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 レイカが翼竜に乗って行ってしまった街で一晩を明かし、翌早朝、馬で先発する者と馬車で向かう者に分かれて王都を目指すことになった。


 先発隊はヘイオス隊長を始めとする兵士達、ミーア達魔法使いと“王の騎士”が抜けたファラルだ。


 自分とクイズナーもミーアの仲間扱いで王都に向かう。


 後発が援助隊の者達とキースカルク侯爵一行、それからアダルサン神官達だ。


 アダルサン神官達も先発したがったが、スピード重視なことと、王都に一緒に入れないことが決め手になった。


 キースカルク侯爵一行の聖女様は、レイカがいなくなっても聖女様一行として振る舞わなければならないので、本当はリーベン達を追いたがっていたレイカの護衛騎士達も聖女様の護衛として従うことになり、副王城魔法使い長のモルデンも、迷ったがやはりキースカルク侯爵と共に来て貰うことにした。


 そして、集落の魔物襲撃を企んだとして捕縛されている援助隊のジェンキン副隊長も援助隊が連れ帰ることになった。


 ヘイオス隊長を先頭に最短路で王都を目指すことになったが、その日中には少なくとも王都手前の街まで辿り着きたいと計画しているようだ。


 そもそもそこまで急ぐ理由として、サヴィスティン王子が倒れて意識がなく、昨晩泊まった街で医師の治療を受けたが効果はなかった為、馬に括り付けて王宮まで駆け戻って来たというめちゃくちゃなものだった。


 犯罪者として追跡していたのだとしても、一国の王子の扱いとして雑過ぎると思うのだが、こうなることを予想していた国王にとっては、カダルシウスの者達の前で主犯のサヴィスティン王子が亡くなったと持っていけるので、かえって好都合だったのだろう。


 レイカやファラル達は、王都で一体何をするつもりなのか分からないが、それに関してはカダルシウスは関わらせて貰えない可能性が高い。


 だが、それでレイカが無事に済むかどうかは分からない。


 それなら、いざという時には飛び込んででも彼女を守れるように、なるべく側で見守りたい。


 それに、昨晩キースカルク侯爵とも話したが、カダルシウス王都の守護の要破壊の件に関して、エダンミール国王がサヴィスティン王子に責任を被せたとして、それを少しでも認める発言があった場合は、今後のことも踏まえて相応の金銭的賠償の他に、サヴィスティン王子の命以外の生きた担保を貰い受けるような話に持って行く。


 つまり、人質としてエダンミールの王女を貰い受けたい交渉をする予定なのだという。


 その引き受け先は間違いなく自分だ。


 父王と叔父上はそれを視野に入れて、レイカを自分の婚約者ではなく王女として王家に迎え入れたのだろう。


 これまでのことを考えると、クリステル王女との婚姻が纏まるのではないかと思う。


 もうどう抗おうともレイカとの未来は有り得ないところまで来てしまっていたのだ。


 だが、今は考えるまいと思う。


 レイカを無事に取り戻して、エダンミールから正当な賠償を得ること。


 それだけを目指してエダンミール王都に足を踏み入れる。


 メルビアス公女のパドナとの交渉が何処に落ちるのかもある程度の予測を立てておきたい。


 恐らく、エダンミール王太子の婚約者候補の妹公女の処遇の件だろう。


 エダンミール側が妹公女が首謀者に協力して呪詛織をしたと明かしたとして、それを不問にして欲しいとかそんな流れだろうと想像しているが、果たして何処まで吹っ掛けられるかだ。


 今回のことでエダンミール王太子に何処まで迫れるかという話しにも繋がって来るだろう。


「シルくん。」


 ミーアが馬を並べて呼び掛けてくる。


 それなりの速度で走らせている馬上は、会話を交わすのには向いていない。


「これ、ちょっと受け取って。」


 そう言って渡して来たのは何かの魔道具のようだ。


 手の平サイズの丸いコインのような魔道具を受け取ると、唐突にミーアの声が鮮明に聞こえて来た。


「どう? 聞こえる?」


「ああ、魔道具か?」


「そうそう。でも、最先端技術だから今だけ貸してあげるけど、馬から降りたら回収するからね。」


 そんな牽制をしてくるミーアに苦笑いを返しつつ、続く会話に耳を傾ける。


「王都に着いたらヘイオス隊長の隊に混ざって仮入場してしまうから。そしたら、まず“願い”の本部に顔を出して会長に会って貰うわ。」


「ミーアの養父とかいう人か?」


 ファラルの話しでは、ミーアはそもそも先王の王女だったようだが、王家からは籍を抜いて“願い”の会長の養女になっているとのことだった。


「そう。今だから話すけど、私はね、先王のうっかりお手付きで出来た子供でね。王家の血筋の中では何の実験操作もされていない唯一の子供だったの。つまり、先王にも今の王にも不要品として扱われてた訳。それで、私の亡くなった母の親戚だった“願い”の会長に引き取られて王家から出たのよ。」


