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 王都に潜伏していた魔王信者達が残して行った研究施設に併設されていた魔物の檻を一通り見終わったところで、ケミルズ隊長から殺処分の号令が掛かった。


 トイトニー隊長達と少し離れて見守ることになったが、とにかく気分の良いものではなかった。


 火魔法が効きやすい魔物は、葬儀に使う超高温の火魔法を付加した魔石を檻に放り込んで発動させて一瞬で終わらせるが、火魔法が効きにくい魔物達は檻の隙間から剣を差し込んで絶命させてからやはり火魔法付加の魔石で焼却する。


 まずは魔石だけで片付く檻から始めるが、ほんの短い間とはいえ、断末魔の弱々しい叫びが聞こえてきて気が滅入って来る。


「辛いだろうが、特にお前はこれを知っておくべきだ。」


 トイトニー隊長がそう声を掛けてくれるのに、黙って頷き返すことしか出来ない。


 順に始末されていく魔物達だが、その断末魔に他の魔物達も段々と落ち着きを無くしていくのか、弱々しい啼き声がそこここで上がり始める。


 魔物は人間にとっては脅威の存在だ。


 自分も魔獣との戦いで油断して死に掛けた。


 それ程、甘く考えてはならない存在だと分かっている。


 それなのに、目の前のか弱い命だと認識してしまう自分に苦い気持ちになる。


 このままで第二騎士団ナイザリークでやっていけるのだろうかとか、気弱なことまで考えてしまう。


 残った魔法耐性の高い魔物達の処分は、兵士達が檻の隙間から槍で刺し殺してから焼却することになる。


 数人掛かりで淡々とこなして行く兵士達には躊躇いも特別な感情もなさそうだ。


 それでもか弱い悲鳴のような断末魔に後味の悪さを感じているような苦い表情を一瞬だけ覗かせる人もいる。


 それでも淡々とこなす彼らには頭が下がる気がした。


「討伐任務で、魔獣の子供も対象になる場合もあるだろう? それと一緒だ。我々は国民を守る義務がある。逃してしまった魔物が万が一人に危害を加えた場合、お前はどう思う? 運が悪かったでは済まないだろう? だから可哀想だと思っても判断は冷静に、時には非情にならなければならない。」


