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「・・・出戻り?」


 第三騎士団の営所で呆れたようにぽそっと溢しつつ出迎えてくれたのは、昨日も顔を合わせたケミルズ隊長です。


「な、何のことやら。」


 フードの下ですっと視線を逸らしてみると、溜息が返って来ました。


 連行して来た現場責任者さんは、こちらの事情や昨日の脱出劇は知らない方のようで、このやり取りにキョトンとした顔をしてらっしゃいますね。


「あー、それじゃ。通りすがりの魔物と仲良しのお嬢さん、一応事情伺いましょうか。」


 という訳で思いっきりやる気なく始まった事情聴取ですが、開始数分後には取り調べ室が手狭になる程、追加来場者がありました。


「で? どうやって竜種手懐けたんだって? 揃って王都の外まで散歩に行ったらしいな。」


 扉を開けながら問い掛けて来たコルターズ隊長はケインズさんのお父さんマーシーズさんの隊の隊長さんです。


 そのコルターズ隊長、早々に連行してきた隊員さんをもう良いからと部屋から追い払ってしまいました。


「揃ってって、そんなぞろぞろ出て行ったんですか?」


「ああ、な。門から大人しく4.5匹出てったらしいな。」


 これにはもう乾いた笑いしか起こりませんね。


 とそこへ。


「第一のリーベンだ、失礼する。」


 昨日しっかりお世話になった王弟殿下に繋がるバンフィードさんの元上司リーベン副隊長が入って来ました。


「別件で朝から出掛けて来たら、騒ぎを見掛けてな。バンフィード、あれは昨日の内に始末出来なかったのか?」


 あれ、というのはやっぱり襟巻きトカゲなポチのことでしょうね。


「レイ様がペットにされたので、遊んであげていましたが。目の前でペットに手を掛けて泣かせるのも寝覚めが悪いので。」


「あー、それはしょうがないな。やるなら見てないところで一瞬で始末しなければな。」


 そんなどうしようもなく不穏な会話が繰り広げられているところに、また扉が開いて、慌てて入って来たのはケインズさんでした。


「レイ、さん。ごめん、説得に失敗してさっきお一人で。」


「待て、そうなる気がしたからお迎えに伺ったのに、今向かわれたところか?」


 そのケインズさんにぐるっと瞬時に振り返ったリーベンさんが食い気味に詰め寄っています。


「えっと。もう少し情報収集してからって昨日話してたじゃないですか。」


 シルヴェイン王子とは、帰る前にそういう話しで落ち着いていたと思っていたのですが。


「ああ、それは。レイカさんを帰す為の方便だったみたいだ。今朝起きたら、きっちりお支度されてて。やっぱり第二騎士団ナイザリークが無力化してて、王都の魔物討伐にも参加出来てないことに責任を感じてらっしゃるみたいだった。自分はこれ以上逃げ隠れせず、出頭するから、俺にはレイカさんを頼むって。」


 ケインズさんがそれは言いにくそうに事情説明してくれましたが、確かにシルヴェイン王子の性格なら現状を知ったらそうとしかならなかったでしょう。


 それを敵に利用されていそうで、堪らない気持ちになってしまいますね。


「リーベン副隊長、今すぐ追い掛けて、殿下を真っ直ぐ王弟殿下のところまで連れて行って貰えませんか? 晒される前に、せめて王弟殿下には話しが出来るようにして欲しいんですけど。」