 ラスファーン王子やサヴィスティン王子の話を聞くにつけ、エダンミール王家の自らの子供達すら実験材料と考えるようなやり方には虫唾が走るが、カダルシウスにまでそれを持ち込んだ挙句、その成功事例がレイナードだけだったのは皮肉な話だと感じる。


「“願い”は、私に何か望みがあるのか?」


「・・・会長の考えは分からないけど、王家は魔王に拘り続けていて、魔王を迎えることになったら、何かが変わると言われているの。」


 そもそも魔王の定義とは何なのだろうか。


「レイカは、本当に魔王なのか? エダンミールで魔王として扱われる条件を満たしているというのは、間違いないのか?」


「“王の騎士”が言うのだから、間違いないのでしょうね。」


 ここでまた出た“王の騎士”だ。


 不透明なことが多過ぎて、全体像を掴むことさえ出来ない。


「“願い”の会長と話せば、何か少しでも状況がはっきりすると思うか?」


「・・・多分? 魔王が現れて何かが変わる。エダンミールが他国と大きく違うのは、王都の装置から各地へ送られる守護結界の仕組みね。王家に何かの変革が起こるとして最も懸念されるのがこの装置の維持問題よ。」


 確かにカダルシウスでも守護の要の重要性を嫌という程思い知ったばかりだ。


「まあ、今ここで考えていても答えは出ないということだ。」


「残念ながらそのようね。」


 そのまま会話は途切れたが、ミーアはチラッとこちらを見てから何か躊躇うような様子になった。


「・・・なんだ?」


 仕方なくこちらから問い掛けてみると、ミーアは何処か気まずいような顔になった。


「シルくんの彼女ちゃん。どんな子なの?」


 唐突にそう問われて戸惑ってしまった。


「・・・取り敢えず、見ていて分かったと思うが、思い切りが良くて行動力が凄い。そして、他人を頼ることがなくていつも突然事を起こし始める。が、何も考えていないかというと、これが良くよく考えた末だったりするからタチが悪い。そしてだからこそ、きちんと結果を出して最後には納得させられてしまう。」


 困ったところだと思うのに、そう話しながら口元にどうしようもなく笑みが浮かんでしまう。


「ふうん。そして、シルくんベタ惚れよね?」


「ああ、そうだな。今はちょっと他に目を向けられそうにない。散々ダメ出しの嵐に遭っているのにな。」


 王族として他に縁談が纏まれば従うしかないが、心の中まで直ぐに割り切れる訳ではない。


 不誠実なことをするつもりはないが、しばらくは溺愛する妹扱いしつつ、心の内を偽るような状態にはなってしまうだろう。


 いっそのこと、誰か諦めがつくような相手がレイカの心をしっかり掴んだ上で攫っていってくれないだろうかと思ってしまう。


 そうしたらすっきり諦めがつくだろうか。


「生まれて初めて、自分が王族でなければ良かったのにと思ったよ。」


 元王族と聞いて、ついそんな言葉を溢してしまった。


「何言ってるのよ。なくなったらなくなったで、残念に思うこともなくはないのよ?」


「そうだろうな。隣の芝は青く見える。そういうものだと思って、今出来ることを精一杯頑張ることにする。それが、彼女の為になると信じて。」


 少しだけ寂しい気持ちを込めてそう締めくくると、こちらを向いたミーアが潤む目を向けて来た。


「でも、ダメだって言われてるにしても、彼女ちゃんのほうは? シルくんと恋仲のつもりじゃないの?」


「いや、よく分からないが、私が彼女を想うほどの気持ちはないんじゃないかと思う。私よりも余程上手に割り切りそうな気がする。少し悔しいが、思い詰められるよりはその方がこちらも気が楽だ。」


 その辺りの自分の内心は複雑過ぎて、痛過ぎてこれ以上掘り下げたくない。


「なにシルくん。お姉さんちょっと頭撫で撫で慰めてあげたくなったんだけど。」


「・・・やめろ。」


 これには瞬時に冷たい声が出た。

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