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 入浴と着替えの間は客間で待っていたコルちゃんと、またいつの間にか姿を消していたジャックでしたが、晩餐や話し合いの間は客間に用意したご飯を食べて大人しく帰りを待ってくれていたようです。


 その間に客間に出入りした使用人さん達は、2匹を見て始めギョッとしたそうですが、驚く程大人しい2匹の様子に手早くそっと用事を済ませて部屋を出てくれたのだそうです。


 そんな話しを聞きつつ2匹を客間から引き取って、用意して貰った寝室に引き上げたところで、ポンとノワが出て来ました。


「我が君。まずは神殿でのあの後のことについて報告しましょうか?」


 テンフラム王子に呪詛の起点破壊について相談に乗って貰ってから、今出来る手段をということで、幾つか解呪に有効な魔道具や装置を作って来ました。


 まず、ノワが過去にもやってみた魔法結界を真似て、呪詛の進行を抑える聖なる魔法を込めた結界を、神殿の4ヶ所に魔石を設置して張りました。


 これは、毎日神殿の神官が聖なる魔力を注ぎ、参拝者の祈りで効果を高めることが出来る仕組みをノワに手伝って貰って構築しています。


 そして起点魔法陣については、竜種の鱗の魔法破壊は被呪者も危険ということで断念することになり、魔法陣自体を破壊するもしくは無効化する方法を模索しました。


「我が君考案の魔力ペン、なかなか有効みたいですよ。使用を最小限にすれば、1本で概算7、8回程度は使用可能ですね。」


 皆で頭を捻りながら頑張って作り上げた魔道具が上手く行きそうだというのは朗報です。


 砂から生成したガラスシリンジに、魔石の粉を詰めて魔力で攪拌し、それを少し押し出して魔法陣に押し付けると、魔法陣に強制上書きしたことになり、意味を成さなくなった魔法陣が無効化するという仕掛けです。


 ただ難点は、古代魔法の使い手の魔力と魔石の粉を攪拌して装填しなければならないところでしょう。


 テンフラム王子にも手伝って貰って、取り敢えず10本程を用意して神殿に置いて来ました。


 何度か試して魔法陣の無効化は確認していますが、その後も今日の内にもう少し使ってみるということで、1本予備を置いて帰っています。


 本格的な使用は明日からですが、魔力と魔石の粉の補填がそれなりの頻度で必要になりそうです。


「神殿へ詰め掛けてる解呪希望者の内、起点魔法陣仕掛けの呪詛にかけられてる人が実際どのくらいいるのかだよね。」


「それでも、数を熟せば少しずつ減って行くはずですからね。大変なのは初めの内だけでしょう。」


 確かに、呪詛にはそもそも対価が必要なので、本来ならここまで短期間で呪詛が広がることはないのでしょう。


「そうだね。一先ず神殿にはしばらく毎日魔力補填に通うしかないね。それから、守護の要のことだよね。」


 言ってノワに目を向けると、にこりと微笑み返されました。


「そろそろ夜のお散歩の時間ですか? 勿論お付き合い致しますよ?」


 キースカルク侯爵や他の皆との打ち合わせには出て来ていなかった筈なのに、中身はしっかり把握している辺り、本当に侮れない魔人です。


「そーですねぇ。夜だしコルちゃんとジャックは、そのまま付いておいで。」


 そう声を掛けてから、さり気なく部屋に用意されていた動き易い服に手早く着替えます。


 それからバルコニーに出てこれまた偶然立て掛けられていた梯子を伝って庭に降り立ちました。


 そこへさっと差し掛けられた明かりを持つのはバンフィードさんです。


「無事に降りてこられましたね。行きますか。」


 当たり前のようにそう声を掛けてくるバンフィードさんに苦笑しながら、裏門へ周ります。


 使用人やご用聞きなどが使う裏門を出ると、予定通りの人物が馬を用意して待っていました。


「お待ちしておりましたよ。無事に出て来られたようで。」


 と何とも言えない声音で話し掛けて来たのは、第一騎士団のリーベン副隊長です。


 明かりの中に浮かび上がるリーベン副隊長は自分の馬ともう一頭の手綱を持っているようです。


「レイカ殿はバンフィードと一緒に。」


 確かに夜の乗馬は余り自信がないので、一緒に乗せて貰えると助かるかもしれません。


 静かに頷き返してからバンフィードさんに抱えるようにして馬に乗せて貰うと、リーベンさんの馬と並んで進み始めました。


「あ、そういえば一つお伝えしておきますが。第二王子殿下のお身柄も無事保護出来たところで。当面の私の務めはレイカ殿のお守りもとい護衛ということになっておりますので、悪しからず。」


