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 魔王信者の会への仮入会手続きは、あっさりとしたもので、その場でのしつこい裏どりの面接も証拠の提出などもなく、拍子抜けする程簡単に終わった。


「・・・これで良いのか?」


 思わず側にいたミーアに問い掛けてしまう程、釈然としない微妙な気分になってしまった。


「あのねぇ。魔王を望む人達が集まった有志の団体なのよ? 何かの活動組織じゃないんだから、本来同じ思想の人達が気軽に入会出来なくてどうするの?」


「ああ、建前上はな。」


 凪いだ目で付け足しておくと、ミーアから小さく睨みを喰らった。


「それはそうでしょ? どんな団体でも組織でも末端と中枢では色んな温度差があるものでしょ? 経営だの運営だのしてると、綺麗事じゃ済まない色々を飲み込んでお堅くやってかなきゃいけないこともあるの、そういうのが王都に集約されてるのが、魔王信者団体ってことね。」


 あっさりバッサリと切り捨ててくれたミーアの説明には苦笑が浮かぶが、分からなくはない話だ。


「ミーアは、王都所属の正式会員で、それなりの地位にいるんだろう?」


 これまで聞かなかったミーアについてをこれを機会にと問い掛けてみる。


「ふふ、そうねぇ。正式にウチの子にならない限り、それは教えられないかしら? でも君は、王都には入りたくても正式入会して魔王信者をするつもりはないのでしょう?」


 あちらからも躱された上に、痛い指摘を突き付けられる。


 もはや何を言おうが否定しようが、ミーアにはこちらが魔王信者になって成り上がることを夢見る魔法使いなどではないと確信されているようだ。


「シルくん。仲良くやりましょ? 今日はこの後初めてのお仕事に出て貰うわ。それが熟せたら、明日王都に仮入会者として登録なしに門を潜らせてあげる。行き先は本部事務所しか許可が降りないけど、まあ上手くやりなさいな。」


 口元だけでニヤリと笑うミーアは、本当に曲者だと思う。


「その代わり、シルくんが“願い”本部の方針を無視した単独行動を行った場合には、強制退会手続きを取られるか、追跡排除対象に認定されるから、気を付けてね。」


 そして付け足すこの切り捨てた言葉が痛過ぎる。


 都合が悪い事態が発生したら切り捨てると宣言されたということだ。


 元より何かあればそうなることは分かり切っていた話だ。


「分かった。それで十分だ。」


 もしかしたら、自分に限らずこういうケースはある事なのかもしれない。


 魔法大国の内情を探りたい者達は、そうやって王都に潜るしかないのだろうから。


「じゃ、取り引き成立ね。初仕事、行きましょうか。」


 ごく軽い口調で続けるミーアから主導権を取り戻せないまま、良いようにこき使われる時間に突入するようだ。


「と、その前に、パディが安全に待って居られる場所を紹介して欲しい。」


「そうね。妹ちゃんも、王都に用事がありそうだものね。でもあの子は、私の一存では王都に入れてあげられそうにないしね。」


 そう言って、仮入会手続きを進めているパドナ公女を見詰めるミーアの瞳は、少し厳しい色を浮かべているように見える。


 ミーアにとって、自分達とパドナ公女達がどう違って見えるのか分からないが、確かに時折浮かべるパドナ公女の思い詰めたような目には、危うさを感じる。


 王都に潜って、パドナ公女は何をするつもりなのか。


 クイズナーからは、王都に王太子の婚約者候補として滞在している彼女の妹公女に会うのが目的ではないかと聞いている。


 だが、その妹公女は呪詛織りを用いて今回のカダルシウス侵略に手を貸した疑いが濃厚だ。


 その理由や裏を聞き出すつもりなら、それは非常に危うい行動であるように感じる。


 それこそパドナ公女は、どうして人を使ってそれを調べさせようとしなかったのだろうか。


 人の事を言えた義理ではないが、自分よりも彼女の方が余程危うい立ち位置にいるように感じて、だが止め立て出来る程の仲でもない。


 この妙な縁が何を生むのか、もどかしいような気持ちになる。


 だが、一つだけ言えるのは、このままパドナ公女を放っておいて、彼女の身に何事があったなら、それを知ったレイカには酷く怒られそうだ。


「妹だからな、何が目的かはともかく、身の安全だけは確保してやりたい。」


 そんな言葉を溢しておくと、振り返ったミーアが意外そうな目をこちらに向けていた。


「ふうん。」


 結果それだけ口にしたミーアは面白がるような目を向けつつも、それ以上の追求はして来なかった。


「妹ちゃんのことは職員に宿を紹介するように言っとくわ。」


 そう残して手の空いた事務員に話しに行ったミーアを見送っていると、クイズナーが近寄って来た。


「今夜、少し外します。」


 耳元で囁いたクイズナーに、こちらも人目を気にしながら返す。


「接触するのか?」


 この街に自分達以外にもカダルシウスから入った潜入者がいるのだろう。


 もっと目立たず速やかに、元から入り込んでいた者なのか、今回のことで送り込まれたのか、本職の者なら既に何か情報を持っていてもおかしくない。


 明日王都に入る前に少しでも何か情報を得られると有り難い。


「シルくん。三番街の酒場にターゲットが居るらしいわ。引っ掛けに行くわよ。」


 戻って来たミーアにそう声を掛けられて頷き返す。


 どうやら、第三王子の側近を拐かす仕事の方になったようだ。


「はい、これ。2人とも着けて。」


 小さな魔石が3つ付いたブレスレットを2つ渡される。


 一つをクイズナーに渡すと、受け取ったクイズナーの存在が希薄になったように感じた。


「認識阻害の魔道具よ。これを着けておけば余程の相手じゃない限り、こちらの正体には気付かれないわ。」


 成程という高性能な魔道具だ。


 流石は魔法大国エダンミールの技術力だ。


 それを手首に嵌めたクイズナーが食い入るようにじっと見つめている。


 解析でもしようとしているのだろうか。


「どうした?」


 そっと声を掛けてみると、クイズナーがハッとしたように顔を上げた。


「いえ・・・。私にはちょっと見ただけではさっぱり構造がわかりませんが、あの方ならサクッと見破って無効化するのだろうなと、ふと思いまして。」


 あちらも声を顰めて返して来たクイズナーの言葉にハッとした。


 確かに、レイナードを演じていた頃から彼女は、無自覚に魔法の解析をして解除までしてしまうかなり特殊な能力者だった。


「・・・そうだったな。真実を知られたら、ここの連中に嬉々として実験体にされただろうな。」


 魔王の魔力を溜められる器というだけでも彼らには捨ておけない存在なのだ。


「王都で大人しくしていてくれることを祈るのみですね。」


 クイズナーも同じ結論に至ったのか、そんな台詞を返して来た。

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