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 翼竜は、王都の上空を旋回しながら、幾つも並ぶ雲つくような塔の間を飛んで目的地に向かって行くようです。


 中々のスピード感と迫力に、何度か気が遠くなりたくなりましたが、その都度ノワに叱咤激励ならぬ冷たい暴言を喰らって、不本意ながらちっとも気を失えずにとあるバルコニーに着地完了してしまいました。


 暗い所為もありますが、どんな建物のどのくらいの高さなのかもさっぱり分かりませんでした。


 翼竜さんから、何とか這い降りてバルコニーにへたり込むと、翼竜さんは何事もなかったかのように飛び去って行きました。


 さて、あっという間に敵地侵入を果たしてしまいましたが、まずはラスファーン王子のご本体を探すところからですね。


 その前に誰かさんにご対面は勘弁して頂きたいということで。


 さっさと移動を開始したいと思います。


「あ、ていうか普通はあの魔人さんが案内するつもりで待ってたりしないもの?」


 ちょっと呟いてみてから、そっとバルコニーが併設された部屋の中を覗き込んでみます。


 が、全く灯りのない真っ暗な部屋は誰かいるのかどうかすら分かりません。


 そおっと掃き出し窓を引いて開けてみようと思います。


 キィーッと思いっきり甲高い音が鳴りましたね。


 という訳で、気にせず入ってしまうことにします。


 これ、お化け屋敷探索みたいですね。


 ここで暗がりからワッとかお化け役さんが出て来たら、ギャッと叫んで失神出来る自信があります。


 窓からの明かりを頼りに、取り敢えず廊下に出てみようと思います。


 扉どこでしょうか?


