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立て続けに5人程解呪が済むと、流石に少しだけ疲労を感じました。
「レイカ様! お連れの方が来られたようですよ。」
神官さんが言いながら部屋に案内してくれたのは、テンフラム王子を伴ったケインズさんでした。
因みに、解呪風景を数回お見せしたところで、ソライドさん以外の神官さんには何故か様付けで呼ばれるようになりました。
「レイカ、お前ちょっと休め。」
寄って来るなり顔を覗き込んでそんなことを言い出したテンフラム王子には、目を瞬かせてしまいます。
「おい休憩だ。しばらく誰も連れて来るな。」
手近な神官にそう言い渡したテンフラム王子は、また直ぐにこちらを向きました。
「あの、そんな疲れて見えます?」
問い返してみると、テンフラム王子には肩を竦められました。
「魔力総量はまあ漠然とだが、魔力使用率は見える。目の中にこう、な。」
「は? 目の中に? 見えるものなんですか?」
そんな話しは初めて聞きます。
「ん? あー私の特技の一つだな。じゃなくてもお前、神殿前のあの騒ぎを見れば何処までやらかしたか分かるってもんだぞ。しかも顔も隠さず。」
苦い口調でお説教気味に始まって、肩を縮めるしかありません。
「もう隠す時間は終わりなんです。意図してやってますから大丈夫です。」
「目立つの好きじゃないんじゃなかったのか? これまでもそうやってなるべく隠れて行動してただろう?」
確かに、必要がないのに目立つのは好きじゃありません。
が、負けられない勝負に挑んでるなら、自分を前に出して隠すべきものを隠すことくらいしますとも。
「この勝負、負けられないので。」
「あーそうか。分かってやってるなら良いが、後々まで引きずって面倒も引き寄せるからな、覚えておけよ。」
何だかんだと心配してくれている師匠には感謝しておきましょう。
「心配しなくても、そろそろ後数人くらいで、どうしても今日解呪が必要な人は終わりだと思うんですよ。その後の相談事にも関わるので、これからの解呪の時側で見ててくれますか?」
「具体的には、何をしたい? 何を見ておいて欲しいんだ?」
こういう無駄のないところも流石ですね。
「いつか見て貰った起点の魔法陣ですけど、アレをどうにかしたくて。私以外の人でも破壊出来るように。」
「それは、お前の仕事か? 守護の要のこともあるんだろう? 抱え込み過ぎじゃないのか?」
そう指摘されると言葉に詰まりますが、出来ることをやらないのは怠慢じゃないかと思ってしまうのは、あちらの出身国のお国柄でしょうか?
「だって、色々利用する代わりに、出来ることはやるスタイルでいたいんです!」
「・・・絵に描いたように都合の良い人間だな? 心配になってきたぞ。全く手のかかる弟子だな。まあ、最終どうにもならなくなったら連れて帰れば良いから好きにすれば良いけどな。」
何故そうなるという結論が来ましたが、基本的に師匠としてしっかり面倒を見てくれそうでもあるので、流そうと思います。
「あ、神官さん。休憩終わりで良いので次お願いします!」
という訳で、早速次の解呪希望者を通して貰うよう頼んだのですが、左手をバンフィードさんに、右腕をケインズさんに掴まれてしまいました。
「もうしばらく休憩です。」
バンフィードさんの有無を言わさぬ低めの声が掛かって顔が引きつってしまいました。
「レイカさんは、ちょっと頑張り過ぎ。午前中は魔物退治で、午後は神殿で解呪。普通はそんな無茶はしないよ?」
ケインズさんにも眉を寄せてお説教されてしまいました。
「そですか? じゃ、魔力を使うのはちょっと休憩で、テン様魔法陣を破壊する方法について相談して良いですか?」
気を取り直してテンフラム王子に話しを振ってみると、微妙に苦い顔をされました。
「そうじゃないんだけどな。まあ良いか。あのな、もう一度しっかり見てみなきゃならないが、恐らくあの魔法陣は、何かに魔石の粉で予め描き付けたものを取り付けて効果を発動させる仕掛けになってるはずだ。」
「つまり、魔法陣を描いたベースがあるってことですよね? 魔法陣自体じゃなくてもそのベースを破壊すれば魔法陣の効果も消せるってことですか?」
確かにこれは、その通りかもしれません。
