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 ふんわりと身体を包む柔らかなお布団の感触。


 洗い立てのシーツの香りも心地良く。


 とそこまで考えたところで、パッと目が覚めました。


 また、やりましたね!


 そっと肘を曲げて見覚えのない部屋のベッドで上半身を起こすと、ベッド脇の机に乗ったコップを手に取りました。


「美味しい天然水生成。」


 コップ一杯分湧き出した水を掠れ気味な喉に流し込みます。


 身体に染み渡る水分に大きく息を吐いていると、唐突にカチャッと扉が開く音が聞こえて来ました。


 そして静かに近付いて来る足音が途中からゆっくりになります。


「レイカ様? やはりお目覚めですか?」


 確かめるように掛けられた声は、バンフィードさんのものですね。


「あ、うん。おはようございますバンフィードさん。またしばらく寝込んでました?」


「はい。守護の要でお倒れになってから、今日で6日目になります。」


 やっぱりという答えが返って来ましたね。


「・・・そっか。で、守護の要はどうなってますか?」


 これが一先ず一番大事な確認事項でしょう。


「魔法陣が光ったところで、レイカ様以外の魔法陣上にいたもの達は全部外に弾き出されました。因みに、全員無事です。それから程なく守護の要が全面稼働を始めたようです。テンフラム王子が仰るには、古の装置そのものが稼働しているとのことでした。」


 夢の中の出来事を思い出す限り、そんなことになっていそうな気がしましたが。


「お陰で、王都内に出没していた小物の魔物達は姿を消したようです。それから、例の5匹の竜種ですが、王都外周を日々交代で警戒巡回しているようで、他の魔物の接近を何故か防いでくれているようです。偶に様子を見に行くと、ボール投げをせがまれますが。」


 冷静な声で報告してくれたバンフィードさんですが、最後のくだりは満更でもなさそうな表情です。


「そっか。ペット達と仲良くね? 偶にはそうやって遊んであげて下さいね?」


「・・・ですから、私は。まあ、良いです。」


 何かを諦めたように溜息混じりに溢したバンフィードさんは、続きを話し始めました。


「ライアット殿の報告で、ハザインバースがレイカ様のことを心配しているようです。離宮前に降下スペースを確保しましたので、動けるようになられましたら一度降ろしてお姿を見せて差し上げると宜しいかと。」


 イースとエールには確かに火炎放射のお礼を言えていませんでしたね。


 それでなくてもペット認定した以上、構ってあげないといけません。


 それに、ライアットさんとの正式雇用契約も詰めなくてはいけませんでした。


「その他諸々の報告やら相談やら取り決めの必要がございますが、一先ずレイカ様のお目覚めを各所に報告して参りますので、一度お側を離れることをお許し下さい。」


 そう硬く締め括ったバンフィードさんに、取り敢えず頷き返しておくことにしました。


 去って行くバンフィードさんと入れ替わりに王宮勤務の女官さん?侍女さんでしょうか?そんな服装の女性達が3名程入って来ました。


「王女殿下にご挨拶申し上げます。」


 代表の1人が深々と頭を下げつつそう挨拶してくれます。


「この度、王女殿下の専属侍女となりました私ニース始め、ケイティ、シーナでございます。これよりどうぞ宜しくお願い致します。」


 優雅な仕草で挨拶してくれる3人は、元々こちらよりも余程お育ちの良いお嬢さん達なのでしょう。


 とはいえ、申し訳ないとか引け目を感じたところで始まらないので、この立場でいる内は仕方が無いことと腹を括ることにして、軽く流しておくことにしましょう。


「ええ。宜しくお願いしますね。」


 堂々と返したこちらにどう思ったのかは分かりませんが、3人は早速と動き始めました。


「湯をお待ちしますのでお顔を拭きましょう。本日はベッドからお離れにならない方が良いでしょうが、どなたかはお見舞いに見えるかと思いますので。」


 確かに、寝起きの顔のままは恥ずかしいですね。


「それから医師を呼びに行かせましたので、程なく診察に参ります。」


 正直に言って、いつも通り今から動いても全く問題なさそうなのですが、どうせ許して貰えなさそうなので大人しくしておくことにしようと思います。


「分かりました。合間に何か食べる物が欲しいのと、リーベンさんは近くにいますか?」


「護衛隊長様は、丁度騎士団本部にお出掛けになっておられるようです。お戻りになられましたら、殿下がお呼びの旨お伝え致しますが、今直ぐ呼び戻した方が宜しいでしょうか?」


