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 エダンミールの第三王子サヴィスティンと名乗った彼が謁見の間に伴って来たのは、護衛の騎士が数名と数人の魔法使いのようでした。


 この度の災難についてのお見舞いの言葉と日頃より付き合いの深い隣の国家同士、是非助け合って行きたいと手堅く話しを進めてきます。


 まずはということで、連れて来た援助部隊40名を早速市街の魔物討伐や救助活動に参加させたいとのことでした。


「では、第三騎士団に援助頂くという形で、ご案内致しましょう。」


 ルーディック団長の言葉を受けてサヴィスティン王子が連れて来た護衛騎士の1人に頷き掛けました。


 サヴィスティン王子はこれには参加せずその護衛騎士に指揮を任せるということのようです。


 ルーディック団長にその騎士だけが付いて退席していきました。


 それを見送って、国王が隣に視線を向けました。


「それとは別に、シルヴェインは第二騎士団ナイザリークの措置を撤回し、即時出動の指揮をとるように。」


 それにシルヴェイン王子が頷き返しますが、直後にこちらに案じるような目を向けて来ました。


 仕方のないこととはいえ、確かにシルヴェイン王子がこの場を離れるのは少しだけ心細いような気もします。


 が、そこは頑張って微笑んで小さく手を振っておきます。


 それに眉を下げるような顔をしてからシルヴェイン王子は王太子に一言何か耳打ちして、直ぐに謁見の間を辞して行きました。


 その一連の動きが落ち着いたところで、サヴィスティン王子は改まったように国王に再び目を向けました。


「今回の騒動の主原因は、守護の要の働きに不都合が出たからだと伺っております。さぞかしお困りのことかと思い、我が国からの援助の一つとして腕利きの魔法使いを連れて参りました。彼らを是非ご活用頂ければと存じます。」


 彼の訪問の本題はこれだ。


 完璧に好意での申し出を演出して笑顔で締め括ったサヴィスティン王子ですが、白けた顔をしなかった王族の皆様尊敬します。


 何も知らない貴族達は、小さな歓声を上げていますね。


「それは大変有り難い申し出だが、実はこちらも対処方法は固まり掛けているのだ。」


 答えた国王は、王弟殿下とカリアンさんに視線を送りました。


 すっと前に出て来たのは王城魔法使い長のカリアンさんです。


「エダンミールの王子殿下には、お心遣い大変感謝致します。ですが、守護の要は現在非常に面倒な状況に陥っておりまして、慎重に一つずつ処置を進めていかなければならない状況なのです。正直に申し上げて、我ら魔法使いだけの手では対処出来ず、強力な聖なる魔法を扱える方に協力を取り付けてあるのです。」


「それは、非常に危うい状況だ。聖なる魔法は、一つ一つに非常に大きな魔力を必要とし、その使い手は限られている。王太子殿下の婚約者殿だろうか?」


 この白々しいやり取り、飽きないんでしょうか。


「さて、それは国家機密にも関わることですので。」


 そこでにこりと微笑むカリアンさん、ちょっとカッコいいですね。


「それは踏み込み過ぎたようで申し訳ない。が、聖なる魔法での修復は、非常に効率の悪い手段だ。それに、時間が掛かり過ぎる。それくらいならば、前の装置は捨てて新しい機構を構築した方が余程早く復旧出来る筈ですよ?」


 親切心を装った罠が張られ始めてますね。


「成る程、それは大変興味深いお話ですが、こちらも守護の要の構造を詳細解析した上で、無駄なく修復する方法を模索しているようなのですよ。」


 言ってカリアンさんがこちらに丸投げ体制のにっこり笑顔を向けて来ました。


 確かに、そんな説明はしましたが、もう少し粘ってあちらの手の内を引き出して欲しかった気もします。


 とはいえ、仕方がないので、キースカルク侯爵の横を通って前に進み出ます。


「国王陛下、帰還の挨拶が遅れましたこと、申し訳ございませんでした。」


 敢えてフードは取らずに礼を取ります。


「ふむ。レイカルディナ、よく戻った。顔を見せてはくれぬのか?」


 そんな柔らかな対応をしてくれた国王ですが、シルヴェイン王子をこの場から退場させた今、レイカに対する対外的な扱いは決まったということのようです。


「はい。諸事情で元通りとはいかず、他の皆様を驚かせてしまうかと自粛しておりました。陛下も驚かないで下さいませ。」


 そう返してから、ハラリとフードを後ろに落としました。


 途端に息を呑むような声が謁見の間に広がりました。


「ふむ。確かに、これは少々驚くな。元のそなたの髪色か? 元のそなたはレイナードよりも年下だったのではあるまいか?」


「髪は、元のわたくしのものを引っ張ることになったようですが、年齢はレイナードさんよりも上で、とうに成人しておりますのでご心配には及びません。マユリ様をご覧になれば分かるように、元の国は実年齢よりも外見が少しだけ幼く見えることもある国民性のようです。」


 そんな無難な会話を物凄く作った言葉で交わすのは中々疲れます。


「そうか。であれば問題は無さそうだな。もう少し落ち着いてから発表する予定ではあったが、そなたに与える役目を思うと、それに相応しい地位を与えてそなたの守りとする方が良さそうだ。」


 そんな前置きをした国王には、もう内心冷や汗しか出ませんが、今更尻込みする訳にもいきません。


 サヴィスティン王子から入りそうな横やりを振り払う為の権力を急いで与えようとしてくれているのでしょうから。


「皆の者、そしてエダンミールのサヴィスティン王子にもこのめでたい発表に付き合って頂こう。本日この場をもって、このレイカルディナを我が養女とし、王女の地位を与えるものとする。但し、レイカルディナは元より王家の血筋ではない。故に、継承権は持たぬ名誉王女の位を与えたと心得よ。その他の王族特権は基本的に行使出来るものとするが、詳細は王弟ログハーンと調整することとする。」


 この宣言には頭を下げて応えますが、躊躇うようなざわ付きの中から啜り泣く声が混ざって聞こえて来ます。


 チラッと振り返った先に、王弟殿下の側でハンカチを握り締めて涙ぐんでいる父と兄の姿が見えました。


 ランバスティス伯爵家の皆さんには、色々気遣って貰ったり温かく迎えて貰ったのに恩返し出来ないままにこんなことになってしまって申し訳ない気持ちにもなりますね。


 後できちんとご挨拶に行こうと思います。


 そもそも帰って来たコルステアくんにブチ切れられそうな予感がしますしね。


 それはさて置き、手招く国王に応えて近付いてからくるりと振り返ると、ここからは予定していたプレゼンのお時間ですね。


「それでは、王女の位を拝命しましたわたくしレイカルディナより、守護の要修復計画について皆様に説明致します。」


 視線は真っ直ぐ前に、しっかりした口調で大きめの声を心掛けます。


「まずはそもそもの守護の要の構造について、書物にあった記述を元に簡単に再現してみました。こちらをご覧下さい。」


 言って、ローブの内側から工作しておいた紙を取り出します。


 手の平を上向けて扇風機の微風くらいを心掛けた風魔法で紙を浮き上がらせます。


 切り貼りした紙が膨らんで空中で立体になると、謁見の間におおっと声が上がりました。

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