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 さほど広くはない村長宅の前で、いきなり聞こえた魔物襲来の叫び声には、驚いて飛び出してしまった。


 一般的な守護の要のない集落にある魔石代用の魔物避け結界は、ここでもしっかりと作用していることを入る時に確認してあった。


 カダルシウスよりも魔物出現率の高いエダンミールだからこそ、魔石結界も精度が高いと感じたのだが、何か不具合があったのだろうか。


 剣を掴んで一も二もなく玄関を飛び出すと、表には慌てた様子のリーベンと抱え下ろされた青い顔のレイカがいた。


 魔物の群れでも目撃してしまったのだろうか、可哀想に怖い思いをさせてしまった。


 本当は直ぐにでも抱きしめて慰めてやりたいところだが、今は魔物を駆逐するのが先だ。


 その後で必ず甘やかすと決めてリーベンに一声掛けた。


 ミーアやラチットに正体がバレてしまった以上、ここからは遠慮の必要はないだろう。


 それに自分も行くと言い出した気丈なレイカに緩みそうになる顔を引き締めて、なるべく感情なくダメ出しをしてからリーベンにはくれぐれもとレイカのことを頼む。


 リーベンもレイカを主人と決めた騎士として何があっても守り抜くつもりでいるだろうが、レイカは人の静止を振り切って無茶をするところがある。


 だからこそ、絶対に安全な場所でリーベンに守らせておきたい。


 後は振り返らずにここから一番近い集落の入り口付近の魔石の台があった辺りに走っていく。


 と、直ぐに風に魔物の血の匂いが混じって漂って来る。


 これは獣型の魔物が相当数居そうな気配だ。


 魔石の台の側に灯った灯りの下で、バンフィードが魔物と戦っているのが見えた。


 それに加勢している者達がちらほらと増え始めている。


 バンフィードに近付きながら魔物の相手をしていると、程なくして兵士隊長のヘイオスが部下達を率いて参戦して来た。


 襲って来たのは狼を一回り大きくした魔獣グリュードが数十匹程だろうか。


 グリュードは元から群れる魔獣だが、普通なら魔物避けが切れた集落にいきなり入り込んで来るようなことはない。


 恐らく中から招き入れる術を使った者が居るか、外から誘い込む術を用いたかどちらかだ。


 つまりこれは、人為的な魔獣による襲撃だと言えるだろう。


 目的はラスファーン王子かレイカか、どちらにせよ、証拠隠滅の為に集落ごと消すつもりで魔獣をけしかけたとみて間違いない。


 ここまでやるかという執拗さだが、国家の根幹を揺るがすような出来事が起こるかもしれないとなれば、有り得なくはない話なのかもしれない。


 いずれにしろ、ここで食い止めるのはかなりキツイ相手だ。


 数匹を斬り殺したところで、クイズナーを振り返る。


「魔法も使って連携しないと終わりが見えない。」


「そうですね。ヘイオス殿と入れ替わって、後方から魔法支援をしたいところですが、ここまで混戦状態では大きな魔法は使いにくい。といってグリュードは毛皮に魔法耐性がありますからね。中途半端な魔法では意味がない。」


