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「守護の要は元はといえば古代魔法で構築された装置でした。装置の外周を囲むかなり大きな古代魔法陣が描かれており、その魔法陣の中央に特殊な古代の巨大魔石を配置して、それを動力源に魔力の循環を行っていたようです。」


 これからの手順を説明する上でもこのそもそもの話を聞いておいて貰う必要があります。


 風魔法を別がけして、分かりやすく色付き紐が魔石に見立てた紙から伸びて循環する構図を描いておきます。


「魔力の循環? 装置の目的はそれだけですか?」


「ええ。かなり古い文献をあたったところで、その理由が分かりました。」


 その古い文献をあたってくれたのは本当はノワですが、そこは色々と面倒なので突っ込まれないかぎりスルーで行こうと思います。


「古い昔、まだ魔法といえば古代魔法が主流だった時代です。人は、とある条件を満たした土地を安住の地として住み着いていたそうです。それは、古代竜のお膝元。人の王は古代竜と契約して、その影響下、つまり縄張りの中で暮らす許可を貰っていたのだそうです。」


 この説明に、王城魔法使いですら驚きの顔になっています。


「ですが、幾代も人の世が移り変わった頃、契約していた古代竜にも滅びの時が来ました。古代竜の滅びは、人の住む国の滅亡を表していました。そこで、滅びの前に人の王は古代竜と新たな約束をしたそうです。古代竜が亡くなると形作られる巨大な魔石を譲り受け、魔石の中に眠る魔力の残滓を循環させることによって、古代竜の滅びを隠蔽して他の魔物を近寄らせないように縄張りを維持することを。」


「・・・成る程。だから、装置は魔力の残滓を循環させるだけのシンプルな構造だったということですね。」


 モルデンさんに頷き返します。


「ところでその文献・・・」


「はい、そんな訳で古代竜の魔石を受け継いだ国家は、古代魔法で魔石の魔力循環を行う装置を起動させて魔物の近寄らない安全な生活圏を手に入れていた訳ですね。」


 サクッとモルデンさんの発言を被せて遮ってしまいましたが、ノワが見付けてきた文献の所在なんか怖くて聞ける訳がありません。


 これだけ知ってる人が少ない以上、禁書か何かで何処かに厳重に仕舞い込まれていたに違いないですからね。


「ところが、古代魔法が衰退していったことで、装置の維持が出来なくなったので、現在の魔法で循環装置を起動する仕組みを後付けで構築したのが、今回破壊の対象になった装置になります。」


「そうサクッと聞くと、物凄く簡単な装置に思えるが、実際は古代魔法の装置を起動させる訳だから、それなりに複雑な構造なんだろうなぁ。」


 カリアンさんが呟くように口にした言葉が思いの外謁見の間中に広がりました。


「ええ。そうみたいです。古代魔法自体がロストマジックになり掛けていますからね。今の魔法で装置を作った当時よりももっと古代魔法の技術や構造も忘れ去られていますから。正直に言うと、今から新しく装置を作り直すのは、かなりハードルが高いんじゃないかと思っています。付け焼き刃じゃないきちんと機能する装置を作り出すには、相応の時間が必要になる筈です。」


