分が通れる隙間を作り出せてしまった。


 2人して苦笑いを交わしつつ、後程ここの警備体制には物申そうと心に決めた。


 風魔法と土魔法の混合魔法で壁をそっと越えて、大使館の庭に潜入する。


 巡回の警備兵を躱して大使館の建屋に取り付く。


 こういった屋敷の良い部屋は2階のバルコニーが広いところだ。


 その内で灯りが外から確認出来た部屋のバルコニーに、これまた風魔法で舞い上がって降り立つと、クイズナーと両端に分かれて身を低くして部屋の中を覗き込む。


 と、ソファにだらしなく腰掛けたレグミールが明らかに商売のお姐さんを横に侍らせて酒を飲んでいる。


 大使のプライベートに文句を言うつもりはないが、国王への第一級の大事な報告を放ったままでこれはない。


 ちょっとキツく問い詰めてしまうかもしれないが、エダンミール王宮で心細い夜を過ごしているかもしれないレイカを想うと、全く手加減してやろうという気持ちにもならない。


 向かいのクイズナーと頷き合うと、まずは室内に防音魔法結界をクイズナーが張ったことを確認してから室内に飛び込む。


 部屋の入り口を内側から魔法で施錠してから、大使に歩み寄る。


「な、何者だ! 誰か!」


「きゃー!」


 呼ばわるレグミールだが、防音魔法の所為で外には何も聞こえていない筈だ。


 悲鳴を上げで逃げ出そうとした女性の方は、クイズナーがすっと歩み寄って剣の柄で殴って気絶させたようだ。


「心配するな、レグミール大使。カダルシウスから任務で入っているシルだ。大使が国王陛下に報告をうっかり忘れている件について聞きに来ただけだ。」


 穏やかな口調で話し掛けつつフードを脱いでみせるが、認識阻害の魔道具を付けてきたので、こちらの顔は認識出来ないのだろう。


 小狡い探るような目を向けて来たレグミールは、こちらがどれ程の立場の者か見極めようとしているようだった。


「何のことを言っているのか分からないが、貴様のような身元も確かではないような者に話すことはない。」


 中々痛いところを突いてくる。


 クスクスと笑ってクイズナーに目をやると、呆れたように肩を竦められた。


「シル、面白がるのはそこまでに。話が進みません。腕輪を取って差し上げては?」


 それもそうなので頷き返して腕輪を外すと、大使の顔が驚愕に見開かれた。


 そのまま大使の向かいのソファにゆったりと腰掛けると、真っ直ぐ睥睨するように目を向けた。


「さて、大使。そろそろ素直に報告する時間にして貰っても良いだろうか?」


「は、はい。シルヴェイン王子殿下、まさかこちらにおいでになるとは知らず、大変失礼致しました。」


 言いながら、こちらが入って来たバルコニーにチラッと目をやったレグミールは、何故忍んでここへ来たのか考えているのかもしれない。


「あー、便宜上王女扱いとした2人目の寵児の娘でしたか? 確かシルヴェイン王子殿下が面倒を見るお話になっていたかと思いましたが、どうやら少々欲があったようですな。カダルシウスでは次代の王妃は1人目の寵児殿に決まっておりますから、それがご不満だったようで、態々エダンミールまで押し掛けて来たようです。まあそれでも王女の肩書きが役に立ったようで、マーズリード王太子は寛大なるお心で引き受けても良いと仰っておられまして。」


 誰の話だという捏造された人物像で語られるレイカのことには、吐き気すら覚える。


「・・・は? 次代の王妃希望? 便宜上の王女? お前は一体誰のことを話しているのだ?」


「シルヴェイン王子殿下? あのような話しの通じぬ寵児では、さぞやお扱いに困られたことでしょう。ですが、あれでもカダルシウスの王女として認められるのならば、エダンミールの王太子の妃の1人にでもして頂ければ、良縁と言えるのではございませんか?」


 開いた口が塞がらないとはこういうことだろう。


「で? 態々会いに行って、レイカをそんな風に説得したという訳か?」


 取り敢えず咎めるのは後回しとして、この馬鹿には洗いざらい吐き出させた方が良い。


「まあ、そうでございますが、残念ながらこちらの話を理解出来る頭も持ち合わせていないようでして。会話が噛み合わぬまま、明日もう一度お会いすることになりました。明日よく良く言い聞かせて納得させましてから、陛下にはご報告申し上げようと思っておりました。」


 自分は全く悪くないと笑みさえ浮かべて諂って来るレグミールにそれは壮絶に不機嫌な笑みを返してしまった。

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