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 ブゲホッ。


 テーブルを挟んだ向いの席で食後のお茶を吹き出しそうになりつつも辛くも飲み込んで咳き込んだ王太子が、涙目でこちらを睨んでいます。


 守護の要で倒れて後の目覚めから更に3日後、家族の顔合わせ目的の食事会も和やかに終わりを迎えようとしていたところでした。


「・・・ログハーン。レイカルディナとの間に、何か行き違いでもあるのではないか?」


 そう穏やかに王弟殿下に話しを向ける国王は流石に大人の貫禄です。


 爆弾を投下した身としては、少々居心地の悪い気持ちにもなりますが、ここは悪びれずにお茶でも飲んでおこうと思います。


「兄上、誠に申し訳ございません。どうやらそのようですので、後でじっくりとレイカルディナには時間を取って貰って話をしようと思います。」


 これまた和やかに返している王弟殿下の目が笑ってないのが、見なくても分かりますね。


 勿論、怖いから目は合わせませんけど。


「そうでしょうか? わたくし何もおかしな事は申し上げておりませんわ。数日中に引き上げて国へ戻られるエダンミールの援助隊の皆様へ同行して、先方に感謝の意を伝える大使としてのキースカルク侯爵に、わたくしも是非同行したいと、そう申し上げているだけですわ。」


 さも当然と言葉を重ねてみせると、ガクブルな王太子がこちらの右隣の王弟殿下にチラチラ目をやっているのが見えました。


 そういうの止めましょう。


 滅茶苦茶後が怖いじゃないですか。


「エダンミールの方々にはこの度本当にお世話になりましたし。素早い援助の申し出に、迅速な援助隊の派遣には感謝の念に堪えません。王都の諸問題解決の為に多大なる尽力を頂けたものと大変感謝しております。から、わたくしも一緒に行ってお礼を言って来ようかなぁと。」


 にっこり笑顔で締め括ると、チラッと盗み見た左斜め前方の国王は、王太子とは年季の違いでしょうか、目元の笑みを崩していませんでした。


「そうか。レイカルディナは、とても国思いの良い子だな。ログハーン、後程レイカルディナの話しをしっかり聞いてあげなさい。さて、レイカルディナは折角だからもう少しデザートでも食べたら良いのではないかな?」


 サラッと流した国王が壁際に控える顔色を失った給仕係に目を向けると、給仕係は飛ぶように急いで、デザートの乗った皿を運んで来ました。


 何故かこちらの目の前にだけ置かれたデザート皿には、綺麗に食べるのに気を使わなければならないような多層のパイ生地のケーキが乗っていました。


 つまり、ちょっと黙って大人しくケーキでも食べておけということのようですね。


 これには大人しく従っておくことにして、黙々とケーキをお上品に食べる作業に取り組むことにしようと思います。


「ログハーン、レイカルディナにはもう1人追加で補佐官を付けて、もう少し公務を割り当ててはどうだ? 折角の有能な王女が勿体無い。ノイシュレーネやマユリとも交流を持たせて、社交界にも少しずつ出る練習を始めてはどうか?」


 全力で余所見しないように忙しくしようとしてくれる国王の言葉には、乾いた笑いが浮かびそうになります。


 やっぱりこの作戦、上手くいきませんでしたね。


「レイカルディナ、早速明日にでもノイシュレーネを離宮に向かわせよう。我々男性では分からない王家女性の務めなど、気になることを何でも聞いてみると良い。」


 右隣から親しみを込めた口調の王弟殿下からの言葉が掛かりますが、チラッと間違えて見返してしまった先で、目から凍結魔法を放ちそうな視線を食らうことになってしまいました。


 裸足で逃げ出したくなっているチキンハートを宥めすかしつつ、バジリスクばりの視線からそっと目を逸らしました。


「ノイシュレーネさん、久しぶりですね。有難うございます、叔父様。」


 ここはもう、にっこり笑顔で逃げ切るしかありません。


 そんな訳で退室時に王太子が給仕係に胃薬を所望する和やかな顔合わせ食事会は幕を閉じました。


 部屋を出たところで待機していたバンフィードさんに半眼を向けつつ一言です。


「やっぱり全然上手く行きませんでしたけど?」


「それはそれは。流石は王族の皆様です。大変宜しい結果に落ち着いたこととお喜び申し上げます。」


 そんな皮肉を返して来るバンフィードさんからは、直談判以外の方法は完全に封じられています。


「どうしてくれるんですか? これはもう強行突破以外ないって結論に至りますけど?」


「王弟殿下がお話しに応じて下さる運びになったのでは?」


 そう返して来るバンフィードさんの内心は何処にあるのか、全く掴めない人です。


「レイカルディナ、これから私の執務室に寄って行きなさい。」


 後ろから出て来た王弟殿下から掛けられた声で、首根っこを引っ張り上げられている幻想が浮かんだ気がしました。


 この方、視線一つで幻覚魔法まで使えるんでしょうか。


 そんな逃げ妄想を展開しつつ、またにっこり笑顔を張り付けておきました。


「はい、叔父様。」


 良いお返事が出来たところで、壁際ギリギリまで下がって通してくれる給仕係さん達の間を連行されていくことになりました。

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