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「ところで。昨日お前が使ってみせた雷魔法だが。偶然の産物なのか本当に意図的に捻り出したのか知らないが。」


 真面目な厳しい口調になった王子様は、ちょっと訓練場での彼に寄り始めている気配です。


「あれは、かなり難易度の高い部類の再現魔法だ。」


 また良く分からない言葉が飛び出しましたよ。


 科学の実験だからですかね、高難易度なんですね。


「再現魔法って?」


 疑問は答えてくれる人がいるなら、さっさと解消して貰うべきでしょう。


「人知の及ばない自然の働きを再現する魔法という意味だ。」


 成る程、科学が発展してないこの世界の人達にとって、自然の脅威だってことなのでしょうか。


「魔法は精緻で現実味のある想像力を持って発現を促すものだ。勿論それを実現出来る魔力が無ければ発動しない訳だが、魔法を上手く使いこなすには、そう言ったコツというかセンスが必要になる。」


 成る程、魔力があるから呪文を唱えれば勝手に魔法が掛かる訳ではないという事のようです。


 どうしたいという意思と想像力で、つまり凡ゆる事が可能だという事でしょうか。


 そうなると、かなり汎用性が高くて色々出来るということでは?


 つい色々考えてニヤニヤしてしまっていたのか、王子様の顔が少し引きつっています。


「つまりだ。昨日のお前は自然の脅威である落雷を、かなり規模は小さかったが、見事に再現した。光と熱の塊である雷が天から落ちてくるのは、神の怒りだと言っても信じられる程の現象だと思っている。正直に言って私には想像で作り出せるようなものではない。」


 少しだけ悔しそうに言った王子様からは、そっと目を逸らしておきました。


 科学の知識があることは、ここではかなりのチートスキルだっていうことですね。


 そして、やり過ぎないように気を付けないと、翻訳チートと一緒で誤魔化しの効かないドツボに嵌る可能性がありそうです。


 エネルギーの構造を知って活用出来るようになったのは、元の世界の歴史でも近代になってからでしたよね。


 人間の生活レベルや文化レベルが向上して、意識が次の新しい何かを求めるようになって、その先の可能性を見付けるところから始めないといけないんでしょうね。


 ちょっと周りを観察してから色々表に出して行くことにしようと思います。


「まあ、火の玉と水やら氷やらで遊んでたら、雲が出来ちゃったんですよ。それが雨雲になってたまたま雷が落ちて来たってことで。」


 口裏合わせはこの位でいいでしょうか?


 と、目を向けてみると、王子様には呆れ顔で肩を竦められました。


「まあ、甚だ怪しいがそう説明するしかないだろうな。」


 あれ? 説明って誰かにしなきゃいけないレベルの不始末ですか?


「お前は、その首から下がってるやつを研究職の魔法使いにどう説明するつもりだったんだ?」


 言われて、それもそうだと思い当たりました。


 で、レイナードが仕出かした事は、本当に分からないので分からないで通すしかないってことですよね?


 漸く王子様の面倒な事になったっていう態度の意味が分かってきました。


 推定蓄電池が研究で弄り回されるのは構いませんが、こちらが実験動物宜しくモルモットにされるのはごめんなので、立ち回りには気を付けておこうと思います。


 そんな会話も落ち着いたところで、食後のお茶とデザートまで運ばれて来ます。


 紅茶とパウンドケーキにクリームが添えられているような感じです。


 かなり上がったテンションでケーキを一口。


 洋酒の利いたドライフルーツが混ぜ込まれた甘さ控えめスッキリのケーキでしたが、そのまま食べても添えられていた少し酸味の利いたクリームを付けても美味しく食べられる逸品でした。


 紅茶と交互に口に運びながら無限にループが出来そうです。


 まさに至福の時を堪能したところで、王子様が口元をフキンで拭いました。


 朝食は終わりですね。


 仕方なくこちらも口元を拭うと、王子様に続いて席を立ちました。


「これから向かう城表中枢の政務区画では、少し大人しくしておくように。お前を個人的に面白く思っていない者も少なくない上に、お前の父親や家を陥れようとする者もいる。」


 歩き出しながら、まだ注意事項の確認が続きそうです。


 が、王子様はそこで一旦言葉を切ると、こちらをじっと見つめてから、何か躊躇うような顔になりました。


 何でしょうか、物凄く気になる間の取り方ですね。


「・・・。まあ、何を言われてもいつも通りへらっとして聞き流しておけ。どうせお前にとってはみんな知らない者ばかりだろうからな。」


 王子様は取り敢えず色々飲み込んで無難に纏めたようです。


 でも、実際その通りですね。


 貴方が思う以上に、この国の偉い人たちなんか知らない人ばっかりですよ。


 何ならうっかりレイナード父とすれ違っても、絶対気付けない自信があります。


 それにしても、王子様にここまで心配されるということは、レイナードの悪行は、王城中に鳴り響くレベルだったって事ですね。


 本当、この人どこまで何をやってきたんでしょうか。


 それを尻拭いしながら生きていくのかと思うと、少し気が遠くなりそうです。


「善処します。」


 全てに於いてと心の中で付け加えておきました。

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