 リーベンさんに頼み込むと、深く頷き返されました。


「分かった。それじゃ、貴女も一緒に行こうか。」


 そう当たり前のように続いた言葉に、一瞬反射的に頷きかけましたが、ん?と顔を上げました。


「行きませんよ? 私はまだやることありますからね? ところで、エダンミールの援助隊って、到着がいつになるか連絡ありました?」


「・・・一筋縄ではいかないか。あー、エダンミールの使者殿は、明日到着と今朝方連絡があったそうですよ。」


 油断も隙もないリーベンさんですが、エダンミールの件は隠さず教えてくれましたね。


「明日ですか。じゃあ、持ち時間は今日一杯ってことで、張り切って頑張りましょうかね。」


 そう呟いてみると、リーベンさんにじっとりした目を向けられましたが、気を取り直したのか肩を竦めて踵を返すと、挨拶代わりに手を挙げて部屋を出て行ってしまいました。


 それとすれ違うように、今度はマーシーズさんが入って来ましたが、これまた懐かしい顔がくっ付いて来ています。


「レイカお嬢様!お待たせ致しました! 貴女の従者ハイドナーが参りましたからには、もう万事ご安心下さい!」


 とまあ、一つも安心出来ないキャッチコピーを声高に叫びつつ近付いて来るハイドナーは、目の前に来る直前に立ちはだかったバンフィードさんに遮られました。


「レイ様、これは?」


「うん? 元々レイナードさんの従者だったハイドナー。」


 端的に紹介しておくと、バンフィードさんの眉がぴくりと上がりました。


「ランバスティス伯爵家に付けられた従者ですか。要りますか?」


 これまた端的に返してくるバンフィードさんが微妙に怖いです。


「え?要りますかって。まあ、私付きの従者なので。ブラック企業並みに酷使なおにー様に投げ返すのも可哀想だし。」


「・・・そうですか。仕方ありませんね、受け入れましょう。」


 いや、ちょっと待とうか。


「あの、ね。何故にバンフィードさんに受け入れ許可が??」


 その問い掛けには、心底意味が分かりませんと首を傾げられましたが、そんな貴方がこちらは分かりませんよ。


「あー、まあ良し。深く考えるのやめよ。ハイドナー元気だった? ランバスティス伯爵家の皆さんは?」


「勿論、皆様お変わりございません。私のことまでお気遣い下さるとは、流石はお優しいレイカお嬢様。このハイドナー、レイカお嬢様のお戻りを今か今かとお待ち申し上げておりました。」


 感極まったように両手を握って目を潤ませつつ言うハイドナーに、若干身を引きつつ、引きつった笑みを返してしまいました。


「そ、そっか。良かったわ。ところで、ハイドナーはお父さんから言われて私のところまで来たの?」


「はい。お嬢様がお戻りの一報は聞いていたのですが、お邪魔をしてはならないということで、昨日一杯は決して迎えに行ってはならないと厳命を受けておりまして。ですが、昨晩王弟殿下とお嬢様が接触されたとお聞きしまして、私が密かにお側に上がってお助けする許可を頂きました。」


 それにしても、何故誰も彼もこちらにお世話になっていることを知って駆け付けて来たのでしょうか。


「ケインズさんもハイドナーも、どうして私がここに居るって知ってたの?」


「ああ、それは。リーベン殿を通して王弟殿下より団長に、レイカ殿が街中に滞在される間の連絡係として私が指名されたからですよ。」


 そう答えたのは何とマーシーズさんでした。


「はい? いつの間に。」


「ウチからレイカ殿に付けた3人の統括と、殿下のお側に付いていたケインズの動向も見守るようにと。昨日お話しを頂いていたのですよ。」


 成る程、一先ず時間をくれた代わりに監視もしっかり付けられていたという訳ですね。


「そうですか。まあ、良いんですけど。それじゃ、今日一日遠慮なく動くことにしましょうか。」


 そう溢してから、ハイドナーに目を向けました。


「ハイドナー、早速だけど頼みたいことがあるんだけど。」


「はい。何なりとお申し付け下さい!」


 即行で返ってきた返事に小さく苦笑してから手招きします。


「宿舎の私の部屋から、急ぎで第二騎士団ナイザリークの制服を持って来て欲しいの。あ、それからあれちょっと地味だから、ほらレイナードさんの時みたいに宜しく。」


 目配せしつつ頼むと、ハイドナーは直ぐに気付いてくれたようで、それは嬉しそうな笑顔で大きく頷き返してくれました。


 やっぱりあの小細工はハイドナーが手を加えたものだったようですね。


 全く困った従者です。


「あとそれからね。これは明日でいいから、こっそりお願い。」


 その中身はハイドナーの耳元に口を寄せて内緒話しを囁いておきました。


「はい、お任せ下さい。必ずやこのハイドナー、お嬢様のお役に立ってご覧に入れます。」


 力の込もったハイドナーの返事に期待をしつつ、大慌てで部屋を出て行くハイドナーを見送りました。

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