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「昨日、第三騎士団が突入制圧した王都北部のとある施設から、少々奇妙な惨殺遺体が幾つも見付かりました。」


 これまた淡々と報告を始めたモルデンさんですが、その眼光はギラリと鋭く、奥に煮えたぎった何かを秘めているようです。


「第三騎士団からは、数え切れない程夥しい数の惨殺死体が積まれており、それが捧げられた様子の奇妙な魔法陣のようなものがあると連絡が来て、調査に赴きました。」


 これは、思いの外早く例の北の施設が見付かったようですね。


 そしてこの報告にも謁見の間がまたザワっとします。


「この施設についての詳しい調査につきましてはまた後程ご報告申し上げることとして。その遺体の中に、奇妙な魔力の残り方をしているものがあったのです。」


 慎重に話を進めて行くモルデンさんは、チラッとミルチミットに鋭い目を向けたようです。


「通常人が死ぬと所有魔力は心臓に宿っているものを残して消失するものですが、一部の遺体が死後数時間から数日経っているように見えるにも関わらず、側に置かれた遺体の魔石化した心臓から自らの心臓に魔力を取り込み続けているものが存在しました。その心臓は、生命維持には使われていませんでしたが、魔石化が進んでいませんでした。これはまだ調査中ですので、また後日追加報告致します。」


 これは、どう取っていいのか分からない微妙な報告でした。


「さて、そのような遺体が見付かったことで、私も別途受け取っていた報告の信憑性を信じる気持ちになりました。こちらもご報告申し上げておきましょう。」


 どうやら、先程の衝撃的な報告は前振りに過ぎなかったようです。


「とある使命を与えられて王都を出ております王城魔法使いの1人が、これまでの常識を覆す存在の報告を上げてきました。彼がその存在と出会ったのは、王都を出た旅路で偶然だったそうです。」


 本当にコルステアくん、良い仕事してくれましたね。


 帰って来たら頭を撫でくりめちゃくちゃ労わってあげようと思います。


 そこから始まった報告には謁見の間がそれまで以上に騒つくことになりました。


 他者の魔力を取り込みそれを魔法として発動させることが出来る存在。


 モルデンさんは、魔物や魔人にそういう能力を持つものが存在するという話しを前提として、それをモデルに人を人体実験して改造した可能性を報告してくれました。


 その実例が近々王都に連れて来られることと、本人が魔法使いに語った証言なども話されます。


 チラッと覗ったミルチミットは、驚きに目を見開いたフリをしていましたが、悪化した顔色と額から滲む冷や汗は隠し切れていませんね。


 と、ここで国王の隣に座っていた王太子が立ち上がってシルヴェイン王子の方へ向かって来ます。


 そのまま国王の前に膝をついていたシルヴェイン王子に手を貸して立ち上がらせました。


「つまり、今王都で起こっている諸々の事件は、王都に混乱を齎し、その責を私の弟シルヴェインに擦りつけ陥れようと画策した何者かが後ろにいるという訳だな? これは我が王家、国家に仇為す行為だ。私は王太子として、この事件の裏にいる者達を徹底的に調べ上げ処罰することを誓う! それにシルヴェイン、王城魔法使い達、騎士団の者達、一丸となって取り組んでいきたい。力を貸してくれるな?」


 ここでパフォーマンスをぶち上げて来た王太子ですが、これは昨晩の発言から想定出来る仕込みの一部ですね。


 流れるような動作で王太子の前で改めて膝をついて礼を取ったシルヴェイン王子の姿を見て謁見の間が鎮まり返ります。


「兄上、いえ王太子殿下に感謝と共に忠誠を。これよりは私に持てる全てをこの国と陛下、そして未来を担う王太子殿下に捧げます。」


 厳かな誓いに、謁見の間に満ちていた淀んだ空気が祓われたように穏やかな好意的なものに入れ替わったような気がしました。


「うむ。共に励もう。」


 そう答えて王太子がもう一度シルヴェイン王子の手を取って立ち上がらせました。


 そして、2人が振り返った先で取り残されたように佇むミルチミットは、完全に引きつった顔になっています。


「ミルチミット副王城魔法使い長、少々調査に手抜かりがあったようだな。王族に関わるこのような調査にはもう少し慎重になるように。ましてや、このような場で陛下よりの火急の下命を遮ってするようならば尚の事だ。心に留めおくように。」


 王太子からの凍れる叱責に、完全に顔色を無くしたミルチミットは深々と頭を下げて後退り掛けて、思いとどまるように足を止めました。


「で、殿下今しばらくお待ちを。まだ守護の要につきましての報告が残っております。」


 諦め悪く言い立て始めたミルチミットですが、彼にとっても崖っぷちなのかもしれません。


「そうか。続けてみせよ。」


 そう肩を竦めつつ返した王太子は、シルヴェイン王子と共に国王の横に並ぶように下がりました。


 少しだけ顔色を取り戻したミルチミットは背筋を伸ばして気を取り直したように笑みを浮かべてみせましたが、良い加減腹黒いここの王族達に踊らされていることに気付くべきだと思いますね。


 冒頭から一つの発言もせずに黙っている王弟殿下の目が獲物を狙う猛禽の目になっています。


 この一連のやり取りを後ろで糸引いているのは、間違いなく王族一腹黒い王弟殿下ですからね。


 とここで、謁見の間入り口から慌ただしく人が入って来ました。


「申し上げます! 只今、エダンミール王国より救援部隊を率いた第三王子殿下がご到着されました!」


 この測ったようなタイミングで現れたサヴィスティン王子、遂に直接対決の時が訪れましたね。


「お通しせよ。」


 国王と目を見交わした王弟殿下が初めて発言して、知らせた兵士が頭を下げてから下がっていきました。


「守護の要に関わる件で報告のある者は前列で待機するように。」


 ここからは王弟殿下始動のようですね。


 これを受けてバンフィードさんが人を掻き分けて、アルティミアさんと2人前に近付いておくことにしました。


 周囲の人達からは何者というように覗き込まれそうになりましたが、フードをしっかり引きおろしておくことにします。


 前列近くに並んでいたキースカルク侯爵の側で待機していると、別方面から近付いて来たテンフラム王子と合流出来ました。


「いよいよだな。」


 そう声を掛けてくれたテンフラム王子に少しだけ緊張で引きつった顔で頷き返します。


「はあ。絶対失敗出来ないプレゼンの前みたいですね。」


 深呼吸を繰り返していると、ぷっと笑われました。


「お前でもそんなことあるんだな? 誰にでもどんな時でも噛み付いていけるのかと思っていたが。」


「何言ってるんだか。人並みにプルプル震える小さな心臓に無理やり強心剤打って頑張ってるんですよ。いつも。」


 ぶすっと溢しておくと、またくくっと笑われました。


「はーそうか。まあ、周りにはお前を助けたくて仕方ない奴らが揃ってるみたいだからな。出番が来たらドンと行って来い。思いっ切りやって良い。」


 その力強い後押しには、根拠はなくても心強く感じてしまいますね。


 黒幕の糾弾は取り敢えず置いておくとしても、やるべきことをやる権利を勝ち取る為の戦いには全力を尽くそうと思います。


「そうですね。今日だけは自分が一番正しいって信じて邁進することにします。」


 と、ポンと頭にテンフラム王子の手が乗ってポンポンされました。

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