 ニースさんが答えてくれましたが、首を振って返します。


「そこまでしなくても良いです。バンフィードさんかリーベンさんが帰って来たら呼んで貰えますか?」


「はい。畏まりました。」


 ランバスティス伯爵家に付けて貰ったメイドさん達と比べると更に真面目で硬い印象の侍女さん達ですが、名前ばかりでも王女様になってしまった以上、上手くやっていかないといけないですよね。


 と、そこまで考えたところで、ふとランバスティス伯爵家の皆さんのことが頭に浮かびました。


 それから、ファデラート大神殿への旅の仲間の皆さんのことも、色々と気になり始めましたよ。


「うーん。色々と問題が山積みのような・・・。」


 ゆっくり休んでいる暇はやはりない気がして来ました。


 侍女のケイティさんがギュッと絞った濡れ手拭いを用意してくれて、拭いてくれようとしたのを断って自分で顔から首周りくらいまで拭きます。


 すっきりしたところで手拭いを返すと、ケイティさんが何か言いたそうな顔をしました。


「どうかした?」


 率直に問い掛けてみると、ケイティさんがビクッと身を震わせました。


「あの。綺麗に拭き上げて、お化粧などさせていただいてはいけませんか?」


 躊躇いがちに答えたケイティさんは、何に怯えているんでしょうか?


「うーん。今日は出掛けないなら、お化粧は必要ないかな? 夕方お風呂後に保湿はしたいけど。」


「はい! 畏まりました!」


 元気に答えてくれてケイティさんに、こちらが目を瞬かせてしまいます。


「これ、ケイティ。王女殿下はお目覚め間もないのですから、大きな声を出してはいけませんよ?」


 ニースさんの嗜める声が掛かって、ケイティさんは身を竦めたようです。


「ニースさん。その王女殿下っていうの、堅苦しいからレイカで良いですよ?」


 ついそう言葉を挟んでしまうと、ニースさんは少しだけ渋い表情になりました。


「では、敬意を込めてレイカ様と呼ばせて頂きます。」


 これまた恭しく頭を下げたニースさんに目を瞬かせていると、ニースさんが躊躇いがちにこちらに視線を合わせて来ました。


「殿下、いえレイカ様。わたくし共この離宮付きを志願した者達は皆、レイカ様に厚い忠誠を誓う者ばかりです。どうぞ宮の中では遠慮なくお寛ぎ下さい。」


「ん?厚い忠誠? えっと私、名前だけ王女ですよ? もっと気楽な感じで、離宮の維持はして貰わなきゃいけないですし、最低限王女の体裁やら品格やらを整えるお手伝いはして貰いたいですけど。」


 何か怖い言葉が聞こえそうでそう返してみたのですが、ニースさんの目が更にキラキラと輝きだしてしまいました。


「レイカ様は、本当にお優しくて素晴らしい人格者でいらっしゃいます。わたくし共、レイカ様にお仕え出来て本当に幸せでございます。」


 いやいや、人格者が裸足で逃げ出しますよ?


 そんな脳内ツッコミを入れつつ、どうしてこうなったと首を捻った結果、あっと思い出したことがありました。


 そう言えば、王家の聖女の仮面を被ったんでしたね。


 外を顔を晒して歩けば拝み倒される立場を演出したんでした。


 まあこれについては、私生活を覗き見たニースさん達が徐々に仮面の下に気付いて行って、過剰な敬意も良い感じに抜けていくことを祈ることにしましょうか。


「王女殿下、お食事をお待ちしました。」


 もう1人の侍女シーナさんですね。


「消化に良い食事とのことで、少し物足りないかもしれませんが、一先ずこちらをお召し上がり下さい。」


 言いながら、脇机にスープのようなものを置いてから、ベッド上に簡易テーブルのようなものを用意してくれます。


 それを手伝う傍ら、ニースさんがシーナさんに名前呼びのことを伝えていて、2人で小さく盛り上がっている様子が目に入りました。


 早く聖女様フィルターが剥がれてくれることを祈るばかりです。


 優しい味付けの具の殆どないスープを飲み干して、物足りなさを訴えようか悩んでいたところで、医師の訪れを知らされました。

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