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第三騎士団で簡単な事情聴取の後、昨日の第三騎士団の3人とケインズさん、バンフィードさんと一緒に王都内に出没した魔物対応のお手伝いに向かいました。
第三騎士団の皆さんが退治に向かっている現場を回って、手が足りていない現場で魔法行使が効果的な場合だけお手伝いすることにしました。
数ヶ所そんなことを繰り返したところで、戻って来たハイドナーに行き合いました。
「レイカお嬢様! お待たせ致しました。」
そう言いながら差し出して来た第二騎士団のレイカ用の制服には、しっかりと光を受けて反射する石ボタンのようなものがさり気なく縫い付けられています。
思わず口元に苦い笑みが浮かんでしまいましたが、今日ばかりはハイドナーの抜かりの無いお仕事に感謝しなければいけませんね。
「ハイドナーありがとう!」
お礼を言ってから、フード付き上着を脱いで制服を羽織ります。
「ハイドナー、泊まってた宿屋に荷物引き取りに行ってくれる? この上着も一緒に纏めといて。」
「はい。畏まりました。」
返事して躊躇うことなく踵を返すハイドナーは、やはり昨晩の宿も把握していたようです。
「レイカさん、良いの?」
慌てたように問い掛けて来るのはケインズさんです。
フードを外したことについてでしょうね。
振り返ると目を丸くしている第三騎士団の3人と、バンフィードさんは軽く肩を竦めています。
「良いんです。ここからはこの制服で、宣伝活動ですから。」
にっこり笑顔で言い切って、張り切って次の現場に向かうことにしました。
という訳で、午前中一杯これでもかと魔物退治現場で惜しみなく魔法支援を行った結果、第二騎士団の制服を着た美少女が魔法で魔物退治をしているという噂が王都中に拡散されたようです。
この目立つ容姿をここで使わずしていつ使うという話ですね。
「レイ殿、宜しければ営所で昼食を如何でしょうか?」
第三騎士団の隊長さんが丁寧に声を掛けてくれます。
第三騎士団ではすっかり知名度が上がって、途中からは現場の責任者の人が好意的に扱ってくれるようになりました。
「ありがとうございます。でも、昼食は街中で食べようと思ってますから。」
「いや、凄い騒ぎになると思うが? 今回のレイ殿のご協力には上からも感謝の言葉なりがあると思うので、出来れば営所にお越し願いたいのだが。」
そう言ってくれた責任者さんに、にこりと微笑み返しつつ首を振りました。
「いいえ。これはやりたくても出来ない殿下の代わりにしてることですし。それ以外にも私の下準備の一つですから。」
そう答えると、責任者さんは首を傾げて微妙な顔付きになっていました。
「そうですか。では、上には報告しておきます。また午後からも活動されますか?」
「いえ。午後からは別の予定がありまして。また後日身体が空けばお手伝いに来ますね。」
その後日は、どうなるか分からない話しになりそうです。
「・・・そうですか。残念ですが、また是非ご一緒出来れば有難いです。第三騎士団の連中も士気が爆上がりになりますから。」
優しい顔付きでそう言ってくれた責任者さんにこちらも微笑み返します。
「はい。では失礼しますね。」
そのまま踵を返して歩き始めると、ケインズさんが隣に並びました。
「レイカさん、魔力は大丈夫? 疲れてるようなら何処か休む場所を探すよ?」
「大丈夫です。お昼ご飯食べたら、神殿に行ってみようと思ってるんです。」
そんな会話を交わしていると、バンフィードさんも隣に並びました。
「レイカ様、今日は早めに安全に休める場所を確保しましょう。」
「そうですね。今晩は、バンフィードさんに連絡を取って貰って、キースカルク侯爵のタウンハウスにお邪魔したいです。」
迷いなくそう答えると、流石のバンフィードさんも一瞬黙ってしまいました。