空中に魔石の粉で魔法陣を描くのは至難の業でしょう。
しかも、これだけの呪詛の基盤を古代魔法陣を描ける誰かが被呪者に直接描いた筈がないですからね。
「実物見てみれば基盤の素材が分かりますか?」
「そうだな。未知の素材という可能性もあるが、ある程度の予測は出来るかもしれないな。」
それならということで、休憩と聞いて戻って来ていたテュールズさんとザクリスさんに声を掛けてみることにしました。
「テュールズさんとザクリスさん、済みませんがこちらに来て貰えますか?」
呪詛の起点はテュールズさんは腕でザクリスさんは脇腹でした。
それぞれ時限凍結魔法が問題なく効いていて今現在は呪詛の再発はなさそうですが、起点に例の魔法陣を描いた何かが未だある筈です。
「お二人共、私が解呪して仮止めしてある呪詛の根元を見せて貰えませんか?」
もしかしたら呪詛のことは忘れてしまいたい気持ちもあるかもしれませんが、完全解呪されていないお二人には、まだ終わっていない話になります。
「はい。良いですよ。」
即答してくれたのはテュールズさんの方で、その場で腕を捲って見せてくれました。
テンフラム王子と2人でじっくりと起点を覗き込んでみますが、親指の爪程のサイズの丸い何かがあるのが分かるという程度です。
「うわ。虫眼鏡所望ですね。文字まで読み取るなら電子顕微鏡でも良いくらいかも。せめてスクショ取って二本指で拡大したい。」
「・・・何だそれは。」
テンフラム王子の呆れたような突っ込みは流しつつ、考え込んでしまいます。
「これ、どうやって作ってるんだろ。こんなの一個ずつ手描きなんか出来るはずないし。コピペ量産なんか出来ないはずだよね? 転写技術でもある? それとも金太郎飴方式とか? でもどうやって超薄スライスしてるの? あー、謎が増えた〜。」
「お〜い、戻ってこ〜い。」
目の前で手をひらひら振られて、遮られました。
「これじゃ目視じゃ分からないですよ。何が描かれてるのかも、どうやって量産してるのかも。」
少し膨れ気味に溢すと、テンフラム王子にふっと笑われました。
「素材は、分かったぞ。それからな、印章を使えば量産出来るんじゃないか?」
成る程という答えが返って来て、その意味にはゾッとするような気がしました。
「こいつは思った以上に厄介だな。その印章は恐らくな、物凄く手間暇かけて作り上げられたものだ。一体いつから誰が手掛けて来たものなのか。・・・覚悟しとけよ、暴くなら裏は深いぞ?」
ですよね。
渋々頷き返しながら苦い顔でもう一度起点に目を向けます。
今度は読み取りたいと願いながら目を凝らすと、文字が拡大して浮かび上がって来ました。
「第二の門と接続せよ。と、なるほど〜そういう構造ですかぁ。これはホント厄介。第何のゲートまであるんだか、てゆうか何処かに接続先ゲートがあるんだよね? そこに呪詛の指令があって流し込んでるんだ。」
「ほお。だが、2回目の接続は第二の門じゃないんだろう?」
確かにと思って更に目を凝らすと、その一番の指令の内側に、2回目以降は第三の門に接続、と描かれています。
そして、更に目を凝らしたところ、魔法陣の裏に素材自体に固有の作用のようなものが透けて見えました。
「あーえっと、貼り付いてそのモノの魔力を通わせ守れ、と。この素材ってそも何なんですか?」
「・・・・・・多分竜種の鱗だ。」
そう何処かじっとりした目で言われて、テンフラム王子の質問に答えていなかったことに気付きました。
「あ、えっと2回目以降は第三の門って描かれてました。」
「やはりな。竜種の鱗には元々、持ち主に貼り付いて守る性質があるんだ。それを、利用したんだろうな。」
流石魔法大国、やる事が徹底してますね。
「さて、素材と仕組みは判明したところで、これをどうするかだな。」
「まずは、王都の何処かにある可能性の高い門の捜索と、破壊ですね。これで、一先ず呪詛の発動を止められる筈ですからね。」
言って第三騎士団の皆さんに改めて目を向けてみると、目を瞬かせていました。
一から説明し直した方が良さそうですね。
それにしても、迷惑メールに悪質サイトへのリンクを貼って送り付けて来るようなこの仕組みは、ちょっと転移者の関与を疑ってしまいますね。
まあ、気の所為であることを祈ってますが。