「はい?」


 並走して進み始めた理由は、どうやらこれを伝える為だったようですね。


「王弟殿下からくれぐれも目を離すなと言われておりますので。」


「はい? そういう? でもリーベンさん第一騎士団の副隊長ですよね? 普通の職務は?」


 護衛というより完全に監視員ですね。


「当面は極秘任務として。後は貴女の出方次第で、正式任務にと言われておりますが?」


 そう平坦な声音で言われてしまうと、物凄くリーベンさんには不本意な役目を引き受けて貰っている気になってしまいますね。


「監視が正式任務って、私が何すると思われてるんですか?」


 こちらも信用の無さが不本意で反論してみると、リーベンさんは肩を竦めたようです。


「何をやらかすか読めないと思われているのは間違いありませんが、殿下はそれよりも本当に貴女の絶対の安全を望んでおられますよ。思い当たりませんか?」


 それは、概要だけ説明したこれからのことに直結するんでしょう。


「貴女はたった半日王都を彷徨いて魔物退治を行い、やはり半日神殿で解呪をしただけで、王都中に聖女様と呼ばれる下地を作り上げた。」


 それは確かに少しくらいそんな下地を作っておいて、明日からの本格的な守護の要修復に向けてのエダンミール側へのアドバンテージにしようと思っていました。


「その上、そんな未来を読んでいたかのように、前々からご自身の立場に対する提案を王弟殿下に堂々とあげておられたとか。それはもう、状況次第では飲むしかないと殿下も陛下もお考えのようですよ。」


「え?」


 確かに、こうなって来ると過去に何となく出してみた案が一番かもしれないとはちらっと思っていましたが。


 本当にそうなりそうとなると、微妙な気分になりますね。


「えーっと。やっぱりそういう立場って色々面倒ですよね? それは、どうしようもなくなるまで取っておく方向で、いけないですか?」


「・・・・・・今更ですか? 嫌なら大人しくしておけば違う持って行き様もあったと思いますがね。曰く黒髪の女神様もかくやという美少女が魔物から民衆を守り、呪いに苦しむ人々を慈悲の力で救ったと。もう明日以降は素顔を晒して街を歩けないとご覚悟下さい。」


 そこまで効果があったとは、やはりランバスティス伯爵家の美貌、侮れませんね。


「まあ、どの形であっても、もう王家は貴女を手放しませんよ? ですから、私が護衛に就くのは至極当然のことになる訳です。ご理解頂けましたかな? 後日貴女個人の専属護衛部隊が編成されましたら、隊員をご紹介いたしましょう。」


 いやいやいや、待って頂きたい!


「ちょ、そんな本格的に。困りますから。背中が痒過ぎです。」


「レイカ様どの辺りですか? 掻きましょうか?」


 バンフィードさん違う!!


「それで?バンフィードは、戻って来るのだろう?」


「当然です。私が一番近くに詰めさせて頂きますが、時には壁が厚い方が良いこともあるでしょうから、隊の編成も受け入れましょう。その代わり、隊長はリーベン様に譲りますから、副隊長の立場は頂きます。」


 大真面目に交わされるその会話に、寒気がして来ます。


「あの、ですね。何外堀埋めるみたいな話しが当たり前みたいに展開されてるんですか? 本当に止めて下さい。」


「・・・自業自得では?」


 冷静なバンフィードさんの声音で、一つだけ気付いたことがあります。


「今よく分かりました。リーベンさんがそれはもうご立派にバンフィードさんの直属の上司だって。お二人とも物凄くそっくり。」


 人の話しを都合良く聞き流しつつ、言いたい主張は絶対に曲げない辺りがですね。


「そうでしょうか?」


 それに2人揃って不本意そうな顔になるところとか。


 未来に不安が伸し掛かって来たところで、覚えのある美術館的な建物が見えて来ました。


「はあ。もう良いです。一旦今の話しは忘れるとして、中には入れそうですか?」


 話題を変えてみると、リーベンさんが頷き返してくれました。


「その為に、私の部下を警備に配置してあります。それでも妨害があるようなら、王弟殿下からの許可証を預かっております。ですがこれはなるべく使わずに済ませた方が良いでしょう。」


 まあ、王弟殿下としても立場上表立って動き辛い色々があるんでしょう。


 それでも概ね味方になってくれていることには感謝ですね。

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