「・・・・・・。明日に備えて、ですか?」
「ええ。正攻法で打開が難しいなら、こちらも出来る限り外堀は埋めておきたいですからね。」
隠さずにそう返すと、バンフィードさんは少し目を眇めてこちらを見てから、ふうと溜息を溢したようです。
「レイカ様でなければ、アルティミアと侯爵家に近付く害虫は瞬殺するところですが。」
相変わらず怖い一言が来て、背筋が凍りそうになりますが、笑顔を努めて崩さないように頑張ります。
「バンフィードさん、私その内護身術でも学ぼうかな。」
さり気なく当てこすってみますが、バンフィードさんはキョトンとした目をしています。
「そんな必要が? 私がお側でお守りしますが?」
貴方から身を守りたいんですが、とは流石に言えないので、にっこりと無害そうに微笑んでおくことにしました。
「レイカさん、お昼はヒーリックさんの店に行く?」
ケインズさんがその微妙な空気を解すようにそう口を挟んでくれて、ホッとしつつそちらに乗っかることにします。
「えっと、ヒーリックさんのところにご迷惑をお掛けするのも何なので、何処か手頃な食事処ってありませんか?」
そう返しつつ、後ろから付いてきてくれている第三騎士団の3人にも振り返ります。
「大衆食堂で良ければ、ご案内出来ますよ?」
イヴァンさんご提案の店に向かうことにして、その道すがら、飲食店に寄って来るという虫型やらネズミ型などの魔物をちまちまと魔法で退治している内に、かなりの衆目を集めていたようです。
入って行った食堂では一斉に振り返られて、店主さんが揉み手で注文を取りに来た程でした。
そんなちょっと落ち着かない昼食を済ませてから向かった神殿は、王都を出る前にシルヴェイン王子と訪れた時とは比べ物にならない程、参拝者で溢れていました。
その中に明らかに命に関わりそうな呪詛の絡んだ人達も混ざっていて、その篩い分けをする余裕もない神殿の様子には苦い気持ちになってしまいました。
参拝者達の並ぶ列から外れて神殿の中を目指すと、慌ただしく動き回っている神殿関係者がこちらに気付いて駆け寄って来ました。
「神殿の者以外はこちらへは立ち入り禁止となっております。参拝者の方は列にお並び下さい。」
「いえ私、参拝者ではありません。フォーラスさんとファデラート大神殿へ旅に出ていましたレイカと申します。ソライド神官にお会い出来ませんか? 私、解呪のお手伝いが出来ると思うんです。」
そう答えた途端に、神殿関係者の男性は動きを止めて、こちらに訝しげな視線を返して来ます。
「ウチのフォーラス神官ですか? 国からの要請で、ファデラート大神殿に向かっていた?」
「ええ。目的を達成して、ただ諸事情により私だけ先に帰って来ました。ソライド神官にお会い出来れば身元保証をして貰えると思います。」
それでも迷うように視線を彷徨わせていた神殿関係者さんですが、チラチラと何度かこちらを確認してから、漸く一つ頷き返しました。
「ソライド神官は今解呪依頼の参拝者の方の対応をされていますのでご案内します。」
案外あっさりと通して貰えるようでホッとしましたが、それだけ余裕がないということなのでしょう。
案内に従って入って行く神殿の中は、かなりの混乱状態です。
急ぎの訴えをする人々の列を横から追い越して行くと、こちらを指して声高に怒声を飛ばして来る人達も居て、それをバンフィードさんやケインズさんを始め第三騎士団の3人も酷くなると間に入って庇ってくれました。
「酷い状況ですね。」
案内してくれる神殿関係者さんにそう話し掛けてみると、疲れたような笑みを返されました。
「ええ、もう。正直に申し上げて限界を超えています。治療師や解呪師達も倒れる者さえ出始めていて。」
そんな話しを聞いてしまうと、当初の神殿で解呪を手伝ってみて、という程度では焼石に水だという気がして来ました。




