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 守護の要の扉の前では、王太子達と王城魔法使い2人が中をチラチラ覗き見しながら何か相談をしているようでした。


「兄上、カリアン。お待たせしました。」


 そんな言葉と共に、先程までとは顔付きの違うシルヴェイン王子が話しに入って行きます。


「シルヴェイン、話しはついたのか?」


「ええ、まあ。お互いの気持ちとしては問題なさそうです。が、後日私の方から仕切り直すことにしました。」


 そんな話が展開されている間に、王太子達が来た辺りから姿を消していたノワにこそっと声を掛けてみます。


「で? ノワのことは取り敢えず黙っとくの?」


 その呟きに肩の辺りに小さな重みが来ます。


『その方が得策でしょう? 私も何処かの国家権力に良いように利用されるのは本位ではありませんから。私はあくまでも我が君個人だけのアドバイザーを目指してますから。』


「へぇ、アドバイザーだったんだ。」


 半眼で返してみると、チラッと肩を竦めたノワが見えた気がしました。


『良いですか我が君、極力魔法は魔法使いと王子様にお願いして、我が君はそれで何かおかしな動きがないか目を光らせておいて下さい。あのメンバーでは解呪だけは我が君にしか出来ませんし、上手く誘導すれば魔力温存が出来る筈です。』


「・・・ねぇ、何か心配ごとでもある? それって、余力を残しておくようにってことでしょう?」


 ノワが先程よりも慎重で警戒した様子なのが気になります。


『確実ではありませんが、あちらも我が君が無理をおせばこの仕掛けを解除出来ると気付いている筈です。何か他にも用意されている可能性が捨て切れないでしょう?』


 そう返して来たノワですが、本当はその他の何かに当たりが付いているんじゃないかと勘繰ってしまいますね。


「分かった。気を付けるね。」


 ここでノワを疑ったところで始まらないので、流すことにして、扉からもう一度中を覗きに行ってみます。


「レイカ、それで? 具体的な見立てと対策を説明してくれ。」


 シルヴェイン王子にそう声を掛けられて、振り返ろうとしたところで、視線の端に不意に黒い呪詛の帯が寄り集まって円を描こうとしているのが見えました。


「はい? ちょっと待った。悠長に殿下口説いてる場合じゃなかったかも。ノワ、一先ずあれを解呪。完成させちゃマズイでしょ?」


『我が君・・・あれは数が多過ぎます。私が手を貸しても我が君の残り魔力だけでは完全解呪は出来ませんよ。』


 何処か苦しいような口調になったノワに、こちらも口の中が苦くなります。


「コルちゃんとジャックの助けがあっても?」


『・・・ええ。これがあちらの狙いだったようですね。守護の要の修復かあの呪詛の解呪か。明日、我が君の目論み通り王都の人々の祈りの力が借りられたとしても、出来るのはどちらかでしょう。』


 思わずギュッと拳を握り締めてしまいます。


「究極の選択をさせるつもりだった? 確かに、良い時間稼ぎよね?あっちにとっては。」


「レイカ?」


 シルヴェイン王子が訝しげにこちらを覗き込んで来ます。


「殿下、守護の要の周りに新しい呪詛が展開され始めてるみたいで。多分、ネズミ魔物さん達にかけられてた呪詛の二次展開なんじゃないかと。」


「・・・どんな効果の呪詛か分かるか?」


 言われて頷き返すと、組み上がって円を描き出した呪詛の帯に目を凝らします。


 ろくなものではないだろうと予想出来るのですが、呪詛の最終目標は最後まで全貌が描き出されるまで分からないので、今描かれているものから予測するしかありません。


 もしくは、初めの指令が描かれた起点まで解呪して読み取るしかないのですが、その解呪が不可能なら、やはり予測を立てるしかありません。


「一つだけ言えるのは、あちらは早々に私の聖なる魔法を封じる対策を立てて来たってことでしょうね。」


 言いながら凝らした先で、ネズミ魔物の個体から立ち昇るように絶え間無く出て来る呪詛の帯が寄り集まりながら、少しずつ魔法陣のような円を作っていきます。


 その随所に病の元の効果の増大と拡散を盛り込もうとしている文字が出来上がっていっているように見えます。


「ノワ。今直ぐネズミ魔物さん達を駆除しても呪詛が止まるとは限らないよね? しかも、病原体はもう出来上がってるし。病原体の死滅条件を満たす駆逐方法を取らないと無意味だよね?」


