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 王宮前広場に整列した帰還を控えたエダンミールからの援助隊と、それを送っていくキースカルク侯爵の一行。


 それにくっつくように、神殿の聖女が1人とそれに付き従う侍女が2人と護衛数名。


 その侍女の格好に扮して、国王の挨拶を聞いてから聖女様と一緒に馬車に乗り込みました。


 途端に、物凄く不安そうな顔になった聖女様が涙目をこちらに向けて来ました。


「殿下〜。やっぱり無理です。聖女様のふりなんて、私聖なる魔法なんか全く使えないんですよ? しかも鍛えた筋肉質の腕とか足とか、見られたら絶対バレますって〜。」


 王女の護衛騎士隊に任命された女性騎士2人が今回侍女のフリをしてついて来ることになっていましたが、念には念を入れて、入れ替わることにしました。


 そもそも、神殿からキースカルク侯爵一行への援助という形の、王女とは全く関係のない聖女様の設定です。


 変装の方も出来る努力をということで、髪を少しだけ脱色して赤茶色にしています。


 ですが、護衛にはしっかりとリーベンさんとバンフィードさん他、数名の騎士さん達がこれまたキースカルク侯爵家の護衛さんに扮してこちら専属で付いています。


 ちょっと護衛が厚いのは、神殿に対するキースカルク侯爵家からの好意ということで。


 因みに、この形に決まるまで、王弟殿下やキースカルク侯爵を巻き込んでの連日連夜の話し合いと脅し合いによる駆け引きがあり、こちらの粘り勝ちで幕を閉じました。


 帰ったら覚えておけという王弟殿下の悪役ばりの脅し文句を昨晩の最終ジャッジの後で貰いましたが、さっさと忘れて旅立とうと思います。


「大丈夫ですよ! 聖女の力が必要なことなんか、そうそう起こりませんよ。第一設定上はそんなに魔力豊富な聖女ではないですけど、非常事態になったら出来ることしますってことなので。そうなったらこっそり隣で私がやりますから。」


 宥めるように女性騎士さんに返すと、うんうんと頷き返されました。


「それから。ここからはもう、カディって呼んで下さいね。」


 にっこり笑顔でお願いすると、女性騎士のニーニアさんが何か必死な様子でコクリと頷き返して来ました。


 このニーニアさんの同僚のサミーラさんも立派な筋肉をお待ちの騎士さんですが、侍女服の袖が動かし難いからと改造してたのを見て、ちょっとだけ自分も鍛えようかなと思ったことは内緒です。


「カディ様。ジャックも収容された事が確認出来ましたので、扉を閉めますね。」


 と、サミーラさんが無情にも引き寄せた扉の向こうで、乗り込みたそうにしていたバンフィードさんが肩を落としていました。


 流石にキースカルク侯爵家の護衛さんを同乗させる聖女様は、違和感満載過ぎますからね。


 それから、今回のエダンミール行きにはコルちゃんは連れて行かないことになりました。


 目覚めた翌日から、神殿に通って例の二段構えの呪詛の解呪状況の確認やらシリンジへの魔力補填を行っていたのですが、出発前日の帰りにコルちゃんが神殿から出て来ようとせず、居合わせたケインズさんがここでお留守番したいみたいだと教えてくれました。


 いつの間にやら、ケインズさんはコルちゃんやジャックの要求が何となく分かるようになったんだとか。


 ノワが何やらニヤニヤしていたので、ギフト的な特殊能力が目覚めたんでしょう。


 そんなケインズさんに留守中のコルちゃんをお任せすることにして、今回はジャックだけを連れて旅立つことになりました。


 イースとエールは折良くなのか、ライアットさんが仕事に出るのに連れて行ってくれることになったので、今回は完全偽装可能な身軽な旅になりそうです。


 後はエダンミールに入ったら、必要に応じて魔力遮断の魔石を使って、こちらの魔力が他人から感知出来ないようになれば完璧ですね!


 そんな訳で、鼻歌がフンフンと出そうな旅が始まりました。


 いつの間にか隣にピタリとくっ付いているジャックの頭をナデナデ至福の時間を味わっていると、馬車が止まりました。


 城門を抜ける順番待ちかと寛いでいると、不意に扉が叩かれました。


「はい。」


 サミーラさんが答えると、向こうからは聞き覚えのある声が返ってきました。


「副王城魔法使い長のモルデンです。聖女様ご一行と同乗させて頂きたい。」


 これには目をパチクリさせてしまいました。


 そんな話は昨晩は聞いていません。


 程なく扉が開いて、笑顔のモルデンさんが乗り込んで来ました。


「これは心良く御同乗をお許し下さいましてありがとうございます。」


 そんな笑顔の圧のあるモルデンさんの様子に、これは王弟殿下から遣わされた監視員だと確信しました。


 そのモルデンさんは、扉が閉まって馬車が動き出すと、徐に手に抱えて来た鞄から分厚い紙綴じの資料を取り出しました。


 お仕事も忙しいでしょうに、王弟殿下の無茶振りに振り回されたモルデンさんには申し訳ない気持ちになります。


「ふむふむ、なになに。おねー様取扱い説明書第一項その一、おねー様を無闇に馬車の外に出すべからず、と。何故ならちょっと歩いただけで問題を招き寄せるから。うーん、この無闇にって言うのはどの程度なんだろうなぁ。食事時休憩時宿泊時は出て頂くしかないだろう?」


 そんなとんでもない読み上げと独白を始めたモルデンさんに、ピクッと片頬が上がります。


「モルデンさん? それ、何ですか?」


「ああこれですかな? コルステアくんから出発前に手渡されたんですが、徹夜で書き上げたそうですよ? 愛されてますなぁ。」


 いやいや、あれは愛じゃないですよね?


 何やってるんだか、本当に才能の無駄遣いも甚だしい、でもやっぱり可愛い弟ですね。


「はあそうですか。それはまあ、そっと仕舞って頂く形で。帰ったらコルステアくんに、おねー様から大事な話がありますって伝えといて頂けますか?」


「はははは。それはお伝えしておくこととして。こちらはこれから一通り目を通しておくことにしますよ。これでも私も命は惜しいので。王弟殿下から厳命を受けていることですし。王女殿下の為人は把握しておかなければなりませんからな。」


 抜け目のない笑顔で言い切ってくれたモルデンさん、流石はコルステアくんの上司ですね。


 そして、あの王弟殿下が付けた監視員ですから、まあそんな方なんでしょう。


「はあ。私って何でこんな息苦しい場所で生きなきゃいけないんでしょうね。」


 そう当てこすってみると、モルデンさんにはにこりと良い笑顔で微笑み返されました。

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