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「シル!」


 呼ばれてハッと意識を取り戻す。


「レイカ!」


 ガバッと起き上がって見渡すが、放射状にレイカの周りに居た者達が倒れていたり起き上がろうとしているだけで、レイカ自身の姿は見えなかった。


 自分を起こしたクイズナーに期待を込めて振り返る。


「申し訳ございません。少し離れていたので良くは見えませんでしたが、降りて来た翼竜らしきものに、レイカ様がお一人で乗って飛び立たれたように見えました。」


 だが、レイカは直前誰かと確かに話をしていたように見えた。


「・・・私達には見えない、魔人か。してやられたな。」


 グッと拳を握って立ち上がると、あちらもこちらに駆け寄って来るリーベンと合流した。


「申し訳ございません。直ぐに追います!」


 そう言って街の門に向かおうとするリーベンに手を伸ばして止めた。


「待て。状況把握が先だ。」


 翼竜の行き先と後ろに誰が居るのか、はっきりさせておく必要がある。


「ミーア! ラチット!」


 呼ばなくともこちらに向かって来ていた2人と、ファラルとラスファーン王子もこちらに向かって来る。


「翼竜、乗用の試作騎を作り出そうとしてるって噂はあったが、完成してたとはな。」


 ラチットが何処か悔しそうな口調で溢したのは、その情報を仕入れていなかったからだろう。


「アイツが居た。」


 唐突にそう口を挟んだのは、何処か思い詰めたような顔のラスファーン王子だった。


「アイツ?」


「私の双子の身体に入っていた魔人だ。」


 やはり、という答えが出た。


「では、貴方が何とか出来ないのか?」


「・・・出来ない。アイツは勝手にこの身体に入って使っていただけの存在で、私との繋がりは何一つない存在だ。」


 詳しくは掘り下げる時間はないが、今役に立つ情報ではなさそうだ。


「行き先に予想は付くか?」


「レイカは、アイツと何か話していたが、良く聞こえなかった。だが、アイツの契約者は兄マーズリード王太子の筈だ。」


 王太子マーズリード、やはりここでその名が出て来るのか。


「それは違う。魔人の契約者はマーズリード王太子ではない。」


 ここで割り込んだのはファラルだ。


「これだけは確実だ。だが、何かの理由で協力させられている可能性はある。」


 カダルシウスへも出没している魔人だとしたら、レイカは魔人が進んで行っていることではないと言っていた。


 そもそも、魔人は世界を維持する為に人を導く存在なのだと。


「猶予がない。恐らく、魔人は君の身体の限界を理由に彼女を連れ出したんだろう。ラスファーン王子、もう指先が動かないのではないか?」


 ファラルの声は真剣で、口を挟めない雰囲気だ。


 視線を移した先で、ラスファーン王子が難しい顔で俯いた。


「ラスファーン王子、君は直ぐに君の本当の身体に戻りなさい。」


「しかし、そうすれば、この身体はもう。」


 サヴィスティン王子は既に亡くなっているのだとレイカが話していたが、詳しいところは聞きそびれていた。


「私は元の身体に戻っても起き上がることさえ出来ない。今戻っても本当の役立たずになってしまう。」


「カディ殿は、恐らく君達の身体の魔力循環を切り離しに先行したのだろう。魔人は、サヴィスティン王子の身体の維持を望んでいた訳ではない。彼の本来の身体は別にある。契約者は君達でも母君でもマーズリードでもない。だからこそ最後の最後に、強要し続けた彼マーズリードを出し抜こうとしているのではないかと思う。それなら、その時に君が君の身体に居なければ意味がない。行きなさい!」


 ファラルの厳しい声に、ラスファーン王子は漸くというように頷き返した。


 具体的にどういうことかは分からなかったが、それが必要なことなのだろう。


「ミーア王妹殿下、貴女を見込んでお願いがある。」


 ファラルのこれまたいきなりの呼び掛けに、ミーアが顔色を変えている。


「“王の騎士”だものね。知っていても不思議ではないけど、私は“願い”の会長の養女になってその立場は捨てたのよ?」


 なるほどという情報が大盤振る舞いで開示されていくのにカダルシウスの面々は自分も含め、大人しく聞いているしかない。


「だからこそだ。王家に属さない、だが国を憂う心がまだある貴女に頼みたい。サヴィスティン王子の身体と、もう一つこのファラルを王都のスウィーク公爵家に連れ帰って欲しい。」


