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「レイナード様! お帰りなさいませ!」
宿舎に入るなりお出迎えしてくれたのは、元従者のハイドナーです。
「ただいま〜っていうか、お出迎えとか良いから。」
ご機嫌なノリで挨拶してしまいましたが、騎士団の宿舎で従者のお出迎えって、かなり浮きますよね。
恥ずかしいから是非やめて欲しいです。
てゆうかハイドナーいつからここで待機してたんでしょうか。
朝の訓練場でシルヴェイン王子に拉致られて朝食ご馳走になってから王太子に視線で殺されそうになって、塔で弟のコルステアくんにツンツンされてコルちゃんをペットにして、そろそろお昼ですねって時間でしたね。
朝の訓練サボっちゃいましたよ。
成る程、昼時には戻って来ると思われてた訳ですね。
「レイナード様、どちらに運びますか?」
塔の魔法使いが2人掛かりで運んで来たコルちゃんの檻や荷物は、当然お部屋に設置です。
「取り敢えず部屋に置いて、手続き先にやらないとな。こっち運んでくれるか。」
言いながら玄関ホール奥の階段に向かって行きます。
「レイナード様? ペットでも飼われるんですか?」
ハイドナーの訝しそうな問いには、ああと気のない返事を返してしまいました。
「王城魔法使いの塔から、魔物改め無害なキツネ型愛玩動物を貰ってきた。」
どうでも良さそうな説明で流しておくと、流石のハイドナーも返す言葉がなかったのか、しばらく沈黙が来ました。
「あ、あの。お世話などは、どのようにさせて貰えれば・・・」
引きつり気味なハイドナーの問いが来て、小さく笑ってしまいました。
「ああ、コルちゃんのお世話は俺がやるから、触らない近寄らないってことにしといて。」
軽く答えながら階段を登って行くと、後ろから溜息が聞こえて来ました。
「相変わらず、何でも従者任せですか。」
この相変わらずな皮肉げなお言葉は、コルちゃんの檻の後から来ていたコルステアくんです。
「コ、コルステア坊っちゃま?!」
ハイドナーの驚きに裏返った声が上がります。
「坊ちゃまは止めろよ!」
コルステアくん、少し難しいお年頃ですかね。
「どどど、レイナード様! コルステア様はどうなさったんです?」
ハイドナー、動揺が凄いみたいですね。
言動が面白い事になってます。
「コルステアくん、俺の弟なんだって? 今日、俺の部屋に泊まるから。」
端的に答えてみましたが、ハイドナーがパニクってます。
「えええ?? な、どうしたんですか? まさかの和解? そんな筈は・・・」
その言種も何気に失礼じゃないでしょうか。
「コルちゃん一応魔物だからね、初日くらいは監視するんだって。俺は和やかお泊まり会でも良いんだけどね。」
言った直後のコルステアくんのそれは物凄く嫌そうな睨みが、ちょっと癖になりそうです。
可愛いですよね、本当。
始めに突っ掛かられた時は面倒臭いなって思いましたけど、コルちゃんと被り出すと、もうツンツンして可愛いなとしか思えなくなってしまいました。
ごめんねコルステアくん。
「そ、そうですか。では、コルステア様の為に毛布ですとか、お休み前のお茶やお菓子や、あそれとも、お酒の方がいいでしょうか?」
ノリだしたハイドナーに、コルステアくんの顔がますます苛立ってきますね。
「コルステアくん、長椅子に毛布で良い? それともベッドで一緒に寝る?」
兄弟だからそれでも良いですよね?
あ、でも、起き抜けにちょっと幼めだけどやっぱりイケメン要素ありのコルステアくん間近で見るのは、心臓にイマイチでしょうか。
「・・・監視の仕事なんで、全部不要です。・・・死ね。」
最後にボソッと何か聞こえましたが、まあ気の所為でしょう。
コルステアくん、分かりやすく厨二病でも患ってるんでしょうか。
階段を登り切って廊下を進み、自室の扉を開けたところで、中を覗いてパタン。
思わず扉を閉めてしまいました。
「レイナード様? どうかなさいましたか?」
しれっと言ってくるこの従者、どうしてやろうかと思わず考えてしまいました。
「ハイドナー、俺の部屋だよね?ここ。何でああなってる?」
感情を抑えて冷静に問い掛けてみますが、ハイドナーはキョトンとしています。
「はい? 今朝はレイナード様が換気してささっと片付けまで済ませて下さいましたから、掃除をしてから元通りに整えておきました。」
にっこり笑顔でドヤ顔を見せてくれるハイドナーに、深々と溜息が出てしまいました。
現実逃避はこれくらいにして、魔法使いさん達にお入り頂く前にお片付けが必要なようです。
「魔法使いの皆さん、すこーしだけ、ここでお待ち下さいね〜。ちょっとだけ、部屋片して来ますんで。」
キョトンとする王城魔法使いの皆さんを置いて、ハイドナーの腕を掴むと、再度扉を開けて滑り込んでから、きっちりと閉ざしました。
そして、振り返った室内に、また深々と溜息が出てしまいました。
「何の嫌がらせ?」
思わずそう発言してしまったことは許して欲しいです。
「え? 私が先日失礼した折に持ち出していたものをお戻ししておきましたよ?」
悪気のない発言に、頭を抱えたくなって来ました。
「何あの髑髏に蛇が巻き付いてる置物。あの怪しげな水晶玉は? ドドメ色の液体が入った小瓶とか、真っ黒な汚いランプ? 三面鏡の奥に人の顔っぽいお絵描きされたあれは? 壁に掛かったあの絵、地獄絵か何か? 何処で売ってたのこんなの。てゆうか、こんな部屋に住んでる奴、病んでるよねこれ。他人入れられないだろ。」
一気に言い募ってみると、ハイドナーが驚いた顔でオロオロしています。
「お前もお前だよね? これ持ち出してどうするつもりだったの? 売れば多少金になる? だったら売って来ていいよ? その代金あげるからさ。」
更に捲し立てると、ハイドナーは涙目になってしまいました。
「ごめんなさいレイナード様! 全部レイナード様にとっては大事なものだって分かってたんです! でも、レイナード様に目を覚まして欲しくて! 持ち出して売りに出すつもりなんか最初からなかったんです!」
ああ、全然話が噛み合わないんですが。
もう良いです。
とにかく無心でお片付けに入ります!
まずは壁に掛かった絵を外すところからです。
「ハイドナー、何か包むもの持って来て! 裸じゃ恥ずかしくて部屋の外にも出せないから!」
椅子にのって絵を外すと、三面鏡も畳んでしまいます。髑髏と水晶玉と小瓶と、その他何か分からないような今朝までなかったものは全部床の一箇所に固めて置きます。
慌てて風呂敷みたいな布を持ってきたハイドナーから受け取ると、大物は一個ずつ小物は纏めてざっくりと包んで、扉の脇に移動させます。
「午後はこれ持って始末してきてね。売れたら代金はお駄賃。」
どの程度の値段になるか分かりませんが、これを売った代金を手元に残す気には全くなりません。
それから、扉を開けて魔法使いさん達を招き入れました。
「部屋の片付けも出来てないの?」
冷たいコルステアくんの突っ込みが入りますが、色々大変なんですよ、貴方のお兄さんと従者は。
心の中で答えつつ、無言を貫きました。