『・・・ええ。そうなるでしょうね。一か八か、進行を一時停止出来るかもしれない方法はありますが。』


 歯切れ悪く返して来たノワの言葉に、それがベストな方法ではないのだろうと予想が付きます。


『氷結魔法で、魔物と病原体を凍らせます。この建屋ごと氷結させれば、今ならば一時停止出来るかもしれません。』


 苦いノワの口調にこちらも苦い顔になって頷き返してしまいました。


「凍らせても、病原体は死なないよね。しかも溶けた時に、危険極まりない水分が発生するしね。本当に一時凌ぎにしかならない上に、当然守護の要に近付くことも手を加えることも出来なくなるし。」


 頭を抱えたくなってきました。


「レイカ?」


 シルヴェイン王子が隣まで来て顔を覗き込んで来ます。


「電子顕微鏡と公衆衛生のプロフェッショナルを召喚したいんですけど!」


「は?」


『そんなことしてる間に王都中に拡散して人口の半分くらいは簡単に死に絶えますよ?』


 意味が分からなかったシルヴェイン王子の反問と、ノワの冷たい突っ込みに、泣きたくなってきます。


「あ〜もう! 本当に嫌になる。」


 溢してから頭を軽く振ると、しっかり後ろを振り返って、こちらに険しい視線を向けている王太子に目を向けました。


「王太子殿下、決断して下さい。今からこの守護の要の建屋ごと氷漬けにして封鎖します。それしか今のところ、病原体の拡散を防ぐ方法がありません。」


「何だと? 一から説明を求める。」


 険しい顔の王太子からは当然の問いが返って来ました。


「守護の要の周りをネズミ魔物達が取り囲んでいて、その魔物達は呪詛で病に感染しています。それを今、強化拡散する呪詛が二次展開されています。これが完成すると、人がバタバタ死ぬような病の元が凡ゆる方法で王都に拡がることになると思います。」


「・・・待て。それを証明する方法は? 我々には何も見えないが?」


 そこなんですよね。


「うーん。マユリさんは、呪詛見えない?」


 とここで王太子から信用されているマユリさんを巻き込んでみようと思います。


「え? ごめんなさい。私、この間守護の要にかけられていた呪詛を祓ってから、魔力も回復してないし、よく分からないのよ。」


 それは不安そうに返して来たマユリさんに、こちらも眉を寄せてしまいます。


「あれ? それじゃ、マユリさんはどうして守護の要に呪詛が仕掛けられているって分かったの?」


 そもそもそれが疑問になって来ますね。


「聞いてしまったの。それから、何というか、嫌な感じがするでしょう?」


 成る程、転移した時の交渉でマユリさんは感知系の能力を要求しなかったから、感覚でしか呪詛が分からなかったのでしょう。


 そして、マユリさんの役割を果たす為にはそれで十分だったという訳ですね。


「今は? あの扉の向こう。嫌な感じがしない?」


「ええ。少し? でも、魔力が無くなってから、そういう感覚も弱くなってしまって。」


 眉下がりに言うマユリさんを、王太子が気遣わしげに抱き寄せます。


「マユリを責めるな。であれば、神殿に誰か呪詛を感知出来る者を呼びに行かせればいいだろう。」


「そーですね。その間に呪詛が完成しないといーですね。」


 平坦に言い捨てると、王太子が不快そうに眉を寄せました。

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