「え?」


 確かに妙な表現だと思っていると、ファラルはすっとこちらに目を向けた。


「貴方にもお願いがある。カディ殿をこれから先訪れるかもしれない絶望と諦めから守ってあげて欲しい。彼女はこの中の誰よりも、貴方を頼りにしているようだったから。」


「・・・それは。」


 どうしてこの人がということと、どういう意味でなのか、分からなかった。


「私は、彼女と同じだ。いや、だったというべきだろうな。私は最早、囚われてしまった者だからな。」


 そう付け足されても、直ぐには分からなかった。


 だが、彼女と同じというのは、もしかして彼は。


「寵児、なのか? エダンミールに?」


 そんな話は聞いたことがない。


 それに、ファラルは少しだけ困ったような曖昧な笑みを浮かべて、だが否定しなかった。


「では、私も一足先に戻って待っているとしよう。君達も、出来る限り急ぎなさい。」


 最後にそう告げたファラルは、途端に身体の力を失ったようにその場に崩れ落ちた。


「ミーアちゃん。こっちの抜け殻は、ヘイオス隊長に頼んで来るけど、そっちの公爵家行きはどうする?」


 ラチットがやはり中身だけ戻った様子のサヴィスティン王子の身体を肩に担ぎながらミーアに声を掛けている。


 こちらもファラルを持ち上げようとしゃがんで手を伸ばしたところで、ファラルの身体に不意に力が入ったようだった。


 右手で額を押さえるような仕草をしてから頭を上げたファラルは、キョトンとしたようにこちらを見ている。


「大丈夫か?」


 何か不測の事態でも起こって中身の移動が失敗したのだろうか。


「誰? え?ていうか、ジジ様は?」


 驚いたように周りを見回すファラルは、先程までのファラルとは別人だろう。


「ミーアちゃん。“王の騎士”超怖い。何なの知りたくなかった〜。」


 そんなラチットのボヤキには、お前諜報部員だろうと突っ込みたくなった。


「“王の騎士”?ジジ様はどうしたの?」


 ファラルが目を丸くして問い掛けて来る。


 そのファラルに手を貸して立つのを手伝ってやる。


「急ぎの用があって、先に王都に戻って行った。」


「え? 戻るって、じゃあジジ様、あそこに戻ったの? でもそれじゃ、次の子が生まれるまでまたあそこから動けないよ?」


 ファラルの外見とはそぐわない随分と幼い話し口調だ。


「僕の寿命はまだ残ってるのに、どうして? 次の子がもう生まれたの?」


 混乱したように溢すファラルに、とてつもなく微妙な気分になる。


「その、な。“王の騎士”が魔王を見付けるとどうなるんだ?」


 そう訊いてみた途端、ファラルは動きを止めて真面目な表情でこちらを見た。


「魔王が、遂に現れたんだね? そっか、だからジジ様は戻ったんだね。良かったね、やっと、やっとジジ様は終われる。スウィーク公爵家もやっと終われるんだ。」


 そのよく分からない喜び方には何か苦い気持ちになる。


「まだ何かが起こるか分からない。だから、急いで王都へ戻らなければならない。君も来るか?」


 その問いに、ファラルは素直にこくりと頷いた。


 何かを知っていそうなファラルは、連れて行って側に置いたほうが良さそうだ。


「さて、シルくんこれからどうする?」


 ミーアはこちらの意見を聞いてくれるようだ。


「今直ぐ追い掛ける、と言いたいところだが、情報収集と根回しが先だ。相手がその厄介な王宮の化け物様だとしたら、闇雲に戻っても意味がない。」


 と、そこへリーベンが手を挙げた。


「殿下、お言葉ですが、私とバンフィードは今直ぐ先行して追い掛けます。情報収集と根回しはお願い致します。何かありましたら伝紙鳥を飛ばして下さい。」


 確かにそれが最善だろう。


「そうだな頼む。追って連絡する。」


 この2人なら、魔物を蹴散らしながら夜通し街道を駆け抜けるくらいのことはやってのけるだろう。


 特に、今のリーベンとバンフィードの殺気立った様子では、留めておけそうにない。


 頭を下げた2人が門に向かって走って行く後ろ姿を見送って、少しだけ羨ましい気持ちになる。


 それを振り払うように首を振ると、今の自分に出来る最善に頭を切り替えて行く。


「クイズナー、例の入場券のことだが、連絡を取ってみようと思う。」


「・・・まるでこうなることを見越していたかのようです。罠かもしれませんので、くれぐれもお気を付けて。」


 それでも、乗ってみるしかないのだろう。

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