 サヴィスティン王子からの申し出を真っ向から跳ね返す形になってしまいますが、ここは皆の前ではっきりと言っておくべきことだと思います。


「それでも聖なる魔法での修復では、それこそ年間単位の時間が掛かる筈だ。それを待てる状況ではないのではありませんか?」


 サヴィスティン王子が苦い口調を隠し切れずにそう返して来ました。


「サヴィスティン王子殿下、お心遣いありがとうございます。確かに、現状を打開する為には早急な装置の復旧が何よりも優先とされるでしょう。」


 それには肯定してあちらを立てつつ、ですがにこりと微笑み掛けました。


「ですので、装置の修復とは別に応急的に循環装置の即時稼働を可能とする方法を試してみようと思っています。」


 この方法まではサヴィスティン王子にも予測されていなかったようですね。


 混乱したような顔でこちらを見返して来ます。


「それはまたどのように?」


 カリアンさんがやや呆れ気味に促してくれました。


「私のこの身には、スーラビダン王家の血が流れているそうです。そのお陰で、古代魔法の使用が可能です。大元の装置を見て稼働可能か検証してみようと思います。」


「・・・それは、本当に可能なのでしょうか? レイカルディナ殿下は失礼ながら古代魔法についての知識が潤沢にある訳ではないのではありませんか?」


 カリアンさんから呼びにくそうに殿下呼びをされてこちらもむず痒い落ち着かない気分になりますね。


「その通りですね。わたくしもそれには自信がないので、古代魔法に詳しい師匠をお呼びしています。」


 目を向けた先で、テンフラム王子が貴族達の集団から抜けて前に出て来ました。


「皆様にご紹介致します。わたくしの古代魔法の師匠としてこの場に同席して頂いております。スーラビダン王国第3王子テンフラム殿下です。」


 紹介と共にフードを下ろしたテンフラム王子は、国王に恭しく礼を取りました。


「レイカルディナ殿下に請われてこの場に同席させて頂いておりましたスーラビダン第3王子のテンフラムと申します。国王陛下にはお目もじ叶い恐悦至極に存じます。私はレイカルディナ殿下の古代魔法の師匠を引き受けておりますが、それ以前に、幾度も求婚して断られておりまして。もしも、貴国で殿下を持て余すようなことになりましたら、いつでも迎えに参りますので、是非お知らせ下さい。」


 と、余計な台詞まで捩じ込んで来たテンフラム王子には、思いっ切り顔が引きつってしまいます。


「うむ。テンフラム殿下も歓迎しよう。レイカルディナの手助けを是非とも頼みたい。」


取り敢えず、余計なアピールは聞き流すことにした様子の国王に続いて発言しておきますよ。


「テンフラム殿下の冗談は冗談に聞こえませんから、やめて下さいませと常々申し上げている筈です。」


 そう一言付け加えてから、気を取り直してカリアンさんに視線を戻しました。


「そういう訳で、テンフラム殿下に同行頂いて、守護の要の古代装置の稼働を一先ず試みます。」


「装置は古い時代のものですから、故障箇所があったり劣化していたりと、不具合があった場合はどうなさいますか?」


 カリアンさんの口調がどんどん丁寧になっていくのはちょっと気になるところですが、ここ一番大事なところに差し掛かってきたので集中しようと思います。


「装置に劣化や不具合があった場合は、修復魔法で稼働可能な状態に戻します。」


「それは、殿下の魔力であれば完璧に可能なのでしょうか?」


 慎重に詰めていくカリアンさんも、場当たり的な稼働で何か取り返しのつかないことにならないかと慎重になっているようです。


「正直に申し上げて、聖なる魔法の行使は魔力消費が非常に大きいのです。が、聖なる魔法の特性上、普通の魔法とは仕組みが違って、承認を受けることによって威力が増したり消費が軽減されるんです。」


 これだけでは具体的に分かりにくいようでカリアンさんは小さく首を傾げたようでした。


「つまり、祈りによってその魔法の行使を支持されると、不可能を可能にする程精度が上がるということです。これは、実際にやってみなければ実証出来ませんが、ファデラート大神殿の大神官からもそのように聞いて来ました。」


 ここまで聞き終わったところで、カリアンさんは国王に目を向けたようです。


「陛下、私の意見と致しましては、レイカルディナ殿下の言われる方法を試して頂くのが一番かと存じます。勿論、私も同行して殿下の行われる全てに立ち会い、出来るお手伝いもさせて頂きたいと思います。」


 王城魔法使い長としてカリアンさんに賛成して貰えたのは収穫です。


 が、実はもう一つ問題が残っているんでしたね。

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