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「レイさん! ご無事でしたか?」


 宿に戻ったところで待ち受けていた様子の第三騎士団の3人が迎えてくれました。


「ああ、うん。色々ありましたけど、結果大丈夫でした。」


 そんな要領を得ない返答をしてしまいましたが、とにかく疲れましたね。


 バンフィードさんと2人で戻った宿は、警備上の問題で、5人まで宿泊可能な部屋一つで確保してあります。


「食事は済ませましたか?」


 そうザクリスさんに問われて、バンフィードさんがお弁当を取り出しました。


「結局食べる暇がなかったので、持ち帰りしています。」


 そうなんです。


 せっかく出して貰ったミンジャーの唐揚げとエールですが、リーベンさんがどんどん重い話に持って行くので、口にする暇もなくシルヴェイン王子の様子を見に行くことになりました。


 帰りにミンジャーの唐揚げ含め、料理人さんが色々詰めてくれたお持ち帰り料理を貰って来たのですが、エールはお預けになってしまいました。


 今こそ缶ビール召喚の魔法を覚えるところじゃないかと、ミルチミットからさっさと禁書を強奪したい衝動に駆られたことは内緒です。


 あの場で別れたライアットさんは、毎朝王都の外でイースとエールの面倒を見てくれることになりました。


 テンフラム王子は念の為こちらとは一緒に行動せず、守護の要修復開始の日まではライアットさんと一緒に過ごして貰うことになっています。


 ケインズさんはあのままヒーリックさんのところに潜伏しつつシルヴェイン王子の側に付いていて貰うことになりました。


 シルヴェイン王子自身は、騒ぎの全貌を知って、直ぐにでも王宮に帰ると主張していましたが、それを身体が元通りになるまではと皆んなで押し留めた形でヒーリックさんのところにもう暫く置いて貰うことになっています。


 エダンミールの援助部隊が到着するまで後数日、恐らく同じくらいのタイミングで強行軍を組んでくれている後発の皆さんも戻って来る筈です。


 それまでにシルヴェイン王子のこれからの行動方針の決定と、守護の要の直接の下見くらいは済ませておきたいところです。


 シルヴェイン王子の監禁先の特定と現場確保は第三騎士団の皆さんにこっそりそれとなくお願いしようと思います。


 ザクリスさん達が食事出来るスペースを作ってくれている間に、その3人の様子に目を向けました。


 3人は、こちらがシルヴェイン王子を救出して匿っていることは知りません。


 彼らが信用出来ないという訳ではありませんが、これから話すシルヴェイン王子の監禁先についての情報は、こちらの切り札でもあります。


「イヴァンさん。お願いしたいことがあるんですけど。」


「あ、はい。何でも仰って下さい。」


 無邪気に問い返してくれるイヴァンさんには、危険が降り掛かるかもしれないと思えば申し訳ない気持ちも湧きますが、ここは割り切ろうと思います。


「今日これからか、明日朝が良いか分かりませんが、目立たないように営所に戻って、団長様に話してきて欲しいことがあるんです。」


 そう話した途端にバンフィードさんが強い視線を向けて来るのは、また何をやらかすつもりだっていうことなんでしょう。


「あの方が監禁されていた場所のザックリした情報があって、その場所をこっそり特定して現場跡を押さえておいて欲しいんです。」


 そう答えた途端に、皆がハッとした目でこちらを振り返りました。


「・・・レイ殿。では、あの方を敵の手から救い出したのは、やはりレイ殿だったのですね?」


 テュールズさんが改まったようにこちらに問い掛けて来ました。


「やはりというのは?」


 こちらも気になって問い返すと、ふっと微苦笑が返って来ました。


「レイ殿が王都を離れてから、第三騎士団では魔王信者共の根城と思われる場所の踏み込み捜査などを定期的に行ってたんですが、守護の要の事件があった日、突然数ヶ所そんな場所の通報があったんです。」


 それは、敵さん方のご都合によるタレコミだった筈です。


「我々はそれに従ってその数ヶ所の一斉捜査を行ったんですが、そこでどうにも妙な事が判明しまして。」


 小首を傾げつつ先を促すと、テュールズさんも頷き返しつつ難しい顔になりました。


「通報のあった3ヶ所の内、2つには、シルヴェイン王子の魔力の痕跡がほんの僅か確認出来たんですが、残りの1つには全くなく、その代わり、そこにだけ相当規模の大きな魔法装置が構築されていた痕跡があったんです。ウチの見立てでは守護の要の破壊に関わりがある魔法装置がそこにはあったんじゃないかと。」


 成る程と思うと共に、本当に間一髪間に合ったのだと確信出来ました。


 本当ならそこで魔力枯渇寸前で気絶したままのシルヴェイン王子が発見されて、守護の要破壊に関わった確たる証拠になる筈だったのでしょう。


「・・・そうですか。じゃ、現場は恐らく確保済みと。見に行って確かめておきたいところですけど、今は自粛しときましょうか。それなら、さっきの話しは忘れて貰って。北の方に何かの大量虐殺を行った施設があるみたいなんです。そこには心当たりありますか?」


 なるべく冷静な表情を心掛けて話しを続けますが、これまた全員が顔を顰めてしまいました。


「大量虐殺?」


 ザクリスさんの言葉に、こちらも嫌な気分になりながら頷き返します。


「呪詛には命の対価が必要ですが、どうやらその為の施設のような口振りでした。」


「・・・レイ殿。それは、あの方を救われた現場で仕入れた情報ですか? もう一度、ウチの団長にその辺を詳しく話して頂くことは?」


 ザクリスさんが真面目な表情で慎重に問い掛けて来ました。


「後日、ある程度事態が進んでからならば勿論知っていること全てをお話しします。ただ、あの方を救い出した時の私は、普通の状態ではなかったので。今はその方法や詳しいお話しはまだしづらいんです。」


 あの時のことと、シルヴェイン王子救出の真相は、こちらにとって切り札の一つでもあります。


「・・・うーん。よく分かりませんが、いずれは全てを明らかにしてくれるということですね? それなら、北のその胸糞悪い施設を早急に捜索してくれるように上に訴えてみます。」


 テュールズさんが引き継いでくれて、話しはついたようです。


「では、気を取り直して夕食にしましょうか?」


 バンフィードさんが和らげた表情と声音でそう言って、すっと手を取って食卓に導かれました。


 ヒーリックさんのお店の例の料理人さんが詰めてくれた料理は、蓋が取られて美味しそうな折り詰め弁当のように見えます。


「美味しそう!」


 隣で未だに手を握りっぱなしのバンフィードさんから片手を抜き取って食事を始めることにしました。


 ミンジャーの唐揚げを含む数種の揚げ物料理に、青菜や木の子の野菜炒めとウインナー、オムレツのようなもの、茹でたそら豆のようなもの、というラインナップでしたが、かなり豪華なお弁当です。


 味もやはりどれも凄く美味しいと感じる絶妙な加減ですが、これはもしかしなくとも、料理のベースに何か特別に出汁でも使っているんじゃないでしょうか。


 第二騎士団ナイザリークの食堂で一時期色々と料理改革に取り組んでみましたが、こちらの料理には特定の出汁が使われている形跡はありませんでした。


 鶏がらでスープをとる文化はあるようですが、煮込み料理以外に出汁を入れる作り方はしていなさそうです。


 これは、マユリさんと目論むあちらの料理再現計画に大きな布石になるんじゃないでしょうか。


 思わず拳を握っていると、雑談をしていた第三騎士団の3人とバンフィードさんには怪訝そうに首を傾げて見られていたようでした。

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