 そこが問題だった。


 先程から地味に剣に魔法を纏わせて戦っているので自分やクイズナーは数匹を仕留めているが、只の剣ではかなり厳しい相手だ。


 だが、エダンミールの兵士達は魔獣の相手にも慣れているのか、何とか応戦出来ている様子の者も多い。


 因みにバンフィードは位置的に側に人が居ない場所で戦っているからか、風魔法を併用しながらかなり派手にグリュードを薙ぎ倒している。


 足元にはもう5匹程は転がっているだろうか、流石の腕前だ。


「規模を縮小してでも内側で魔物避け結界が張れればいいのですが。」


 誰に頼むとなれば、ミーアかラチット、もしくはキースカルク侯爵に付いて来た魔法使いだろうが、実は一番高精度に張れそうなのはレイカだというのは分かっている。


 だが、絶対にこの場に、グリュードが見える場所に彼女を呼び戻したくない。


「副王城魔法使い長のモルデンがいました。彼ならば、一時的にならそこそこのものを張ってくれそうですが。」


「ああ、だが呼びに行く暇はないぞ?」


 話しながらもお互い視線は目の前の魔獣に注がれていて、戦闘は普通に継続中だ。


「さて、困りましたね。このままでは人的被害無しには済まなさそうですが?」


 確かにこのままでは、兵士の内の何人かは命を落とすことになるかもしれない。


「ヘイオス隊長! 魔法支援に切り替えたい!」


「分かった! 下がれ!こっちで引き受ける。」


 ヘイオス隊長から即行で返事返って来る。


 流石に状況把握が早くて助かる。


「クイズナー行くぞ! 下がったら風炎で守護の切れ目に押し戻す。可能な限り防御結界を頼む。」


「承知致しました!」


 目の前の魔獣に牽制攻撃をかけてから、さっと後ろに下がると、心得ていたように兵士達が前に出て代わってくれる。


「バンフィード下がれ!」


 一声掛けてから、クイズナーがざっと防御の結界を兵士達のいる辺りにかけるのを待つ。


「突風! 延焼!」


 突風で魔獣達を兵士達の側から追い返してから焼き払う魔法を掛けたが、本能的に火を恐る筈の魔獣達は、何故か逃げ出そうとしない。


 少なくとも群れのリーダーが下がる指令を出すことを期待したが、余り効果は無かったようだ。


 ただ、こちらの戦線は整えられて、これで少しは攻撃と魔法の連携が取りやすくなった筈だ。


 炎が一段落して薄れたところでこちらへ再び向かって来ようとする魔獣に向かってもう一つお見舞いしておく。


「氷槍!」


 範囲展開した氷魔法で無差別の槍攻撃を放つ。


 魔獣達が怯んだところで、ヘイオスの号令に従って兵士達が掛かっていく。


 後は地味に隙を見て魔法支援をするしかないが、始めの混戦状態よりは兵士達も戦い易くなった筈だ。


「遅れて済みません! 何かお手伝いを!」


 モルデンの声が後方から聞こえて振り返ると、キースカルク侯爵の護衛に守られる形でモルデンがこちらに声を掛けて来たようだ。


「結界魔法を張り直すことは出来るか? 何故か魔獣共が引こうとしない。完全殲滅してしまうのは正直辛い。根本解決しないことにはコイツらの次、第二陣の可能性もある。」


 一番怖いのがそれだ。


 グリュードを倒し切ったとしても次の魔物に入って来られれば、キリがない。


 こちらに魔物を呼び寄せている仕掛けを見付けたいところだが、これは簡単ではないだろう。


 それくらいなら、守護装置を修復した方が早い。


「済みません。ここの守護の装置は仕組みがカダルシウスのものとは違うようでして、私では修復方法が分かりません。」


 悔しそうに言うモルデンの言葉に、思わず眉を顰めてしまった。


「エダンミール側の魔法使いか、神官に修復魔法を頼むのはどうだ?」


「・・・正直に言って、レイカ殿下ならばこういう時、予想外の解決方法を見付けて下さる気がしますが?」


 そう躊躇いがちに言ってくるモルデンの言葉に、思った以上にレイカに対する魔法使い達の信頼度が伺えて少し驚いてしまった。


「そう、かもしれないが。今は危ない。」


 それでもそう断ると、モルデンもそこは考えていたのか素直に頷き返して来た。


「シルくん! どう? 何とかなりそう?」


 今度はミーアが後方から声を張り上げて訊いて来る。


「守護の装置、何とか出来ないか?」


 こちらも声を張り上げて返すと、ミーアが苦い顔になっているのが見えた。


「ラチットが、守護の装置の魔石が何故か無くなってるって。その状態じゃ塞げないわ。特殊な魔石だから簡単には用意出来ないのよ!」


 魔石が無くなっているというのはどういうことだろうか?


 誰かが集落の外に持ち出したのだとしても、外の魔獣に囲まれてただでは済まない筈だ。


 だが無いということは、集落の中に持ち込まれた訳でもないのだろう。


「どういう意味だ?」


「分からないのよ! 粉々に砕くのでも無い限り、こんなことになる筈がないし、魔石を砕くって、逆にどうやって?っていう話だし。」


 言われてハッとしてしまった。


 レイカの特殊な魔力を思い出した。


 だが、レイカが意図的に魔石を砕いたとは思えない。


 恐らく何かがあったのだろう。


 それも後でレイカに確認しようと思うが、今は現状を何とかするしかない。


「何か代替案は無いのか?」


 時折、前方の魔獣達に魔法を打ち込む支援をしながらミーアに投げ返すと、隣にいる様子のラチットと何か話し合っている様子だ。


「カディ殿?」


 唐突にモルデンの狼狽えたような声が聞こえて振り返る。


 と、レイカがモルデン達とこちらの間辺りに何故か植木鉢のようなものを持って歩いて来るのが見えた。


「な! レイカ何故ここへ! こっちに来るな!」


 声を張り上げるが、今は彼女の為にもここを離れられない。


 レイカはこちらの声に答えることもないまま、淡々とした様子で唐突に地面に植木鉢を置くと、手を合わせて呪文を唱え始めた。


「促進!」


 聖なる魔法が発動して、植木鉢に入っていた木の苗木が急成長してぐんぐん上に伸びる。


 根も植木鉢を突き破って、硬い大地にしっかりと根を張ったようだ。


 一体何をと、後方の魔法使い達も食い入るように見ているようだ。


 レイカの側にはリーベンが剣を抜いて周囲を警戒するように守っているが、レイカの邪魔をしないように気を付けている様子だ。


 そして、彼女の聖獣で元クワランカーのジャックも彼女を守るように側に寄り添っているようだ。


 レイカは木の幹に手を添えると、額を付けてもたれようだが、途端に目を焼くような閃光に辺りが包まれた。

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