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「リーベン副隊長、お疲れ様です。」


 守護の要の収められた敷地の前庭に入って行くと、警備の騎士さん達がリーベンさんに次々声を掛けて来ますが、そのリーベンさんの後ろに続くフードで顔を隠したこちら2人を目にすると、怪訝そうな顔をされます。


「副隊長、こちらは?」


 昼間とは服装を変えていますが、なるべく目立たないように黙っていようと思います。


「ああ、中に問題がないか一度確認してみる予定だ。」


 微妙に答えではない返事が返って来たことに、騎士さん達は戸惑い顔になっているようです。


「ですが、何があっても扉を開かず誰も中に入れるなという通達ではありませんでしたか?」


 それでも戸惑いがちに食い下がる騎士さん、きちんとお仕事していて偉いです。


「恐らく明日には事態が動く。だからこそ現時点で変わりがないかを確認することになった。」


 嘘ではないギリギリを攻めるリーベンさんにはヒヤッとさせられますが、これで騎士さん達は諦めて通してくれました。


 どちらにせよ、後の責任問題などを考えると、ここで何事も起こさないようにするのが一番です。


 厳重に施錠されていた扉の鍵を警護の騎士さん達が一つずつ全て開けていくのには、それなりの時間が掛かります。


 それを大人しく見守っていましたが、その間中、チラチラとこちらを気にする騎士さん達の視線を感じました。


「解錠完了しました。本当に開けて構いませんか?」


 何ヶ所もある鍵を全て開け終えて、振り返った騎士さんがリーベンさんとチラッとこちらを気にしながら再度問い掛けて来ます。


「構わない。全て私が責任を取る。」


 そんな男前発言をしてくれたリーベンさんですが、なかなか強引に押し切りましたね。


 後で何も問題にならないと良いんですがとちょっと緊張して来ました。


 ゆっくりと騎士さん2人掛かりで開いた扉の向こうには、幅広の下り階段があり、目を上げて遠く見透かした先のだだっ広い空間の中心辺りに、迫り上がった台座のようなものがあります。


 扉の前から離れた騎士さん達と入れ替わりに前に出ると、20段程下がった先の床面に薄ぼんやりと光る魔法陣が描かれているのが見えました。


 と、扉の前に立った途端、モワンと中で籠っていた臭いが漂って来ました。


 何かが腐ったような刺激臭とも腐敗臭とも言えるようなとにかく顔を顰めたくなるような臭いです。


 臭いを吸い込まないように息を止めて覗き込んだ屋内で、台座を囲むように何か黒いものが無数に動いているのが目に入りました。


『我が君下がって!』


 慌てたノワの声を聞いたのと同時に、凝らした目の先に煙のようなものが透けて見えて、更に目を凝らすとそれが極小で表示されたバイオハザードマークみたいなものが見え始めました。


