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 午後の道中は馬車で揺れに堪えながら、ぼうっと昼時の休憩中のシルヴェイン王子の様子を思い出していました。


 過剰に引っ付いてくるかと思えば、食堂では妙にケインズさんに拘ってみせたり、明らかに様子がおかしかったと思います。


 だから、リーベンさんが王弟殿下の命令で、余計なお説教でもしたのではないかと思ったのですが、それにしてもシルヴェイン王子の行動の意味が分からなくて困りました。


「あのな。シルヴェイン王子とのこと、反対されているのか?」


 唐突にラスファーン王子から聞かれて、驚きつつ振り返りました。


「え?」


 それにラスファーン王子が何とも微妙な顔付きになりました。


「カダルシウスの王弟ログハーンだろう? やり手だが非情と有名だ。まあ、君なら対等にやり返しそうだがな。」


 言って失笑するような声を立てたラスファーン王子に肩を竦めてみせます。


「私を連れ帰った功績を盾に認めさせろ。あの何にも執着を見せたことのないシルヴェインが、君のことは愛おしくて仕方が無いという態度だったからな。まあ、前回カダルシウスに行った時もその片鱗はあったが。」


 そんな分析をされてしまうと居た堪れない気持ちになる。


「それは・・・ラスファーン王子には悪いですけど、それしかないかなとは思っていましたけど。」


 まだ言えていない寿命のことを話して王弟殿下が納得してくれるかどうか微妙な気がします。


 と言って、例えば言わずに結婚してしまったとしたら、シルヴェイン王子に負目が出来て、幸せに踏み出せなくなってしまいそうな気がします。


 でも、寿命のことは過去や未来の寵児達の為にも広く明らかになるべきではないことだと思います。


 心無い人達に知られれば、寵児達が本来呼ばれた目的とは違うところで不当に利用されたりするかもしれません。


 だから、エダンミールの問題を解決する時に居合わせた人達だけなど、限定して明かすことにするのが正解でしょう。


 もどかしいですが、話すのはそれまで待つべきですね。


「何だか、結婚なんて好き同士ならいつでも出来ると思ってたんですけど。踏み込むとどんどん分からなくなって来るし、時を置くとどんどん条件が増えて面倒になってくるんですよ。」


「・・・まあ確かに、憧れる程良いことばかりではないだろうな。」


 そんなコメントをしてくれたラスファーン王子ですが、そもそも王族の結婚なんてものは恋愛とは程遠いものらしいですからピンと来ないのでしょう。


 ちょっと溢す相手を間違えましたね。


「済みません。興味ないですよね?そんな話。」


「いや。自分の命の期限が見えて来ると、やり残したことを考えてしまうな。ただ、王都にある自分の本当の身体に戻ったら、病弱過ぎて出来ることの方が少なくなるかもしれないが。一先ず、カダルシウスの王都までは辿り着かないとな。」


 そんなことを少し元気なく告げられてしまうと、カダルシウスまで連れて行こうとしている自分が酷い人間になったような気分になります。


 つい眉下がりな顔になると、それに気付いたラスファーン王子がまた失笑するように笑いました。


「そんな顔をするな。実は自分の本当の身体でカダルシウスを訪問したのは20年近く前一度きりだ。その時、レイナードに公園で会った。渦巻き溢れ出る程の魔力を身体の中に持ち、何不自由なく屈託の無い笑顔で笑い掛けて来たアイツと不自由過ぎる自分の身体を比べて、世の中の不公平さに心底腹が立った。アイツを不幸のドン底に突き落としてやれば、少しは気が晴れると思ったんだ。」


 レイナードが話した通り、マルクオール公園を更地にした事件は、ラスファーン王子が仕組んだものだったようです。


「レイナードにとって私は、憎悪の対象だったんだろうな。目の前にいるのがお前ではなくレイナードだったら、私はこの場で消されていてもおかしくなかったな。」


「うーん。こんなこと言って慰めになるのか分かりませんけど、レイナードさんはトゲトゲの痛そうな魔力を循環させている可哀想な双子って思ったみたいですよ? だから、2人の魔力を1人ずつに、切り離してしまえばいいのにって提案したそうです。」


 あの時それを双子が受け入れていれば、少なくともラスファーン王子は人並みに生きられたんじゃないでしょうか。


「まあその後の貴方の脅し文句が怖くて、ずっと魔法は使えないことにしてたみたいですけど。」


「本当は使えたのに?」


「ええ、多分。切り離してあげようかって提案した時点で出来る手段を思い付いてたってことだと思いますよ? 少なくともそれは魔法を使った手段だったんじゃないですか?」


 机上の空論でも、初めての魔法であっても、やり遂げる自信があったのでしょう。


「・・・狡いとずっと思っていたんだ。魔王になれる身体うつわを持って生まれて来た彼が。そして、何の苦労もなくそれを受け継いだ君のことも。勿論、今は何の苦労もなくとは思わないが、それでも羨ましいと思う。」


 そんな本音を覗かせたラスファーン王子に、ふっと笑ってみせる。


「もし仮に、貴方の身体と私の身体を交換出来るとしたら? 貴方は私の身体に宿せる溢れんばかりの魔力で、何を成し遂げる人になるんですか?」


 そんな問いを発してみると、ラスファーン王子は驚いた顔になってから考え込み始めた。


「何かを成し遂げなければならないのか?」


「この世界の魔力量は、課せられる義務に比例するんじゃないかと思ってます。」


 これは、寵児はと限定的にマルキス大神官に明かして貰いましたが、恐らく他の人達の魔力もその傾向がありそうです。


「・・・そういう括りなら、私はまさか2人分の義務を果たす必要があるのか?」


「そうだったから、魔力循環を強要される人生だったのかもしれませんね。」


 そんな話を聞いたらラスファーン王子は落ち込んでしまうかと思っていましたが、一度俯いてからふと顔を上げると、ラスファーン王子は弾かれたように笑い始めました。


「そうか。だから私は、これまでこの健康な死体に宿って過ごすことが出来たんだな。」


 そういう解釈もあるのかもしれません。


「レイカルディナ王女、貴女との歯に衣着せぬ会話は思いの外面白い。もう少し早く出会っていれば、そうあの公園で出会ったのが貴女だったなら。いや、初めて会った時に、シルヴェイン狙いの男色家のふりなどせずに、貴女に本当に求婚して口説き落としておけば良かったな。」


「はい? まず、私3歳で魔力の循環見抜いて魔法で切り離せるとか思えるような非常識な人間じゃないですし、やり取りの詳細を覚えてる程記憶が鮮明にあるレイナードさんみたいな異常児じゃありませんでしたよ。それから、初めて会った時? あの時既に貴方カダルシウスに対してかなり手を出してた筈でしょう?それは手遅れ。」


 そうじっとりした口調で返すと、ラスファーン王子はまたふははと笑いました。


「無事にカダルシウスに辿り着けたら、王弟殿下に言ってやってもいいぞ?」


「また、あの方敵認定した人には物凄く厳しいですよ? 必要以上に虐められたくないでしょう? 私も弱い者虐めは嫌いですから。」


 これにもラスファーン王子は目を細めて笑ったようでしたが、そこから顔付きを改めて、真面目な話が始まるようです。


「レイカ、王都に着いたら、サヴィスティンとの魔力循環の切り離しを頼む。それから、昨日も話したがあの化け物、マーズリードにはくれぐれも気を付けて欲しい。」


 真面目な話に移したラスファーン王子は、自身もやはりマーズリード王太子を恐れているような様子でした。

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