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「さて、それはともかく。始めましょうか。」


 と言いつつ、ここで始めるのはウチの魔人ノワさん呼ぶことなんですけどね。


「ノワ、出て来て。」


『我が君、この2人が大丈夫っていう根拠でもあるんですか? 全く、用心して下さいよ。王の騎士も動けない状態になってしまいましたし、アイツも我が君を待つ方針のようですからね。』


 また何か嫌な状況報告があった気がしますが、一先ず流すとして、ラスファーン王子の問題を片付けるところから始めようと思います。


「ラスファーン王子の魔力のことよ。古代魔法を解除したら、元通りまた倒れてしまう?」


『そうですね。これは・・・、我が君まずは体内魔力も見えるようになりましょうか。』


 ん?という内容の言葉が返って来ました。


「なるの? 私のチート能力に対する制約的な制限だと思ってた。」


『努力次第でそこは恐らく解禁可能だと思います。』


「ふうん? それってどう努力するの?」


 といったやり取りを肩の上を向いてコソコソと繰り広げていると、ラスファーン王子とクリステル王女からの問い掛けるような視線が来ました。


「あ、ごめんなさい。肩の上に私の魔人がいるんだけど、隠れていたいみたいだから。」


 そう軽く説明で流そうとしましたが、お二人は目を凝らして肩の上に注目しています。


「あー、何となく何か小さなものが見えるような気がしますわ。」


 そう言い出したのはクリステル王女で、そういえば彼女、聖なる魔法持ちでしたね。


 肩の上でそれは小さく舌打ちを漏らしたノワ、ガラが悪いですよ?


『あの王女様は退場して貰っとけば良かったんじゃないですか?』


「ラスファーン王子と2人きりは多分強面侍従が許さないと思ったんだよね。」


『そうですか。ではまあ、サクッと始めましょうか。』


 あっさりと流したノワとは違って、ラスファーン王子とクリステル王女は肩の辺りを凝視しつつ、納得していない顔をしていますね。


『我が君はそもそもこちらに来てから魔法そのものを使うのに苦労していましたよね? つまり魔力というものについて上手く飲み込めていないんですよ。何となく魔法を使えるようになった今でも恐らく未だに。』


「ふうん?そういうもの?」


 確かに、魔力を集めて魔法は使えるようになりましたが、メカニズムとかは未だにきちんと分かっていない気がします。


『ええ。だから制御も下手くそですし。そういう意味では我が君が魔王を名乗るのは烏滸がましいでしょうっていうレベルです。』


「はあ。魔力バカなだけだと。確かにそうかもしれないけど。言い方、ね。」


 ついむすっと返してしまうと、ノワがクスクスっと笑ったようでした。


『その理由が分かって来ましたよ。あちらの世界の人間には、魔力というものに対する認識がない。ですが、魔法については凡ゆる媒体で発信されていて、自分達の世界にはないが、何処か知らないゲームや物語の中では普通に存在するものという共通認識になっている。ただ、魔法の源になる魔力については理解の及ぶ明確なメカニズムの説明がないこともあったり、それぞれで解釈が違ったりするので、理解しようと努めることを皆が諦めてしまっている。だから、一般的に認識がないということになっているんですよ。』


 ほう、何か難しい理論を出して来ましたね。


「うーん。つまり目に見えて結果が残る魔法はあー有るよねと一般的に肯定し易いけど、魔力に対しては良く考えたことないから知らんけど魔法の源なのね、へー、と関心も薄く流されるから、と。」


 ボソボソと呟いてみると、ノワにそれは残念そうな顔をされましたね。


 まあ、慣れてますけど。


『つまりです。他の事象は何となく向こうで培って来た知識や感覚から置き換えることが出来た我が君ですが、魔力はあちらでのご自分に当てはめて考えられなかったので、置き換えられなくて、宙に浮いたままになっているんですよ。だから、見えないということになっているんでしょうね。』


 はあ成程。


 いやそれは向こうの人たちって身体の中に魔力なんて循環させてない筈ですから、どんなものって置き換えられるはずがないじゃないですか。


 でもそれなら、そんな状況でも魔法が使えるようになったことの方が、凄いことなのでは?


 そこで初魔法の時のことを思い出してみると、かなり適当な匙加減で、こっちの世界のレイナードなら華麗に魔法くらい使えるでしょっという感覚的な状態で使ってみせたんでした。


 魔法を使うには源になる魔力を手に集めて、と。


 だから、魔法変換された魔力の方は存在を認識出来ているから見えるようになっているんですね。


 チート可視化システムの理屈が分かって来た気がします。


「それじゃ先生。魔力って何?どうやって身体で生成されるんですか?」


 そこが飲み込めないと見えるようにならないってことですよね?