 確かに見たいと望んで浮かび上がって来たものですが、もう少しこう頑張って変換表示して欲しかったですね。


 集合体恐怖症じゃなくて本当に良かったです。


 とはいえ、これは絶対ヤバいやつですね。


「下がって下さい!!」


 後ろを向いて叫んでから、自分もフードを引っ張って口元に当てました。


 マスクとはいかなくともないよりマシでしょう。


「どうしました?」


 驚いたように目を瞬かせるバンフィードさんのフードも引っ張って口元に当ててあげます。


「中の空気、吸い込まないで下さい。」


「どういうことです?」


 リーベンさんが険しい顔になって問い掛けて来ます。


「中に、病原体の宿主がワラワラいらっしゃるみたいですね。」


 その答えにリーベンさんの顔が流石に引きつりました。


「は? 何故?」


 それはこちらが聞きたい事、という訳でもう一度目を凝らした先で、その宿主さん達がネズミだと分かりました。


 ただ、サイズが小型犬くらいあるので、魔物の一種でしょうか。


 そしてそのネズミ魔物さん達には呪詛の帯が絡まっています。


「ネズミさんだから地下とかから侵入したんじゃないですか? まあ、呪詛を掛けられてるみたいなので、ここまで呼び集められたんじゃないかと思いますけど。」


 正確に解説しておくと、リーベンさんがそれは苦い顔になりました。


「知らずに明日ここを開けて入っていたら、そいつらは溜まってるネズミにやられて流行り病でも発症するというわけですか?」


「恐らくは?」


 というかこれは、こちらのフライングを防ぐ為の暫定措置で、自分達が先に踏み込めたら駆除か無効化する手段でもあったのかもしれません。


「このままそっと扉を閉めて明日朝一で討伐隊を派遣するか、今静かに完璧に片付けられる手段があれば採用しますが?」


 その問い掛けにチラッとノワに目をやってから首を振ります。


「今何とかしといた方が良いと思います。守護の要に呪詛が仕掛けられているのは間違いなさそうですから。致命的な何かが起こる前に、その呪詛を取り除きます。」


 言い切ってから、屋内に目を戻します。


「殺菌消毒ねぇ。度数の高い消毒効果を見込めるアルコールか塩素。うーん、構造が分からなくて生成出来ない気がする。となると、やっぱり焼き払って焼却滅菌だよね。生きてるしねぇ。動物愛護団体に訴えられちゃうかな。」


 ブツブツ溢してしまうと、ノワが溜息を吐きつつ覗き込んで来ました。


「我が君、感染症が王都に拡がってもいいんですか? あれは人にも伝染うつりますよ? 簡単にパンデミックが起こって、王都は機能停止なんて事にも普通になりかねませんよ?」


 ノワの言うことも尤もです。


「分かってるんだけどね。養鶏場だってインフルになったら纏めて殺処分だもんね。公衆衛生そういうものだよね? でも、呪詛の力で意図的に仕組まれて、その犠牲になるネズミ魔物ちゃん達は可哀想だよね。」


 そういう感傷に浸るって感情は、人にとっては大事なことだと思います。


「さて、それはそれとして。始めようか。」


 気持ちを切り替えてリーベンさんとバンフィードさんを振り返ります。


「これから守護の要に防御結界を張って、ネズミ魔物達を焼き払います。」


「貴女が、ですかな?」


「他に遠隔魔法でここから焼き払ってくれる人がいるならお願いしたいですけど?」


 リーベンさんの苦い顔で、該当者はいなさそうだと分かりました。


「レイ様は魔力のほうは大丈夫なんですか?」


 バンフィードさんに気遣わしげに声を掛けられます。


 確かに今日は魔物退治に解呪にと普段より魔力消費は多めです。


「我が君、防御結界を張って中に飛び込んで、一か八か古代魔法陣の上で古代魔法で焼き払うのは?」


 魔力消費を抑える為にそんな提案なのでしょう。


「うーん。今、テン様いらっしゃらないし。それはちょっと不安、かも。でも、そんなこと言ってられないよね。」


 何か一番優先で効率的かと考えてしまいますが、やはり一番は守護の要に掛けられている魔物誘引だと思われる呪詛の解呪でしょう。


 それから、病原体の駆除。


 それを、こちらの身と守護の要を守りつつ、そして建屋も現状維持がベストとして、今それなりに魔力も消耗している状態でどこまで出来るのかですね。


「防護服装着して完全防御結界張って踏み込んで、古代魔法陣を起動させてネズミさん達の解呪をする。それから、守護の要自体に掛けられた呪詛の解呪。これが最低限。」


 そこから呪詛は解呪されても病原体をお持ちのネズミさん達の駆除をどうするかですね。


「古代魔法を使って守護の要と建屋の防御を施してから焼き払う、か。」


 なかなか大変な作業だと思います。


 少なくとも一緒に中に入ってくれる協力者が欲しいところですね。


「・・・色々突っ込みたいところはありますが、そもそも防護服は何処で入手するんです?」


 そのごもっともなノワのツッコミに、乾いた笑いが浮かびました。

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