「・・・はい。」


 重い話に感情がめり込みそうになったが、努めて冷静な表情を浮かべていることにする。


 次々と終わって行く処分の最後は、例のサークマイトだ。


 一番胸に来ると分かっているからこそ、一歩前に出て見守ろうと思う。


 そう思って大きく一歩前に足を踏み出した途端、真横を掠めるように白い影が走り抜けて行ったように見えた。


「キュウ!」


 聞き覚えのある啼き声に驚いてつられたように檻に視線を向けて、目を見開いてしまった。


「な、何だ? 王女殿下の聖獣様?」


 コルちゃんが檻の前に立って、真珠光沢に輝く白いツノを檻の中に差し入れた。


 と、そのツノに檻の中のサークマイトが自らのツノを絡ませたようだ。


 慌てて駆け寄って行くと、コルちゃんがツノを通して真珠色の魔力を送り込んでいるように見える。


「コルちゃん?」


 問い掛けるように名前を呼んでみるが、何か必死な様子で地面に四つ足を踏ん張っているコルちゃんは振り向きもしなかった。


 その様子が、解呪をしている時のレイカさんに何故か被って見えた。


「ケインズどういうことだ?」


 後ろからトイトニー隊長の声が掛かる。


「分かりませんが、檻の中のサークマイトを助けようとしてるように見えます。魔力を流して聖なる魔力を送り込んでいるようで。」


「・・・王女殿下の聖獣は、神殿で自主的に解呪の手伝いをしているんだったな? それ以外に、自主的に何かをすることはあるのか?」


 トイトニー隊長が眉を寄せて聞いて来るが、これには首を振る。


「いいえ。これまでそんな話は聞いたこともありませんし、俺も見たことがありません。」


 トイトニー隊長はそのままあちらも駆け付けたケミルズ隊長と何か話しているようだ。


 サークマイトを始末する為に檻の側に待機していた兵士達も困惑したような顔でケミルズ隊長に目を向けている。


「コルちゃん?」


 もう一度呼び掛けたところで、コルちゃんがふらつくように後ろによろっと倒れ込んで来たのを受け止める。


 聖なる魔法は魔力消費が普通の魔法とは桁違いなのだという。


 あの魔力無尽蔵と言われるレイカさんでも聖なる魔法を限界まで使うと倒れそうになることがある。


「コルちゃん、あの子を助けたいのか?」


「キュウ〜。」


 か細いコルちゃんの啼き声が上がって、薄らと開いた目を潤ませるようにこちらを見上げている。


「コルちゃんにとっては、もしかして特別な子なのかな? 分かった、隊長達と話してみるな。」


 コルちゃんは小さく頷き返すような仕草をしてから、コテンと腕の中で目を瞑った。


「トイトニー隊長! 檻の中のサークマイトですが、処分を待ってもらう訳にはいきませんか?」


 後ろを振り向いてトイトニー隊長達に声を掛けると、視線が一斉にこちらに来た。


「ケインズ、繰り返しになるぞ? どんな研究改造をされているか分からない魔物を聖獣様のように放す訳にはいかない。」


「分かっています。せめて、この檻ではなく普通の魔法不透過を施されたくらいの檻に入れて保護して、王女殿下のお戻りを待つことは出来ないでしょうか? 檻を用意して貰えましたら、世話は俺がします。」


「・・・・・・」


 こちらを厳しい目でじっと見ていたトイトニー隊長が、しばらくそうしてから視線をケミルズ隊長に移して声を落として何か話し合い始めたようだ。


 レイカさんが戻るまで時間を取れたら、その間にサークマイトの様子も、コルちゃんとどんな繋がりがあるのかも、関係性が見えてくるんじゃないかと思う。


「ケインズ。」


 じきに名前を呼ばれて手招きされる。


 コルちゃんを抱えたままそちらに向かうと、トイトニー隊長とケミルズ隊長が2人とも何処となく苦い表情で、腕の中のコルちゃんに目を落とした。


「王女殿下のご不在中に聖獣様に何かあったでは済ませられん。直ぐにお前から王女殿下に極秘に伝紙鳥を送る許可を与える。」


 これには素直に驚いてしまった。


 キースカルク侯爵について援助隊派遣に対する返礼の大使一行に紛れ込んでいるレイカさんはお忍び中だ。


「状況をご説明申し上げて指示を仰げ。それまでは、一先ず第二騎士団ナイザリーク宿舎の元王女殿下の部屋から置き去りにされている聖獣様用だった檻を運ばせる。」


 そういえば、確かにレイカさんの部屋にコルちゃん用の檻が置かれたままになっていた。


「運び込み先は、今度は第三騎士団営所だ。」


 そう口を挟んだケミルズ隊長は、にいっと不気味な笑みを浮かべている。


「ケインズはしばらく第三騎士団に聖獣様を連れて泊まり込みだ。広めの部屋を用意して貰うことになったから、檻を設置してサークマイトの世話をしつつ聖獣様を毎日神殿に送ってから第二騎士団ナイザリークに出勤すること。」


 続けたトイトニー隊長は淡々と告げたが、最後にふうと息を吐いた。


「特別任務に認定する。王女殿下と連絡を取り合って保護したサークマイトと聖獣様の対策対応を。上には話を通しておくが、神殿には事情説明を頼む。」


 そこで締め括ったトイトニー隊長に深々と頭を下げる。


「ありがとうございます。謹んで任務を拝命致します。」


「うん、まあ。第三うちとしては、これで王女殿下に借りを一つ返せそうだからな。歓迎するぞケインズと、聖獣様。」


 ケミルズ隊長はそう言って腕の中のコルちゃんをそっと覗き込んだ。

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