『こちらの世界では世界全体に魔力が存在します。空気にも水にも土にも。世界を構成する原子の一つだと捉えてもいいかもしれません。ですから、人の身体を構成するものの中にも魔力が含まれていて、ただ、それは消耗品なので外部から日常的に取り込む必要があります。魔力は生きているだけで摂食や凡ゆる呼吸によって体内に取り込まれますが、魔法に変換出来る魔力は身体を構成する魔力とは別に貯蓄の必要があります。』


 この身体に溜め込むタンクの容量が多いと高魔力保持者にらなるのだと、これは以前聞いたことがありますね。


『魔力はこの世の凡ゆるものに含まれていますが、体内に取り込んでも溜め込む器が小さい場合は一杯になると余分な魔力は排出されて行きます。ですが、器の中に一度取り込んで貯蓄したものは、固有の魔力となって溢れ出しても体内を循環し一巡りの間は留め置くことが出来ます。これが魔法に変換させることが出来る魔力ということになります。』


 そういうことだったんですね。


「ん? それじゃ、余剰魔力が漏れてるっていうのは?」


 これをノワやコルちゃん達は摂取してるんですよね?


『我が君のように魔力の器が物凄く大きい人は体内を循環して一巡りする魔力回路の幅も広くて、身体の細部までしっかり巡るんですが、先端から時折勢い余って漏れ出してしまう現象が起こるんですよ。それを余剰魔力が漏れてるという表現をする訳ですね。』


 ああ、だからウチの聖獣様達は撫でて欲しがるのかもしれませんね。


 指先から勢い余って漏れてるんでしょうねぇ。


「うん。何だか分かって来た。イメージ湧いて来た気がする。」


 言って、早速ラスファーン王子に目を向けてみると、見えました。


 見えましたが、ちょっと慌てて隣のクリステル王女の方も確かめてしまいました。


「あ、そういうことね。」


 少し苦い顔になって呟いてしまいました。


「レイカ? 何が見えたのだ?」


 ラスファーン王子が少し強張った顔で問い返して来るのに、どう答えたものか困ります。


「ラスファーン王子の身体には、2人分の貯蔵タンクがあって、纏めてそれを腕輪に流していて、でも腕輪から戻って来た先の魔力回路は1人分の幅しかないから、負担が掛かってると。」


『言い方は悪いですが、彼の身体に二つの器を移植して魔力をまとめ上げて流して行くというのは、構造上有り得ない失敗作なんですよ。これまでは、もう一つの身体を生かしておくのに魔力の殆どを消費していたから辛うじて回っていましたが、もう一つの身体の方が限界を迎えて2人分の魔力を使っても維持が間に合わなくなった。だからと言って切り離しても、二つ分の器の魔力を循環出来る程の魔力回路の幅がないので、当然のように流量過多の状態になる。』


 これは溜息しか出ませんね。


「はあ。だから、魔力回路を広げるとか無茶を言ってた訳ね。でも、魔力回路って全身を巡ってる訳で、血管で言うなら毛細血管的な細かいところまで広げてあげないといつかは毛細血管部分に負担が掛かって、破裂しちゃいそうだよね?」


 ですが、そんな大手術的なことが出来るわけがありません。


『結果として、何処まで手を付けるのか、何処まで生存を伸ばせるのかはやってみなければ分からない賭けにしかなりませんね。』


「魔力回路が破裂すると、流失し続けて魔力枯渇になる?」


 血液と違って破裂した結果は即命に関わる訳ではないのではないでしょうか。


『そうですね。魔力が身体を巡っている目的は、生きる為に必要な最低限の魔力を全身に運ぶことです。魔力回路は細くても全身を巡っていないと生きられません。』


 これはかなり詰んだ状態ですね。


「血管で言うなら血圧を下げる薬とかが存在する訳じゃない? 魔力にそういうのは?」


『この世界では魔力に関する操作は世界の根幹に関わるということで、基本的に出来ないようになっています。持続的なものではなく、一時的な措置以外は通らず、遠からず衰退消滅するように待っていかれます。』


 だから、この状態になったラスファーン王子にも破滅しか用意されていないのかもしれません。


『残念ですが、双子の王子達は長く猶予を貰った方だと言えるでしょう。』


 そう締め括られてしまうと、ずんと胸に重しがのし掛かって来ます。


「例えば、魔力貯蔵タンクを一つ壊すとか。もしくは腕輪から出した魔力の半分を腕輪に戻らないように放出してしまうとか。」


『はっきりと言えませんが、魔力の器の活動には心臓の動きが一部リンクしているようなので、生まれる前に心臓と魔力の器を繋いであるなら、器を一つ壊すことで心臓に不具合が出るかもしれません。腕輪からの半分排出は、やってみれば上手く行くかもしれませんが、周りに居る者への影響が未知数なことと、彼に必要な魔力を半分と割り切って良いのか、設定が難しいかもしれません。』


 どちらにしろ懸念が多くて直ぐには判断出来そうにないですね。


 色々と案は出してみましたが最適解は中々見付からないようです。


「取り敢えずノワ、本人さんにも説明して何を選ぶか決めて貰いましょうか。」


 病院での処置や手術も事前に説明して本人や家族の意向を聞くものですからね。


 ラスファーン王子と家族代表でクリステル王女に話を聞いて貰おうと思います。

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