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「という訳で、レイナードは記憶喪失と軍医に診断されたそうだ。」


 従者が出て行った後、殴る蹴るされた形跡を残して倒れていたレイナードを診断した軍医がそう隊長に告げたという説明がオンサーさんからされました。


 来客室は簡素な四角いテーブル一つに椅子4つなので、従者の隣にオンサーさんが、その向かいにケインズさんと座る事になりました。


「レイナード様! やはり貴方には私が付いていなければ!」


 感極まったように目元を潤ませる従者が身を乗り出して来ますが。


 正直に、ごめんなさいです。


 ちょっと身が引けます。


 貴方が付いてなくても、生きていけますよ?


「10年もお側を離れずお仕えして参りました私が、7日もお側に居なかったんです。さぞかしご苦労された事でしょう? 今のお疲れのご様子を見ても察して余りあります!」


 いや、それ程でも。


 と返そうかと思いましたが、従者、1人で話し続けます。


「分かってるんです。レイナード様がちくりちくりと突き刺さるようなお言葉を発されたのも、こんな野蛮な騎士団に問答無用で放り込まれた不安を紛わす為だった事くらい。」


 しみじみと語り続けますが、いつ水を差してやろうか考えてしまいます。


 この従者、レイナードをダメ男予備軍に追い込んだ張本人の内の1人で間違いないですね。


 何ならそうなるように洗脳してませんかってレベルで、ヤバい頭の中をしていそうです。


「全ては、それを見抜けずに去ろうとした私の責任です!」


 いや、去ったからね、君。


 思わず心の中で突っ込んじゃいましたね。


「ですから。・・・もう安心してください! 貴方の従者ハイドナーが戻ったからには、もう不自由な思いなどさせませんから!」


 高らかに言い切ってくれた従者ハイドナーですが、ツッコミどころ満載ですね。


 新手の詐欺師か、怪しげな新興宗教の勧誘員とかいけちゃうんじゃないですか?


 才能有りそうですよこの人。


「うーん。特に要らないかな? 自分で何とでも出来るし、不自由もしてないし。」


 つい抉るような冷たい言葉になってしまったのも、仕方がないと思うんですよ。


 だって、さっきから寒気と鳥肌凄いですから。


「な、何を仰るのですか! 騎士団の皆様にこれ以上ご迷惑をお掛けする訳にも! それくらいなら、私がレイナード様の暴言に耐えれば良いんです!」


「あー、良いからそういうの。」


 つい面倒臭くなって遮ってしまいました。


「確かにホントに何も覚えてないからさ。ケインズさんとかケインズさんとか隊長さんとかオンサーさんも? には迷惑掛けてるかもしれないけどな。」


 ケインズさんが2回出て来るのは、やっぱりそこは他の方よりずっとお世話になってるからですよ。


「そういうのって、回り回ってお互い様になるように俺がこれから頑張れば良い事だろ? お前も良い加減俺から離れて新しい生き方探した方が良いぞ。」


 最後は優しい口調になって諭してあげました。


 が、ハイドナーの口があんぐりと開いたままです。


 やけに静かだと思ったら、オンサーさんやケインズさんも引きつった顔のまま固まってます。


「レ、レイナード様!」


 ハイドナーが漸く衝撃から戻って来たのか、椅子を蹴って立ち上がると、身を乗り出して額に手を当てて来ます。


「お、お熱でも? お夕食に悪い物でも召し上がったのでは? そうでなければ軍医殿に余命宣告でも受けられたのでは?」


 段々涙声になっていくハイドナーが、ちょっとウザいかもしれません。


「うるさいよハイドナー。とにかく、今月分の君の給料は払うし、住むところがないなら従者部屋に居ても良いけど。早く次の就職先見付けて出て行きなよ。」


 大分温度の下がった口調で言ってから、オンサーさんに目を向けます。


「オンサーさん。従者の一月分の給料って、騎士の月給で賄えますか?」


 レイナードの所持金事情は良く分かりませんが、部屋に貴重品を仕舞う鍵付き机がある事は知ってます。


 果たして、その中身で今月分のハイドナーのお給料払えるでしょうか。


「まあ、騎士の月給と従者のとじゃ天地だからな。でも、お前絶対金遣い荒い、いや、荒かったからな。そんな約束して大丈夫なのか?」


 成る程、それは一理有りですね。


「あのぉ。そもそも貨幣価値が分からないんですけど。・・・不味いですよね?」


 引きつり気味に返すと、オンサーさんが唸りながら腕を組みました。


「じゃあな。その従者を今月雇ってる間に、お前が忘れちまった一般常識を教えて貰うってのでどうだ? それなら、従者も給料貰う事に心苦しくないだろ?」


 オンサーさんが頼もしい兄貴分に見えてきました。


 流石の折衝案です。


「どうする? それで良いか? 給料については、俺の次の給料が出るまで待って貰うか、前借りとか頼めるのかな?」


 ハイドナーに答えを促しつつ、頭を捻ります。


「あーでも。前借りって信用問題だよな? まあ、レイナードでは無理ですね、ハイ。」


 勝手に自己完結していると、ケインズさんに何とも言えないじっとりした目を向けられました。


「お前、金くらい実家から幾らでも都合して貰えるんじゃないのか? 前のお前は散々そんな事を言い散らしてたのに。何なんだお前。」


 あれ、ケインズさんがまた地雷にハマり掛けてますよ。


 面倒見の良い性格までイケメンキャラが、暗い顔は止めましょう!


「勘当された実家は頼りませんよ、今後一切。俺はこの騎士団で独り立ちして身を立てるって決めましたんで。」


 ドヤ顔で宣言してみせましたが、皆様苦笑いです。


「おー何かカッコいいこと言ってんな。まあ、今のお前ならやれるかもな。」


 それでも優しい目になってるオンサーさんは、大きい兄貴分に決定です。


「調子に乗るなよ。今のお前のそこが悪いところだ。」


 ぶすっとしてますが、それでも見捨てない素敵なケインズ兄が不動の一番ですけどね。


「あの〜。レイナード様は別に勘当された訳ではありませんよ? 半年は家に足を踏み入れるなと言い渡されてらっしゃるだけで。」


 そんな予備情報は要りませんが、まあこの従者に一般常識とレイナードを取り巻く事情をそれとなく教えて貰うのは有効な手ですね。


 ただし、中身がレイナードじゃないことに、この従者、気付いちゃうんじゃないでしょうか。


 そうなった時にどうするか、考えといた方が良いですね。

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