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 早朝から駆け抜けて日没まで飛ばして何とか閉門時間までに街に駆け込んだお陰で、明日には援助隊と合流出来そうというところまで来た。


 魔物の相手をしながら、昼食も馬上でというくらい急いだが、それでもサヴィスティン王子の方がまだ先行している可能性が高いとミーアは分析していた。


「ミーア、サヴィスティン王子が援助隊に合流するのに間に合わなかったとして、王子はそれからどうするつもりでいると思う?」


 そう訊いてみると、ミーアは苦い顔になった。


「援助隊に参加してる副隊長が“饗宴”の会員だった筈だけど、権力に諂う人だったと思うから、どう出るか分からないわ。それ以外に、恐らく王子がアテにする王子の信奉者がいるんだと思うの。この信奉者が鍵ね。その人物が何処まで動けるかで、王子の逃亡先が決まるんだけど。流石に情報が集まってなくて分からないわ。」


 確かに、この短時間でここまで追い込めただけでもミーアは大したものなのかもしれない。


 夕食の間にミーアの元に何通か伝紙鳥が飛んで来ていたが、そのどれかは有益な情報が入っているかもしれない。


 と、今朝もまたクイズナーからの報告を受け損ねていたが、休む前に何処かで報告を聞けるといいのだが。


 夕食を食べ終えたミーアが伝紙鳥を開いて確認していたようだが、幾つか読み進めていたその手がパタっと止まった。


「嘘でしょ!」


 小さく呟いた後、押し黙ったミーアは険しい顔になっていく。


 それを横目にしつつ、同席した神官達や兵士の責任者もミーアの様子を窺っているので、黙っておくことにする。


「ミーア殿? 何か問題でも?」


 結局口を開いたのはアダルサン神官だった。


「・・・何が何でも、王子よりも先に援助隊と合流して、確認しなきゃいけないことが出来たんです。ダメでも王子と援助隊と共に来ているとある人物との接触を阻止するよう厳命が出たわ。」


「それは、貴女の所属団体の上層部からの厳命ですか?」


 アダルサン神官の問いにミーアはチラッと兵士の責任者に目をやった。


「私の方にもそのような内容の命令文が来ました。詳細は“願い”の方から指示があるとされた上で、陛下よりの命だと。」


 淡々と語った兵士の責任者からミーアに目を移すと、それは苦々しい顔をしていた。


 余程の何かがあったのだろうが、中身は予測が付かなかった。


 だが王子と接触させたくない人物は、援助隊と共に来ているとなると、援助隊に紛れ込んでいる“饗宴”のメンバーではないだろう。


 それなら、元から予想出来ていたことだ。


 そうでないなら、当初は同行しているとは思われていなかった人物ということになる。


 カダルシウス側にそんな人物が存在するのだろうか?


 これには首を傾げるしかないが、何かの特殊能力者なのかもしれない。


「一先ず、これから一休みしたら、このまま街を出ます。街の門を開けさせる非常開門命令書を貰っていますから。」


 それ程の非常事態なのだろうか?


「しかし、夜間活動する魔物と出会せばその対処は困難を極めます。夜明けと共に出発では間に合いませんか?」


 兵士の責任者が苦い顔で反論するのは尤もだ。


 昼間活動する魔物よりも夜間活動する魔物の方が凶悪で厄介なものが多い。


 第二騎士団ナイザリークでも、夜間の討伐は余程のことがない限り避けて通る。


「間に合わないのよ。これが阻止出来なければ、恐らく誰かの首が飛ぶ。それくらい重い厳命よ。」


「それ程の人物とは、王子が接触しようとしているのは何者でしょうか?」


 アダルサン神官の問いにはこちらも興味がある。


「それは・・・。というか何故接触させてはならないのか、分からないのよ。こんな曖昧な指示は初めてで。」


 ミーアも少し混乱しているようだ。


 とそこへ、人影が一つ走り寄って来る。


「ミーア! やっと追いついた!」


 被っていたフードを下ろしたのは、変装していないラチットだ。


「ラチット! 遅かったじゃない! もう、どういうことなのか説明して!」


 連日の強行軍と次々と出される無茶な要求で、軍人でもないミーアも限界が近付いているのだろう。


「だよな? 悪かったって。本当に予想外だったんだよ。そして、上の連中にもこの先何が起こるのか予想出来ないみたいなんだ。」


 中身の分からない話が始まるが、この卓に着いている全員がラチットの発言に静かに聞き入っている。


「だが、上の連中が望まない方向へ何かを強制的にひっくり返せる存在ってことなんだろうな。何故かそいつがこっちに向かって来てる。」


「・・・何かですかその存在ってのは。」


 兵士の責任者が思わずというように口を挟んだようだ。


「具体的な情報は? 何者なの?」


 ミーアがそう問い掛けたということは、伝紙鳥にはその辺りの詳しいところは書かれていなかったのだろう。


 ミーアに詰め寄られたラチットは、ふとこちらに視線を投げて来た。


 ここでこちらを見たということは、こちらの正体がもう割れてしまったということだろうか?


