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 貴族街のキースカルク侯爵の王都屋敷の門を潜って通ると、屋敷の玄関で執事らしき人が出迎えてくれました。


「バンフィード様、お客様方、ようこそお越し下さいました。主人とお嬢様がお待ちです。どうぞお入り下さい。」


 バンフィードさんからの事前連絡はきちんと通っているようです。


 第三騎士団の3人は、キースカルク侯爵の屋敷の門までは同行してくれましたが、門前で別れて営所に報告に行くと言っていました。


 執事さんの案内で客間に通されて、まずはお風呂と着替えということのようです。


 他の皆さんを置いてメイドさんに別室に連れ出されました。


 浴室のバスタブに張られたお湯にゆっくり浸かって、全身くまなく磨かれてしっかり保湿やお手入れもして貰いました。


 ランバスティス伯爵家のメイドさん達にも劣らない熱意で着付けから髪結と、気付いたら鏡の前に着飾ったお嬢様が出来上がっていました。


 髪が入れ替わったのとレイナード譲りの少し吊り上がり気味だった目元が緩んで少し幼い印象になりましたが、基本ベースはランバスティス伯爵家固有のちょっとその辺にはいない程の美人さんなので、着飾ると更に引き立つ美少女の完成です。


 メイドさん達がキラキラした目で満足気に送り出してくれましたが、他の皆さんの待つ客間に戻って合流するのが何となく気が重いかもしれません。


 客間まで来ると、護衛についていてくれた様子のキースカルク侯爵家の騎士さん達がこちらを驚いたように見ている視線を感じます。


「扉お開けします。」


 そう上擦った声で言って客間の扉を開けて通してくれましたが、扉も開けられない程深層のお嬢様に見えたんでしょうか。


 不本意です。


 そんな微妙な顔のまま踏み込んだ客間では、バンフィードさんがアルティミアさんと話し込んでいて、それに時折テンフラム王子が言葉を挟んでいるようです。


「アルティミアさんお久しぶりです。」


 そう声を掛けつつ近付いて行くと、振り返った3人が揃って動きを止めました。


「・・・バンフィード、本当にレイカさんを好きになった訳じゃないのよね?」


 そんな念押しが入って、気が遠くなりかけました。


「それはない。」


「絶対に、違いますから。」


 バンフィードさんと返事が被ってしまいました。


「え?」


 聞こえなかったのかアルティミアさんが問い返すのに、ずいっと身を乗り出しました。


「バンフィードさんにとって私はただの魔力通電マッサージ器で、その効果がなければアルティミアさんに寄ってくる害虫ですから。」


 凪いだ目で言ってみせると、目を瞬かせたバンフィードさんに他2人が冷たい目を向けています。


「レイカ様、一体何のことを仰っておられるのですか? 私が貴女を生涯の主と決めたことがお気に召しませんでしたか?」


「ほら、アルティミアさんとモメるのも悪いし、今回の守護の要騒動が片付いたら、暫定護衛ももう結構ですから。」


 勢いを得てそう言い切ってみせると、バンフィードさんが目を眇めて真顔になりました。


「レイカ様? 全く話しが見えないのですが? 何か勘違いなさっているようですからはっきりと申し上げますが、貴女の能力、頭脳、神々の寵児という立場、それからこれから取り組んでいかれる予定の守護の要の修復作業、どれを取っても貴女がこの国にとってなくてはならない存在だと示しています。それなのに、貴女は護衛を側に置くことを拒否されるのか?」


「え? そういう話しでしたっけ?」


 何故かそれていく論点は、バンフィードさんとの会話がまたもや不成立になる予感がしますね。


「貴女には常時護衛が必要です。貴女にはそういう人なのだとご自覚を持って頂きたい。そして、貴女の護衛を誰かに譲るなど論外です。私のこの剣を捧げたいのは貴女だけなのです。」


「あーえっと? その剣を捧げるのはアルティミアさんへで良いんじゃないですか? そもそも、私の護衛が必要だとして、他に譲れないって、それこそ何故かちゃんと考えたことあります?」


 こちらもなるべく掘り下げて、バンフィードさんがきちんとした答えに辿り着くように誘導することにします。


「貴女は私の話しを聞いておられなかったのですか? 貴女という存在がこの国にとって大事なのだと。この国というのは、私自身やアルティミアや他にも私が大事にしているものの全てを含んでいる。それを私が何故人任せにしなければならないのですか?」


 思いの外真面目な方向から返事が返って来て、思わず納得しそうになってしまいました。


「えっと、それでもバンフィードさんが絶対自分で私の護衛にならなくても良くないですか? 他の誰かでも。」


「・・・レイカ様、私は騎士です。騎士は自分の主は自分で決めるものです。」


 そう確信を持って言い切ったバンフィードさんですが、それは話しが始めに戻っただけじゃないでしょうか?


「・・・はあー、分からないなぁ。」


 脱力しつつそう溢すと、テンフラム王子が吹き出して、アルティミアさんがにこにこ笑っているのが目に入りました。


「そうなの。分かったわバンフィード、貴方の好きになさいな。」


 遂には何故かアルティミアさんからそんな言葉がかかって、バンフィードさんがにこりと満ち足りた笑顔になりました。


「ありがとうアルティミア。」


 アルティミアさんに向けるその笑顔は、こちらに向けることのない甘さを含んだものです。


 それをアルティミアさんが理解しているなら、まあ良いのかもしれません。


 が、月払い予定の握手権は、その内回収してしまおうと心に誓いました。


「さ、気を取り直して。レイカさんこちらに座って? それにしても、綺麗な黒髪よね? これはレイナード様由来ではないから本当のレイカさんの色なのかしら? 大分印象が変わったわ。」


「ええ、髪はすっかり入れ替わったみたいで。レイナードさんの髪と比べるとそんなに髪質は良くないんですけど、私としては馴染み深くてちょっとホッとしますね。」


 正直に答えつつ向かいの椅子に座ると、うんうんと頷き返されました。


「レイナード様より目付きが優しくなって、それに背丈も可愛らしくなって、年齢よりも若く見えるのではないかしら? これは、周りが放っておけなくなるわね。その意味でも護衛は必要ね。バンフィード、その辺りも気を付けてお守りするのよ? それから、貴方自身も魔が差さないようにね?」


 そのむず痒くなる話題には頷きたくないところですね。


 寄って来る男性にはロリ好みの疑惑を確かめる必要があるかもしれません。


「それじゃ、レイカさんへのバンフィードの宣誓の話しはこれで良いとして、本題に入りましょうか。」


 口調と顔付きが改まったアルティミアさんと、明日からのことを相談しなければいけませんね。


「その前に、晩餐に呼ばれそうですね。」


 バンフィードさんがそう言った途端に扉が叩かれて、執事が晩餐の準備が整ったので食堂まで来て欲しいと伝えに来たようです。


「残念だけれど、本題は晩餐後お父様も交えてになりそうね。」


 そう言ったアルティミアさんは言葉通りに残念そうな様子で、侯爵よりも先に話を聞きたかったのかもしれません。


「そうですね。アルティミアさんにもお願いしたいことがあるので、是非一緒に聞いて下さいね。」


 そう前振りをしておくと、アルティミアさんの目が輝いたように見えました。

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