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「失礼します。」


 断りを入れてから躊躇いがちに入った扉の向こうから、慌てて人が迎えに出て来てくれた。


「ケインズ殿、お呼び立てして申し訳ありませんでした。」


 そう申し訳なさそうに声を掛けてきたのはシルヴェイン王子の補佐官のランフォードさんだ。


「いえ。ランフォードさんは相変わらずお忙しそうですね。」


「ええ、お陰様で殿下の不在の尻拭いに忙しい日々ですよ。それでも、王女殿下が先日からお出掛けになられたので、探りを入れる訪問がなくなったのだけは有り難いです。」


 苦り切った声音のランフォードさんには同情する気持ちが湧かないでもないが、それだけレイカさんも本気だということだろう。


 目覚めたレイカさんが殿下の不在を察知してから、殿下の補佐官ランフォードさんに幾度かその件をそれとなく問い合わせる使者が来たり、レイカさん自身の訪問があったらしい。


 が、王弟殿下からレイカさんに明かすことを禁じられていたので、なるべく濁してレイカさんにも会わないようにかなり気を遣っていたようだ。


 それでもレイカさんはあっという間に真相に辿り着いて、自分が後を追う許可ももぎ取ったのだという。


 相変わらずの行動力に王弟殿下には同情するが、自分にとってはそれでも微笑ましいとしか思えない。


 吹っ切れる前なら、そんなに殿下が大事なのかと複雑な心境になったかもしれないが、少しだけ身を引いた今の立場は、楽だと感じる。


 レイカさんが特別で大事な人だという気持ちは変わらないが、どうしてもこちらに振り向いて欲しいとか、他に余所見させたくないとか、そんなことを考えていた頃は、苦しい気持ちを抱えながらもそれをレイカさんに知られないようにしたいと自分の中でも矛盾した想いを抱え込んでいて、身動きが取れなくなりそうになっていた。


 それを考えると、今は本当にスッキリとした気持ちになっている。


「王女殿下は無事に出立されましたし。ランフォードさんも執務補佐に専念出来ますね。」


「ええ、本当に有り難いです。」


 しみじみと答えたランフォードさんに微苦笑を返しつつ、一つ息を吐いて気持ちを引き締める。


「それでは、今日の業務報告ですが、朝一番に聖獣様の様子を見に神殿に行って、神殿の敷地内を散歩しました。それから朝食を与えてから王城に戻って訓練に参加しました。昼過ぎにまた神殿で聖獣様の昼食後、神殿に作られた聖獣様の寝泊まりの部屋をフォーラスさんに案内して貰ってから掃除も手伝いました。その後、夕方まで神殿で聖獣様絡みの文献を見せて貰って過ごしました。」


 第二騎士団ナイザリークのカルシファー隊長率いる自分の隊は討伐任務で王都を離れたので、王都に残って聖獣コルちゃんの面倒を見ることになった自分は、団長麾下の扱いになった。


 本来なら他の王都に居残りの隊長の下に入るのが普通だが、業務内容が聖獣の世話という第二騎士団ナイザリークとは直接関係がないことになる為、他の隊長の預かりには出来ず、団長の下につくことになったのだが、その団長も不在中の為、王弟殿下の指示でランフォードさんに毎日業務報告をして、特別な指令があればランフォードさんから下されることになったのだ。


「はい。本日もご苦労様でございました。・・・ところで、ケインズ殿は毎日そのような業務内容でもご不満はありませんか?」


 本来ならば上下になる立場ではないからと、この時間のランフォードさんはいつも丁寧に接してくれる。


「ええ。王女殿下の代わりに聖獣様のお世話が出来るのは今のところ私だけですからね。光栄なことだと思いますし。聖獣様とまったり過ごすのも中々癒されて良いんですよ?」


 本当は、騎士として身体を動かして働いてきた身には、少しだけ物足りない気持ちになることもあるが、前とは気の持ちようが少し変わったような気がする。


 レイカさんの護衛として大神殿への旅に同行して、国家を揺るがす大事に際して身近に感じる立ち位置で関わることになり、大きな盤石と思っていた物すら壊れることがあるのだと、実感してしまったからかもしれない。


 それに、それまで騎士として正しいと言われたことに言われるままに従っていたのを、あの時殿下の助けになる為に、初めて命令通りではない自分が正しいと思うことを元に行動に出た。


 具体的にはハイドナーの手引きで王城に入り、このランフォードさんと接触して真実を伝え、殿下の支持派閥の過激行動を一先ず抑えて貰い、隊長達との連絡係になった。


 殿下は直ぐに王太子殿下自身と取り引きされて自由の身となったので、支持派閥を抑えておいたのはやはり正しかったようだ。


 だからだったのか、殿下は自身が王都を離れるに際して、目覚めたレイカさんを頼むという意図に聞こえる言葉と共に、聖獣達を任せていった。


 レイカさんの目覚めを待つことなく王都を離れた殿下に始めは反発を覚えたが、結果として殿下はレイカさんを信じていたのだろうと今なら思える。


 それ程までにレイカさんを深く想っているのだと。


 そんな2人ならと今なら素直に応援しようという気持ちでいる。


「そうですか。王女殿下が連れ戻しに行かれましたことですし、程なく殿下方もお戻りかと思いますから、それまでは宜しくお願いします。」


 自身も忙しいだろうにこちらを気遣ってくれるランフォードさんに感謝しつつ頷き返した。

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