 身構えていると、ラチットはふうと溜息を吐いた。


「何をどうするつもりなんだろうな? カダルシウスの連中の考えてる事は全く分からないな。なあ?あんたの雇い主?上司?に是非とも訊いてみて欲しいもんだよ。」


 そんな発言をしたラチットに、どう反応して良いのか分からず戸惑い顔になってしまった。


「いや、あんたの上の考えはまあ、分からんでもないが。真相を探れって命令だろ? にしても、騙された裏切られたって、正にあんたの上にいるカダルシウスの王子様のことだろ? それをまあ、我が事のように使うとは、バレたら王子様に怒られるんじゃねぇのか?」


 これはどうやら、本人とは思われておらず、ただの使いっ走りの部下だと勘違いされたようだ。


 ホッとして良いのか、エダンミールの兵士の前で暴露されて進退極まったと思うべきか難しいところだ。


「ラチット?」


「言える訳ないんだよ。あっちが明かさない限り、こっちも聞けないし気付かない方が都合が良いって? ウチの上の連中も何考えてるんだ。ホント、勘弁してくれ。本当に失敗作なのか?こんなこと表沙汰になったら大騒ぎだぞ?」


 ラチットも何かに混乱しているのか、訳の分からないことを吐き散らして、また溜息で締め括った。


「ラチット? 何を言ってるの?」


「あーミーア。今の全部忘れて。とにかく、サヴィスティン王子を捕まえる。それに専念するしかないから。しがない一魔王信者の俺達には、それ以上踏み込むことも知ることも許されてないってことだよ。」


「・・・・・・」


 ミーアも何かを飲み込んだように無言を返す。


 それはともかく、自分達の処遇はどうするつもりでここでラチットが明かしたのか、まだ緊張した面持ちで見返していると、ラチットがまだ不意にこちらを向いた。


「ま、お前らは、ぶっちゃけこれからの道中の戦闘には不可欠だから、細かいことは言わないから付いて来いな。何処もかしこも間者くらい山と放ってるからな。特に知られて困ることもないし。知られたところで何か出来る訳でもないしな。」


 それはそうだろうが、脱力し切ったラチットの発言に、兵士の責任者が険しい顔になっていたりする。


「何なら、カダルシウス側に対する人質に出来るかもしれないしな。」


「・・・それは、俺達に面と向かって言うことか?」


 ついそう突っ込んでしまうと、ラチットにはにやりと笑われた。


「カダルシウスの第二王子ってのは、えらく情に厚い王子様らしいじゃないか。だからこそ、付け入る隙があって嵌められたんだろうが、自分の都合で潜らせた慣れてない部下を切り捨てたりはしないだろう? あんたらには利用価値がある。」


 言い切ったラチットには申し訳ないが、少しだけその見込みにはブレがある。


「じゃあ、シルくん達には監視でも付けとけば良い訳?」


「いや? そんな余裕は全くないね。放っておこう。放っておいても、今回のゴタゴタが片付くまでは付いて来るだろ? そもそも上も、こいつらのことはどうでも良いって言い切ったぞ? だったら俺達が気に掛ける必要なんかないだろ?」


 とんでもなく投げやりな発言だが、確かに大事の前の小事など、放っておけと自分でもそう命じるかもしれない。


 ということは、引き際を見誤らず、王子の放った間者と思わせたままそっと退場するのが正解だということだ。


 いずれにしろ、カダルシウス側がエダンミールに何を持ち込んだのか、非常に気になるし、その仕掛けがどうなるのか見守ってみるのも悪くないだろう。


 チラッと目をやったクイズナーも、何処かホッとしたような困ったような微妙な顔付きをしている。


 この辺りの情報をこちらの耳に入れておくつもりだったのかもしれない。


 だが、またその報告の詳細を聞く機会は無さそうだ。


「はいはい。じゃあ、食べて一息付いたらまた出発ね!」


 ミーアのこれまた投げやりな掛け声に、皆が渋々頷き返したような形で話は纏った。

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