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「それじゃ、早速見せて貰えますか?」


 部屋に入るなり、作業台の前でマニメイラさんが振り返って言ってきます。


 確かに、気詰まりな空気の中、早速本題に入ってしまいたい気持ちは分かります。


「レイナード」


 シルヴェイン王子に言われて、服の下から鎖を引き上げます。


 固唾を飲んで見守るような視線を向けられながら、首から鎖を外して作業台に乗せに行きます。


「マニメイラさん、結界張りますか?」


 ガンたれ男さんが真面目な顔付きでマニメイラさんに確認しています。


 推定、レイナードの弟か従兄弟さんですが、レイナードと違ってお仕事はきっちりやる派のようです。


 レイナードを睨むのは、しばらくお休みのようですね。


「ええ、コルステアくんお願い出来る?」


 マニメイラさんに頷き返したコルステアくんは、部屋の中心にある作業台の周囲1メートルくらいの範囲にローブの中から取り出した石のような物を置いていきます。


 等間隔に全部で5つの石を並べ終わったコルステアくんは、その外側に立って手を突き出すと、低い声で呪文を唱え始めます。


 声質が、最近耳慣れて来たレイナードとちょっと似てますね。


 長い呪文の節々で先程並べた石に向かって魔力を注いでいるようで時折手の平が光ります。


 それを感心して見ていると、最後の石に魔力を注ぐところで、ふとコルステアくんはレイナードが目に入ってしまったようです。


 ほんの一瞬気を逸らした所為で、ほんの少しだけ注がれた魔力が歪んだような気がしました。


 5つ全ての石に魔力が注がれたところで、最後の呪文を受けてさあっと魔法の壁か膜のようなものが広がります。


 風船を膨らませたように均一に広がった膜ですが、レイナードに気を取られてほんの少し魔力が歪んだ箇所だけがほんの少しだけクレーターが出来たように凹んで見えます。


「へぇ。綺麗に膨らむものなんだな。でも、そこだけ、よそ見するからちょこっと凹んでる。」


 つい口にしてしまうと、ばっと全員に振り向かれました。


「凹んでる? まさか、結界が?」


 何かまずい事でも言ってしまったんでしょうか。


 及び腰で黙っていると、マニメイラさんの目がじっとりして来ます。


「ええと、流石レイナード様ね。まさか、結界が見えるとか言わないわよね?」


 たらりと汗が滲む気がしました。


 ヤバいです。


 皆様、それこそまさかですけど、可視化出来てないんですかね?


 これもしかして、翻訳チートの一種でしょうか。


 ミミズののたくった文字が可視化出来たみたいに。


「えー、その何となく。ほら手の平光ったのが広がる時、ちょっと歪んだなぁ、みたいな。」


 頑張って必死に取り繕ってみます。


 が、シルヴェイン王子は全く信じてない真顔のままで、コルステアくんは悔しいのか怒ってるのか赤い顔でくちびる噛み締めてますし、もう1人の魔法使いは目を細めて険しい顔でこちらを見てます。


「ふうん、そう。協力的じゃない態度は頂けませんね、レイナード様。」


 マニメイラさんの纏う空気が一気に冷たくなりました。


「レイナード、塔の魔法使いは敵に回すな。お前の命綱を握っていると思っておけ。」


 シルヴェイン王子も今回ばかりは庇ってくれないようです。


 冷や汗たらしながら、じっとりした目を向けてみます。


「だって。誰だって、実験動物みたいに扱われるのは嫌なんですよ? 魔力が強いから暴走すると危ないとか、好きで強過ぎる魔力を持って生まれた訳じゃないんです。」


 苦し紛れに、心の内を吐き出してみることにします。


「誰かが分かってくれる訳でも庇ってくれる訳でもなく、嫉妬混じりな視線でそんな風に扱われたら。無かったことにして隠したくなる気持ちって分かりませんか?」


 こんなところでレイナードの抱えていた気持ちを明かすつもりなんかありませんでしたが、命に関わるとなれば、仕方がありません。


「俺には、過去のレイナードの事は思い出せませんけど。何となくここ10日くらいの周りからの扱い見てると、俺だったらそんな風に考えるかもって思いました。」


 言って真っ直ぐ視線を返してみると、マニメイラさんは少し気まずそうな顔になりました。


 シルヴェイン王子は、何か考え込んでいるような顔です。


 と、視線を移した先で、もう1人の魔法使いと目が合いました。


「まあ、レイナードさんが素直にご自分の能力を晒したくないってお気持ちは分かりましたが。取り敢えず、今日の本題済ませた方が良いんじゃないでしょうか?」


 その冷静な突っ込みに、皆さんが我に返ったようです。


 こちらとしてもその方が有難いので、雷を閉じ込めた球を包むハンカチを解きに掛かります。


 解いたハンカチからコロコロと転がり落ちた球が作業台の上を少しだけ転がりました。


 途端に、マニメイラさんと名前不明の魔法使いさんが覗き込んで来ます。


「殿下に伺った話だと、落ちて来た雷をこの球に封じ込めたそうだけど。」


 そう確認して来るマニメイラさんに、曖昧な笑みを返しておきます。


 それを気にする事なく、マニメイラさんは球にそっと手で触れてみているようです。


「うーん。精度の高い完全結界の中に、物凄く凶悪な魔物を封じ込めたみたいな。」


 言葉を探すように続けるマニメイラさんに、もう1人の魔法使いが寄ってきて、反対からそれを覗き込みます。


「衰える事なく渦巻く力の源のような。不思議な炎が押し込められていますね。」


 お2人共言葉を尽くして表現しようとしてくれていますが、一目でどんなものかは割り出せないようですね。


「まあ、落ちて来た雷を何とかしようとして、咄嗟に手が出てそうなったと本人は言ってるんだが、自分が何をしたのかは本人も分かってないようだ。」


 シルヴェイン王子はそう言って、無難に追求を躱す方向で話を纏めてくれたようでした。


「咄嗟の事で何をしたか分からなくて、でこれが出来るんだから。本当規格外ですね、レイナード様って。」


 マニメイラさんが呆れているのか怒っているのか分からないような口調で言って溜息を吐きました。


「直ぐにどうこうなるとか出来るとか言うような代物ではなさそうですから、お預かりしてこちらで色々調べてみて宜しいでしょうか?」


 もう1人の魔法使いさんからそんな纏めの言葉が入って、マニメイラさんもシルヴェイン王子もその方向で納得したようです。


 この場での追求がここまで止まりだったのは、正直有難いですね。


 先程墓穴を掘りかけた身としては、これ以上色々聞かれるのは怖いです。


 レイナードがこれまでも色々と規格外だった事に、今日だけは感謝したい気分になりました。



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