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「そうそう、人間ってのは無意識に左右対象を綺麗だと感じるものらしい。だから、逆にそれを少しずつ崩してやると、不思議なことに注目され難い埋没する容姿になれるんだ。」


 そんな台詞を吐き散らしながら周囲に埋没する化粧の実演談義をしてくれたのはピードさんでしたが、寄り道したキースカルク侯爵の屋敷の一室から出て来ると、護衛の皆さんが一斉にこちらを見てから残念そうな顔になって、そこからピードさんに少しだけ咎めるような視線が行ったのには、申し訳ないような気持ちになりました。


 と、そこへ廊下の向こうからアルティミアさんが歩いて来ます。


「レ・・・カディさん、実は家からもう1人お供を付けてもいいかしら?」


 言いながらチラッと振り返ったアルティミアさんの後ろから、これまた懐かしい顔が覗きました。


「カディ様、貴女の従者(侍従試験合格見込み)ハイドナーがお供致します! 道中のご用命はこのわたくしめに何なりとお申し付け下さい!」


「ん? ハイドナー侍従試験受けたの? まさかの王女宮の侍従目指してるとか?」


 この新情報には驚きつつ問い返すと、ハイドナーはこれまた良い笑顔になりました。


「はい! 勿論でございます。密かにランバスティス伯爵家へ退職願いを書きつつ伝を辿って侍従試験の勉強を始めていたところでイオラート様からも打診を頂きまして。受験費用を持って下さるというのでそれはもう二つ返事で!」


「えっと、それは実は出世払いで給与天引きになってるとか、一回落ちたら倍返しとか、無茶苦茶なこと言われてない?」


 どうしようもなく、イオラート兄に毎晩遅くまで鍛えるとか言ってこき使われていたハイドナーのことが忘れられなくて、ついそんな心配が口をついて出てしまいました。


 イオラート兄自身はそこまで非道な人ではないと分かってるんですけどね。


「まさかそのようなこと。ただ、どうせ受かるなら上位成績でないと今一番人気の高倍率、王女宮の侍従採用は難しいだろうとは教えて頂きました。」


 にっこり笑顔で言い切ったハイドナーですが、それは兄に無駄にハードルを上げられてるだけだって気付いているでしょうか?


 ハイドナーが侍従試験受かったら、こちらは漏れなく引き抜く気でいますからね!


「そっか、まあそれはそれで頑張って?とは別に、今回の旅に付いて来てくれるのは、正直助かるわ。是非馬車の中でのモルデンさんの尋問じみた会話の緩衝材になってくれる?」


 本音がダダ漏れになってしまいましたが、無理もありません。


 モンデンさんときたら、こちらが答え難くてこれまで濁しまくっていた問いを蒸し返して来るんです。


 ウチの魔人ノワさんがこっそり覗いてきたらしい禁書庫の書物の中身や所在を聞き出したがるんですよ。


 偶に、世界の禁忌タブーに触れそうな部分もありそうなので、触らずそっとしておきたいのに、色々困ります。


 魔法使いって総じてマニアックだって思うのは偏見でしょうか?


 まあある意味職務に忠実なのかもしれませんが、時折熱意が暑苦しく感じることがありますね。


「魔法使い殿との会話は気疲れされるのでしょうか?」


 そう返してくれたハイドナーに、微苦笑を向けておきます。


「そればっかりだとね。偶には違う話題も欲しいでしょ?」


「はあ。そういうものでしょうか? では、わたくしめがカディ様がお楽しみ頂けるような会話をご用意致しますので、お任せ下さいませ!」


 その力の入った宣言には一抹の不安も覚えつつ、とにかく緩衝材が確保出来たのは有難い話だと思っておきましょう。


「それでは従者のことは良いとして、お父様のお話では、大魔法使いタイナーがそろそろ引き止めておける限界みたいなのですって。」


 その話はこちらも昨晩王弟殿下から散々聞いています。


 取り敢えず寝込んでいる間に、守護の要の建屋内に設置した檻の中身を王城魔法使い達とタイナー師匠せんせいが手伝う形で始末したそうです。


 本当はバイオハザードマークを確認しながらの予定でしたが、いつまでもこちらが目覚めないので、昏睡3日目に決行されたようです。


 守護の要の手前で遭遇したモグラ魔物は高火力焼却滅菌で始末出来たので、それに習う形でタイナー師匠がかなり緻密な完全結界を張った上で行われたそうなのですが、その結界魔法について王城魔法使いの塔で大きな論争を呼び、かなりしつこく王城魔法使いへのスカウトを行った結果、タイナー師匠にもう帰る宣言をされたそうです。


 そもそも守護の要の修復も始まっていない上に、修復予定の装置の構造解析もまだ途中。


 目覚めてからノワの持ち帰った情報を元に、条件によって段階構築されている作動装置の話をしましたが、その条件も、中身が中身だけにまだ上層部の一部にしか明かされていないという状況です。


「今大魔法使いタイナーに去られてしまっては、守護の要の構造解析が滞ると、王城魔法使い達が大騒ぎしているのですって。」


「・・・でも、タイナー師匠はエイミアさんの名前を出したんでしょう? 1人で置き去りにしておけないとか。」


 その時のタイナー師匠の顔がリアルに浮かびそうです。


「そうなのよ。」


「・・・タイナー師匠は、エイミアさんのことだけは絶対に譲りませんよ? 後で理由を付けて呼び出した方が得策ですって。私がエダンミールからの帰りに拾って来ても良いですし。」


 今、タイナー師匠を引き止めようとして強行突破される方が被害が大きい気がします。


「カディさん。それ、かなりの遠回りよ? またハザインバースに乗って帰られるなら良いかもしれないけれど。」


「・・・嫌です。イースとエールは空飛ぶフワッとペットなんです。乗り物にはしないって心に決めてるので。」


 思わず頑なになってしまいましたが、数日前ライアットさんにエールが乗せたがってるからという理由でお空の散歩に誘われたんですが、軽く二つ返事でOKしたことを後悔する羽目になりました。


 飛行も3度目だしとちょっと調子に乗っていたのが敗因かもしれません。


 ライアットさんと一緒に少しだけアクロバットな飛行を始めたイースに触発されたエールが、制止を振り切ってのグルグル宙返りを始めて、途中完全な宙吊り状態になって死ぬかと思いました。


 降りた途端にライアットさんに平謝りされましたが、幸い誰にも気付かれていなかったようで、ライアットさんの首が危ぶまれるような事態にはならずに済みました。


「ペットは乗って楽しむものじゃありません。愛でて触って癒されるものなんです!」


 声を大にして言い切ってしまいましたが、許して欲しいと思います。


 あの日、バンフィードさんがアルティミアさんと初デートってことでお休みである意味良かったですね。


「そうですの? まあ、いずれにしてもカディさんがお戻りにならないと何事も進まないというお話ですものね。どうぞ無事にお戻りになって下さいませね。カディさんの大事な方の為に、わたくしのバンフィードもお使い下さいませね。」


 にっこり笑顔で締め括ったアルティミアさんですが、その手首にはちょっと席を外している間に渡した様子のバンフィードさんの瞳の色の石が付いた存在感のあるブレスレットをしています。


 相変わらず愛は重そうです。


 まあ2人が幸せならいいんですけどね。

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