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「まず、神殿に解呪依頼に来られる方は、平等に順番通りにみることになっています。呪詛の進行具合や強さをみて、我々で何とか出来そうなものは他の解呪の出来る神官達と協力してこれも順番に行っていきます。」
ぐるっと見渡した室内の神官さん達はどなたもかなりお疲れ気味の顔をしてらっしゃいますね。
「ソライドさん。一先ず、二段構えの呪詛で亡くなった人の命の力は新たな呪詛の対価として流用されてるみたいなんです。だから、まず神殿に見えてる方の中で命の危ない方の解呪から行っていきます。」
「申し訳ないが、そこまで進んだ呪詛の解呪は我々では不可能だ。」
成る程、だから呪詛の対価の供給が途切れることがなくて、ここまで広がっていったということなのでしょう。
「今みえている方達の中で命が危ういと思える方の解呪は私が引き受けます。他の方は、申し訳ないですが本日は帰って貰ってください。そして、皆さんは一度休んだ方が良いです。」
「しかし、等しく神に救いを求めてやって来られた方々です。追い返すというのは。」
躊躇いがちにそう言い出したソライドさんに、首を振ってみせます。
「ダメですよ。このままじゃ解呪出来る神官さんがみんな倒れてしまいますよ。明日から新しい解呪方を行なっていくので、その為の準備の為にとか話し上手の神官さんに上手く説得してもらって下さい。」
「しかし、明日から本当に何とか出来る保証があるでしょうか?」
丁寧に返してくれましたが、はっきりと手段を説明しないことには信じ切れないのでしょう。
確かに、こちらもテンフラム王子にも相談に乗って貰って実現可能か検討する必要があります。
「では、これからとにかく重症者の解呪を私の方でしていくので、見学していて下さい。」
「はあ、それはお願いしたいところですが、どうやって命の危険があると見分けるのですか?」
そういえば、呪詛の帯がしっかり見えていないと、そこがまず分からないんでしたね。
「ノワ、イヴァンさん達と一緒に解呪希望の人達を見てきてくれる? イヴァンさん、ザクリスさん、テュールズさん、申し訳ないんですけど、ノワが指定した解呪希望者さんだけこちらに連れて来てくれませんか?」
肩から手のひらの上に移したノワを乗せて第三騎士団の3人の方に差し出します。
「我が君、魔人使いが荒いですよ?」
と、やっと姿を見せたノワに、第三騎士団の3人と神官さん達がざわ付きます。
「・・・魔人、ですか?」
驚いたようなソライドさんの言葉に、苦笑が浮かびます。
「ええ、私の契約魔人のノワです。かなり有能ですけど、発言がちょっと。まあ、気にしないで下さい。」
「・・・我が君、後でたっぷりお話ししましょうか。」
声音が低くてちょっと本気入ってそうですが、気付かなかったということで。
「いや、要らないかな? とにかくほら、有能なとこ見せて、働いてくる。」
言いながら、イヴァンさんの肩に乗せてしまうことにします。
物凄くおっかなびっくりなイヴァンさんには申し訳ないですが、宜しくと笑顔で送り出してしまいました。
「レイカ様、お一人で大丈夫なんですか?」
と、こそっと聞いて来るのは隣から離れないバンフィードさんです。
「そうですね。コルちゃんとノワにも手伝って貰うから、効率重視で何とかなる、人数に絞り込んでくれると良いんですけどねぇ。」
後半自信なげになってしまったのは仕方ないでしょう。
ただ、ウチの魔人様、そういうところは流石の優秀さだと思うんですよ。
と、名前を呼ばれたからか、コルちゃんが抱っこ紐から飛び降りて出て来ます。
「ああ、聖獣様ですか。」
ソライドさんがそう溢して、他の神官さんがコルちゃんに注目しています。
「ええ。大神殿では本当に神様との仲継ぎらしきこともしてくれたので、本当に聖獣様だったみたいですね。」
ここはそう宣伝も込めて明かしておくことにしました。
「そうですか。レイカ殿は、本当に神から遣わされた特別な寵児殿なのですね。」
そう敬虔な神官さんらしい様子で言われると背中がかなりむず痒くなってしまいます。
が、これからその線で一芝居打つ予定なので、慣れるしかないですね。
「そんな大層なものじゃないですよ。ですけどこれが、甚だ迷惑な人達が人為的に引き起こしたものだというのが、許せないんです。彼らの思惑は確実に捻り潰してやるつもりですから、賛同出来ることには協力して下さいね。」
にっこり笑顔で宣伝活動を完了したところで、早速最初の解呪希望者が運び込まれて来たようです。
扉を開けた途端に入って来た呪詛の真っ黒な帯に顔を引き締めます。
「レイさん! この人ヤバそうだ。」
運びながらイヴァンさんが言うのに頷き返します。
慎重にベッドに運び下ろす3人の後ろから手を翳すと、その手によじ登ったノワがぶら下がるように指に取り付きます。
右隣にはコルちゃんが、左隣にはいつの間にかジャックが控えています。
「素数分解、起点時限凍結。」
呪文と共に練り上げた魔力を呪詛にぶつけていきます。
最終発射指示が出る直前まで来ていた様子の呪詛はあっという間に立ち消えて、起点の魔法陣も凍結されたようです。
「いつもの方法で起点破壊出来るか試しとこうか。」
呟いて被呪者に歩み寄ると、起点の超小型魔法陣に手を触れました。
途端に弾けるように破壊された魔法陣は消失したようです。
「成功ですね。」
ノワの言葉に頷き返しつつ考え込んでしまいます。
「問題は、どっちかって言うと時限凍結魔法なんだよね。魔力消費も多いし。いっそその工程は省いて、1回目の解呪後の一時停止の間に直ぐに魔法陣を破壊する方法を用意する方が良いよね。」
「そうですね。魔法陣の破壊は聖なる魔法ではなく、一般魔法の方が良いかもしれませんからね。」
ノワとそんな相談をしていると、被呪者がはっと目を覚ましたようです。
「あ、呪いが、消えてる?」
呆然とした声にそちらに目を向けると、潤んだ目をこちらに向けられました。
「良かったですね。」
にっこり笑顔で微笑み返しますよ?
それから真顔に戻ってイヴァンさん達に告げます。
「はい。お見送り〜、次!」
それに惚けたようになっていた室内にハッとしたような空気が流れます。
「あはい!」
イヴァンさんが直立不動で返事をすると、ベッドの上の元被呪者さんを連れて部屋を出て行きました。
元被呪者さんがポツリと、聖女様と呟いていたのが聞こえて来ましたが、何でしょこれ本当にこっ恥ずかしいですね。




