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「ノワ。」


 こっそり肩口に呼び掛けてみると、肩を掴む小さな手の感触がありましたが、姿はどうやら見せないつもりのようです。


『我が君。ここでは姿を消しておきますね。それから、ここで無差別に解呪を始めたりはしないで下さい。暴動が起こりますよ?』


「だよね。何かこう、効率的でインパクトのある支援のし方ってないかな?」


 正直、王都の魔物退治も神殿での解呪も、それだけしていれば良ければ毎日繰り返せばその内そこそこの効果が上がって来ると思うのですが、今の最優先が守護の要の修復である以上、明日以降はこちらの手伝いは出来なくなってしまいます。


『それは、手間暇掛ければ、遠からず我が君の地道な解呪が敵方の呪詛の頻度を上回って、敵方の呪詛の供給源も尽きると思われますが。そうではなく、今ここでということですよね?』


 ノワも同じ結論に至っているようですね。


『・・・そうですね、常識的な方法では打つ手無しと言いたいところですが。昔大神殿で、流行病の治療に訪れる人々が押し掛けて飽和状態に陥って、苦し紛れに試みたことがあるのですが。』


 そう言ってこちらを見たノワは少し苦い口調です。


『まあ、結果として余り有効だったとは言い難くて、二度と試してみなかったのですが。』


 その慎重な前置きに目を瞬かせていると、ふっと苦い笑みを返して来たノワが目元を少しだけ緩めました。


『大神殿に病状進行を遅らせる時間操作魔法を掛けたのですよ。』


「ノワが?」


 それは物凄い消費の聖なる魔法だったんじゃないでしょうか。


『ええ、まだ若かったので、出来ることは手当たり次第にと思っていた時期でして。』


「よく1人で掛けようと思ったよね? 継続して魔力を注ぐ必要があったんじゃないの?」


 どう考えても後が怖い展開ですね。


『ええその通りですが、継続には神殿への参拝者に呼び掛けて四方に置いた起点の魔石への祈りを込めて貰うことにしました。それで、毎日注ぐ魔力量が随分削減出来ましたから。ただ、思った以上に維持が大変だったのは間違いありません。』


 それはそうでしょう。


『その時は、相手が伝染病だったので、収束を見極めるのが難しく。つまりやめ時が難しかったのです。ですが、今回の呪詛ならば、神殿の解呪が追い付くまでと限定出来るでしょう?』


 なるほど、それなら確かにちょっとした時間稼ぎに有効な気がして来ますね。


『ただ、二段仕込みの呪詛への対処が神殿で確立しないことには、それこそ我が君が手を掛けなければ終わりが見えないという状況に陥るでしょうね。』


 そこなんですよね。


 マルキス大神官の方ではその辺り、進展はあったんでしょうか。


「マルキスさんは何か言ってた?」


『いえ、色々と対策を練っていたようですが、未だこれという方法は見付かっていないようでしたね。』


 そこで八方塞がりになるんですよね。


「・・・いっそ、こちらも真似してみる? あっちの専売特許じゃあるまいし。ちょっと本気出しちゃおうか。」


『・・・何を企んでいるのやら。』


 半眼になったノワににこりと笑みを向けてから、ケインズさんに目を向けました。


「ケインズさん、急ぎでライアットさんと一緒にいる筈のテン様呼んで来てくれませんか?」


「え? 今ここに?」


 ケインズさんはこちらの話しはしっかり聞いていなかったようで、驚いたように問い返して来ました。


「はい。済みませんがお願い出来ますか?」


「良いけど。あの人はレイカさんの隠し札じゃないの? 今一緒に居るところを見られても大丈夫?」


 確かに、そんな話しをして別行動を取っていた訳ですが、ここで2人で実績を作っておくのは後々の為にも良いことなんじゃないでしょうか。


「そうだったんですけど、ちょっと状況を見て考えが変わりました。」


「分かった。直ぐに行って来るけど、くれぐれも無茶はしないで、気を付けて。」


 そう眉下がりに心配してくれたケインズさんに微笑み返します。


 ただ、ここは無茶してでも成し遂げる必要のある状況なのでお約束は出来ませんが、素直に頷きつつお見送りしました。


 程なく神殿奥の個室の扉の前で立ち止まった神殿関係者さんが扉を叩くと、中からややあって男性の声で返事がありました。


 開いた扉の向こうでは、数人の神官さんが協力してベッドに横になった人の解呪を行っていたようです。


 疲れ切った顔の神官さんが囲むベッドの上で、身を起こした男性の左腕辺りから、呪詛の帯が出来始めています。


 失礼して踏み込んだ室内で男性に向かって手を翳します。


「素数分解、起点凍結。」


 大分慣れて来たいつもの一時凌ぎ解呪呪文を唱えると、綺麗に呪詛が掻き消えました。


「え?」


「な!」


 複数の驚愕の声が上がりましたが、そのまま奥にいるソライド神官の元まで歩み寄ります。


「貴女は・・・」


「お久しぶりですソライドさん。レイカです。ただいま帰りました。」


 訝しむようにこちらを見返すソライドさんですが、瞬きと共に何かを受け入れたようです。


「驚きました。少しお姿が変わりましたね。ですが、魔力はお変わりない。そして、こんな解呪を出来るのは貴女だけだ。お帰りなさい、レイカ殿。」


 フォーラスさんから第三騎士団の人達を解呪した詳細の報告を受けていたのでしょう。


 ソライドさんには追加説明は必要なさそうです。


「一時凌ぎの解呪を施しておきました。後は完全解呪方が確立されたらまた来て貰えば良いと思います。」


「ありがとうございます。助かりました。」


 ソライドさんがお礼を言ってくれて、解呪された男性はこちらにチラチラと視線を寄越しつつも他の神官さんに促されて部屋を出て行きました。


「ソライドさん。これ、完全に手が回ってないですよね?」


「ええ、お恥ずかしながら。」


 そう正直に答えてくれたソライドさんの返事に、やっておくべきことが固まって来ました。


「これから夕方までってことでお手伝いに来たつもりだったんですけど、それだけじゃダメですね、これは。でも、明日以降は中々来れないかもしれないので、夕方までにこれから何とか出来るように形だけでも整えましょうか。」


「はい? 何か我々でも出来るような効率的な解呪の方法でも?」


 戸惑いがちなソライドさんの言葉に、にこりと笑い掛けます。


「構想はあるので、助っ人を待って何とか出来るように頑張ります。その前に、今の状況確認をしてもいいですか?」


「ええ勿論です。」


 まさかここまで神殿のことに踏み込むことになるとは思っていませんでしたが、これはノワに持って来て貰ったアレを使う時でしょうか。


 とにかく、時間を無駄にせず出来る事をしていこうと思います。

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