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 大きめな学校の体育館サイズはありそうな広々とした謁見の間が、狭苦しいと思える程にこれでもかと詰め掛けた貴族達で溢れ返っていました。


 その片隅にこそっと紛れ込んで、アルティミアさんとお揃いのベールを被って顔を隠しているんですが、この怪しい風体でよく無事に入り込めたものだと少しだけ呆れてしまいます。


 そこは、キースカルク侯爵と国王陛下や王族方と昨晩色々と綿密な打ち合わせがあったようなので、それを受けて警備の方にも何かしら話が回っているのかもしれませんね。


 そんな訳で開始前のざわ付きの中で所在なく待つことしばらく、漸く謁見の間に国王を始め王族方が入場して来ました。


 進行係の偉い人が前に出て話し始めると、列席者の皆さんがお喋りを止めて、謁見の間は漸く静かになります。


 その中で、前置きに続いて名前を呼ばれたシルヴェイン王子が入って来ると、また謁見の間に広がる小波のような声に晒し者感があって、少し嫌な気分になりました。


 シルヴェイン王子は拘束されている訳でもなく、後ろに数名付いて来る騎士さん達も護衛目的といった雰囲気でしたが、周りからのざわ付きは好意的ではない様子です。


 国王の前に跪いたシルヴェイン王子と国王の間で何か言葉のやり取りがあって、その2人の視線を受けた進行係が本日のお題目について巻き紙を掲げて読み上げ始めました。


 今現在王都で起こっている不測の事態に対する調査結果の発表とその裏取りの為としていますが、これに参加の殆どの人達がこれからシルヴェイン王子吊し上げの会だと思っている様子が窺えます。


 進行係も王族や前列の重鎮達もシルヴェイン王子を非難するような空気感はないのですが、これは事前の根回しや情報操作が行われた結果なのでしょう。


 ですが、その中でも国王の方を真っ直ぐ向いているシルヴェイン王子の背中は堂々としていて隙のない様子です。


「では、王都の現状について、第三騎士団ルーディック団長からご報告頂きます。」


 進行係の呼び掛けに従って前に出て来たルーディック団長が、国王に向かって一礼してから早速報告を始めました。


 まずは王都で起こり始めた魔物の出現、広がり始めた原因不明の体調不良や病に呪詛が関わっていること、そして先日王太子とその婚約者マユリさんが阻止した守護の要の破壊工作の件。


 その守護の要が半壊したことにより、王都の中に入り込んで来た魔物の被害について。


 ルーディック団長は最後にシルヴェイン王子に目を向けて、第二騎士団の出動と協力体制を取りたいことを切望していると締め括りました。


 それに頷き返した国王もシルヴェイン王子に目を向けました。


 とそこで、それを受けての国王の発言を遮るように声が上がりました。


「お待ち下さい! 第二騎士団が出動を差し止められていた経緯と、シルヴェイン王子殿下の不在、魔力痕跡について、改めてご報告させて頂きたい!」


 国王の発言を遮っておきながら、続く言葉はこの謁見の間に集まった皆様に対して発されたもののようです。


 因みに、姿を確かめる間でもなく、これはミルチミットの声ですね。


「王城魔法使いか。申してみよ。」


 鷹揚に頷いた国王ですが、昨日の王太子の話しによると、シルヴェイン王子への疑惑はすっかり晴れているようなので、このままミルチミットを泳がせておきつつ黙らせるか逆に捕えるシナリオに突入したのかもしれません。


 いずれにしろ、こちらとしてはこの場でミルチミットを押し退けて主導権を握る必要があるので、ここからが始まりと気持ちを引き締めて行きますよ。


 と、両隣を挟むように立っているアルティミアさんとバンフィードさんがこちらを見て頷き掛けてくれました。


 さり気なく人の間に入ってスペースを空けてくれたバンフィードさんは、何かあれば前に出る手助けもしてくれるでしょう。


「第三騎士団長からの報告にもあった事件の裏には、何某かの組織の関与と後援者の影が見えておりました。そこで、捜索されたその組織のアジトと思しき場所にて、我々王城魔法使いが魔力痕跡の調査を行った結果、複数のそういったアジトに、シルヴェイン第二王子殿下の魔力痕跡が残っていることが確認出来ました。」


 深刻そうな顔でそう締め括ったミルチミットは、そこからシルヴェイン王子の方へ向き直って糾弾するような強い瞳を向けています。


「これが如何なる理由によるものか、シルヴェイン王子殿下にはこの場でご説明頂くべきでございましょう!」


 ざわ付き出した謁見の間の人々を煽るように強い口調になったミルチミットは、中々の役者かもしれません。


 が、真相を把握している上の皆様は、ここで逆にミルチミットの言質でも取るつもりかまだ黙りを決め込むようです。


「なるほど、ではシルヴェイン、それについて弁明してみせよ。」


 国王から良く通る声で温度のない台詞が降って来ました。


 こういうところ、弟殿下とそっくりですね。


「は。それでは、私が第二騎士団ナイザリークを率いて魔物討伐遠征に向かい、目的地を前にして件の魔物から襲撃を受けたところから、ご説明致します。」


 そうシルヴェイン王子も平然とした口調で話し始めました。


 援助要請のあった魔物討伐の為に向かった街の手前で討伐予定だった魔物の襲撃に遭ったこと。


 そして、討伐闘争中に戦線離脱を余儀無くされたところで、何者かに襲われて気が付くと、何処とも知らぬ場所で拘束されて魔力を枯渇寸前まで繰り返し搾り取られていたこと。


 その所為で、囚われていた間は殆ど意識が無かったことをシルヴェイン王子は淡々と報告しました。


「殿下、お気持ちは分かりますが、ここは正直にお認めになった方が宜しいかと。」


 と、ミルチミットが眉下がりの気の毒そうな顔を装ってそんな台詞を吐き散らしているのには、思わず鼻で笑ってしまいそうになりました。


「殿下の魔力痕跡が見付かったのは、アジトだけではないのです。魔法犯罪の現場でいくつも確認出来ているのですよ?」


 これまた猫撫で声に近い優しそうを装った口調でミルチミットは続けます。


 これには、謁見の間に潜めたようなざわ付きが広がりました。


「搾り取られた魔力が犯罪に使われたというのは、時折意識が浮上した時に、私を捕らえていた者達の会話の中から聞き取っている。それについては大変遺憾に思う。」


 そう答えるしかないシルヴェイン王子が可哀想で、思わず拳を握ってしまいました。


 それを、隣からそっと宥めるように握って来るバンフィードさん、アルティミアさんの隣でそういうの止めて欲しいです。


「それは、随分と都合の良い言い訳では? 失礼ながら殿下、他人の魔力を他者が扱うことは出来ません。万が一、殿下の魔力を搾り取る方法があったとしても、殿下以外の者が犯罪に転用することなど出来なかった筈なのです。」


 自信満々に正論を吐き散らしてくれるミルチミットに、今直ぐ鉄槌を下してやりたくなりましたが、ここで昨日もお会いしたコルステアくんの上司モルデンさんが前に出て来ました。


「陛下、私の方からもご報告が、ここで宜しいでしょうか?」


 礼儀正しく国王に許可を取るモルデンさんに、ミルチミットが眉を寄せて不快気な顔を覗かせました。


「良い。申してみよ。」


 国王もそれに淡々と許可を出していて、これは本日の仕込みがここから活かされ始めるということでしょう。


 お手並み拝見といきましょうか。

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