 ビクビクしつつ窓から遠ざかる奥へ奥へと進んで行きます。


 身体の前に手を出しつつ触れるものがないか確かめながらのゆっくり前進は、カメの歩みです。


 暗がりに少しだけ目が慣れて来たのか、薄らと横に広がる濃淡の濃い闇が見えた気がしました。


 恐らく壁に行き当たったのではないかと思います。


 慎重に両手の平を突き出して、そっと探りながら進みます。


 と、遂に壁らしきものに手が触れました。


 途端に、パァッと灯りが灯ったように手が触れた辺りの壁が明るくなったかと思うと、その灯りが壁を伝って何かを描くように伸びていきます。


 四方の壁に円を描くように広がった灯りは、よく見ると中に文字を閉じ込めた魔法陣のようですね。


 部屋が漏れなく明るくなったのは良かったですが、何を起動してしまったのやら。


 冷や汗が滲みそうです。


「誰だ?」


 何処か覚束ないような男性の声が後ろから掛かって、慌てて振り返ります。


 寝巻き姿の中年男性がベッドに腰掛けたままこちらを見ていますが、深く就寝中だったのか、眠怠そうな様子です。


「済みません。お休み中に失礼しました。直ぐに出て行きますので。」


 という訳で、脱兎のごとく扉に向かおうとして、身体が動かないことに気付きました。


「あ、あれ?」


 焦りつつ溢すと、ふっと失笑するような声が聞こえて来ました。


「この部屋で、誰かと聞いて答えぬ者は、拘束魔法に遭うことになっておる。」


「あはは。便利なお部屋ですねぇ。」


 何とか和やかに解決しないものかと愛想笑いを振り撒いてみましたが、男性はベッドから降りない代わりに、魔法を解いてくれるつもりもないようです。


「久方振りに起動したのだ。この部屋の主となってからずっと、いつかは試してみたいと思って来たが、我が代でそれが叶うとは。」


 ん?どういう意味でしょうか。


「ファラルの言うことは正しかったな。この城に、遂に真の主を連れて帰ると。魔王よ、良く参られた。歓迎しよう。」


 ギョッとしつつ見返した先で、男性が確かに笑みを浮かべていました。


「・・・はい?」


 これまた古代魔法陣を起動させてしまったようですが、それで魔王という発想は行き過ぎでしょう。


 それなら、スーラビダン王家の血筋の人達はみんな魔王になれますからね。


「ふむ、したが、ファラルは数日後と言っておったが、随分と早いお越しであったな。しかも、この部屋に唐突においでになるとは、まさか転移魔法か?」


 段々と興奮して身を乗り出して来る男性に、こちらは慌ててフルフルと首を振りました。


「えっと、翼竜が連れて来てくれたんですけど。あ!そうだ。大急ぎでラスファーン王子のところに行きたいんですけど。」


 ここは一つ、魔王云々には言及せず、上手く誤解させつつ、この方を盾にラスファーン王子のところに辿り着いてしまいましょう。


 多分この人、エダンミールの王様だと思うんですよね。


「ラスファーン? ・・・ああ、あの出来損ないの死に掛けか。」


 思い出すのに間を置いた上に、声のトーンがただ下がりましたね。


 それにしてもご自分の息子さんに酷い言い草です。


 これは、ラスファーン王子の性格が捻じ曲がってたのも仕方の無いことでしょう。


 だから、化け物な王太子が出来上がったりするんですよ。


「魔王はラスファーンをお召しか。したがあれは今動くことすら出来ずに死に掛けておる。如何したものか。」


「だから、死ななように助けたいんですけど?」


 ここは正直に主張してみると、エダンミールの国王(多分)は、苦虫を潰したような顔になりました。


「魔王の好みはああいったヒョロっと病弱な者であるのか? それくらいなら、マーズリードの方が良かろうに。」


「あはは。その辺はその内ゆっくり考えときまーす。それより、ラスファーン王子のところまでお願いします。」


 改めてそうお願いすると、国王はふうと溜息を吐いてベッドから立ち上がりました。


 この方も何処か具合が悪いんでしょうか。


 ちょっと足に力が入り切っていないような動きで扉に向かって歩き始めました。


 話している間にこちらも身動き出来るようになっていましたが、この仕掛けにはちょっと気を付けておこうと思います。


 国王に続いて部屋を出ると、廊下に出たところでまたパッと灯りが点きました。


「ふふ、なるほどな。これが魔王の城の本当の姿か。」


 そんなことを感心したように溢すの、やめて貰ってもいいでしょうか?


 後でとてつもなく怖いことになりそうです。


 誰とも出会すことなく廊下を進み、塔と塔を繋ぐ渡り廊下を渡ると、王様の塔とは違う人工の灯りが灯る廊下に出ました。


 そのまま進み続けて塔を幾つか経由したところで、漸く人と出会いました。


「へ、陛下?? 今時分に、こちらまで歩いて来られたのですか?」


 驚いたように目を見開いた侍従さんでしょうか?


 それには答えず、王様は冷たく見下すように言葉を掛けました。


「ラスファーンは?」


「ラスファーン殿下ですか?」


 問われた侍従はこれまた驚いたように聞き返しつつ、廊下の先に目を向けました。


「ご、ご案内申し上げます。」


 侍従は腰を低くしながら王様を案内しだしましたが、それに続くこちらに訝しげな目を向けています。


 確かに今の格好からして、何だお前状態ですよね?


 お察ししますが、もう暫くは放っておいて貰いたいです。


 侍従の案内に従って塔の中の階段を下って辿り着いた部屋の扉の前で一度立ち止まりました。


 ノックをしてから、中からの返事を待つことなく扉を開けてしまいましたが、侍従はそれを何とも思っていないようです。


 当たり前のように侍従に続いて部屋に入って行く王様にこちらも失礼しまーすと心の中で声を掛けつつ、続きました。


 小さな灯りが一つだけ灯る部屋の中は薄暗過ぎて良く見えません。


 思わず壁に手をついて電源スイッチを探してしまいそうになりました。


 と、その内に侍従が灯りを幾つか灯してくれて、室内の様子が漸く見えるようになりました。


 王様の部屋と比べると随分と狭い部屋の奥にベッドが一つ、それに横たわるのは、病的な青白い顔で目を瞑るラスファーン王子のようです。


 頬がこけて落ち窪んだ目は瞼に隠されていて、時折呼吸を荒くして呻くような声がうっすらと開いた青い唇から漏れています。


「ここ数日は、全く目を覚まされません。いよいよ、かもしれません。弟王子殿下もあのようなことになりました今、ラスファーン王子も気力を無くされたのかもしれません。」


 侍従がそんな説明をしてくれる中、2人を避けてベッドに近付きます。


 目を凝らして全身を眺めると、様々な情報が視覚を通して見えて来ます。


 その昔レイナードが見たという魔力循環の流れが薄らと光る濃いオレンジ色の物凄く細い線になっていますが、途切れてしまうのではないかというくらいの細さになっています。


 ラスファーン王子の魔力は循環を繰り返しているからか、全身を巡る魔力も含め流れているのがはっきりと見えるのですが、流れが時折滞ってみたり、明らかに流量が足らずに末端まで行き届いていなかったりと、魔力だけみてもかなり状態はよくなさそうでした。


「ラスファーン王子。」


 ベッド傍に立って、細い骨と皮ばかりの手にそっと手を乗せます。


 結局許可を取る余裕はありませんでしたが、魔人が呼びに来た通り、全身を巡る魔力の流れが数秒滞るだけで血液や臓器の状態も黒ずんで悪くなっている状況です。


 魔力の流れがもうほんの少しでも長く途切れたら、身体が活動停止していまうのではないでしょうか。


「レイ、カ・・・たのむ。」


 唐突にその青い唇から漏れた掠れ声に驚いてラスファーン王子の顔を見返しますが、相変わらず目は閉ざされたままで、うわ言の一種なのかもしれません。


 それでも、彼の中身がこちらに戻って来たということだと信じて、早速開始しようと思います。


「ノワ。」


 小声の呼び掛けに、肩に微かな重みと気配が来ました。

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